第五十一話 ぼっちと友達⑥
「気にしないでくださいねアリスちゃん。ここぞとばかりに悪態をつくなんて、どうせ照れ隠しに決まってますから」
「奈々衣さん?なんかそれっぽくなるからやめてくれる?」
奈々衣の言葉を聞いて、牧村が追従する。
「確かに照れ隠しだろうな。さっきまで國乃がこけたことなんてひとっ言も口にしてなかったし。なんなら『三位か。へへ、上出来じゃねぇか』って言って嬉しそうに鼻かいてたし」
「俺そんなこと言った?言ってないよね?第一『へへ』なんて笑ったこと人生で一度もないんだけど?」
「どうなんだ?奈々衣ちゃん」
「そうですねぇ。兄さんは昔から本当に嬉しい時は『へへ』って言いながら江戸っ子みたいに親指で鼻を擦る癖がありますから、きっとそれです」
「そりゃまたクセのある癖だなぁ」
「ねぇよそんな癖。堂々と嘘つくんじゃない」
そんな俺たちのやり取りを見て、アリスは笑顔を見せた。
そんな中、ふと視線を感じて見てみると眞城と目が合う。
怒っているような、観察しているような、推し量るような、そんないかにも意味ありげな視線だった。
「では、お昼ご飯にしましょうか。アリスちゃん、手伝ってもらえますか?」
「はい、もちろん」
奈々衣のその一言で場が動き出すと、眞城は俺から視線を外して適当な場所に座る。
そんな眞城の様子に居心地の悪さを感じながらも、俺も奈々衣の手伝いをすることにした。
―――――
午後の競技が始まった頃、後ろから声をかけられる。
「ちょっと顔貸せ」
声の主は眞城で、俺が反応したのを見るなり返事も聞かずにさっさと歩いて行ってしまう。
陣地から離れた人気のない校舎の陰まで来ると、眞城はいつものように腕を組んで立つ。
その表情には明らかな苛立ちが滲んでいた。
「それで、何の用だ?」
「あんた、あいつのことどう思ってんの?」
少しの間も置くことなく、単刀直入に聞いてくる。
眞城の言うあいつとは間違いなくアリスのことだろう。
しかし、相変わらず言葉が足りておらず何を聞きたいのかはわからない。
「どういう意味だよ。大体、なんで今そんなことを……」
「いいから答えろ」
「……悪いけど、お前が何を言いたいのかわからない。何かあったのか?」
眞城の言葉はいつも足りていないが、意味のないことは言わない。
さっきから……というか、午前中に保健室から帰ってきてからずっと何かを考え込んでいたようなので、おそらくそのことと関係があるのだろう。
さすがに中身まではわからないが。
眞城はしばらく黙ったままだったが、ポツリと零すように言った。
「あいつが……國乃が、あんなこと考えてたなんて知らなかった」
「あんなこと?」
「あんたは知ってたんでしょ?國乃の夢のこと」
アリスの夢。
友達を千人作ること。
タイミング的に、おそらく保健室でアリスから聞いたのだろう。
「……ああ」
素直に頷くと、眞城は殊更厳しい視線を寄越した。
「じゃあ、なんであんたはあいつの友達になってやんないの?あいつの一番近くにいるのはあんたでしょ?」
「…………」
なんと答えるべきなのかわからなかった。
明確な答えはある。
でも、それを口に出そうとは思えなかった。
「別に、俺がアリスの友達にならなくたって夢は叶えられるだろ」
「友達の多いアタシが友達になれば叶えられるって?」
「……それは」
「全部聞いた。あんたが國乃と関わるようになってからのこと、全部ね」
まさかアリスがそこまで眞城に話しているとは思わなかった。
逆に言えば、眞城のことをそれくらい信用できる人間だとアリスが判断したということでもある。
最近の眞城と話しているアリスを見れば、確かにそう思っていてもおかしくはないと思えた。
実際、眞城はとてもいい奴だと思う。
言葉もきついし態度も酷いが、実直で嘘をつくことができない、優しい奴だ。
だからこそ、話を聞いた眞城がこうして怒るのも無理はない。
「殴られる前に言っとくけど、お前を利用しようとしたわけじゃない。アリスは本当に……」
「言われなくてもわかってるわよ。そんなことを聞きたいんじゃない」
なぜアリスと友達になってやらないのか。
眞城はただその一点を聞きたいのだろう。




