第五十話 ぼっちと友達⑤
体育祭の日はグラウンドで昼食を取ってもいいことになっている。
グラウンドの端っこの木陰にシートを広げると、疲労感がどっと押し寄せてきて、そのまま地面に寝転がった。
服が汚れないようにするためだけの薄いシートなので、下にある小石が背中に当たってあちこち痛みが走るが、どかそうなんて気も起きなかった。
「お疲れさん」
俺の隣に腰掛けた牧村は、ご愁傷さまとでも言いたげに苦笑いを浮かべる。
「助かったよ。牧村がいなかったら今頃クラスメイトに押しつぶされてた」
よく知りもしないクラスメイトがわらわらと押しかけてくる様はちょっとした恐怖だった。
かといって順番に来られても困るので結局近寄らないでほしいのは変わらないのだが。
ボッチは放っておかれてこそボッチなのだ。
「大体、クラスの奴は俺達がペアなの知ってただろ」
「元々織羽志は世話焼きだと思うけど、今回はちょっと過保護が過ぎたな」
「ビリになるわけにいかなかったんだから仕方ないだろ」
「わかってるさ。そのおかげで三位になったんだしな。でも知らない奴等からしたら相当仲良さげに見えたんだろ。しっかし、知ってはいたけど、ただ走っただけでこんなに話題になるんだから、ほんと國乃は大人気だな。いい意味でも、悪い意味でも」
すると牧村は遠くを見ながらため息を吐いた。
「國乃は存在自体が異次元だからな。特にあの容姿は、妬ましいって思う奴らは学年問わずわんさかいる。怖いもんだぜ、嫉妬ってのは。気になる異性が取られそうって思ったときなんか特に。蹴落とすために、あることないこと言い出して……」
途中まで口にして、何か嫌なことを思い出したのか苦い顔をして言葉を切った。
もしかするとそういった相談を受けたことがあるのかもしれない。
「ともあれ、しんどくなったら言えよ。できることはするからな」
「別に何かされるわけじゃないし大丈夫だ。でも、ありがとう」
「ナカーマなんだから当然だろ?」
「ナーカマじゃなかったか?」
「どっちだっていいさ」
そう言って爽やかに笑う牧村を、俺は心の底からイケメンだと思った。
少しして、奈々衣が俺たちのいるところに向かって歩いてくるのが見えた。
お昼は眞城と牧村を含めたみんなで食べようという話をしていたので、大きめの重箱を抱えている。
牧村に軽く挨拶をしてから重箱を脇に置くと、心配そうな顔を浮かべて俺の体を見てくる。
「怪我の方は大丈夫でしたか?」
「大丈夫だ。アリスはまだ保健室で治療中だけど、すぐ戻ってくると思う」
「そうですか。よかった」
ふぅと息を吐きだした奈々衣は心底安心したようでほっと笑みを浮かべると、どこか興奮した様子で捲し立てる。
「みなさん、とっても格好良かったですよ。眞城さんは一位、牧村さんは二位、兄さんとアリスちゃんは三位で、大活躍ですね。特に兄さんとアリスちゃんの二人三脚、最下位からの逆転劇は感動しちゃって思わず涙が……って、兄さん?なんでそんな優し気な目で見るんですか?」
いつも通りの奈々衣の反応に心から癒される。
さっきまで嫌な気分だったせいか二割り増しで癒された。
それは牧村も同じだったようで、奈々衣を見ながら遠い目をしている。
「全人類が奈々衣ちゃんみたいに純粋で優しい心を持ってたら、争いなんて起こらないんだろうなぁ……」
「そうだな……」
「あの、私は一体どうしたら……」
すると、何かに気付いたように牧村が手を挙げた。
「お、ましろ。意外と早かった……な?」
牧村の視線の先には、いつの間に戻ってきたのか眞城がゆらりと立っていた。
明らかに様子がおかしく、顔には暗い影が落ちていて表情は伺えないが、よろしい気分でないことは間違いない。
そんな眞城の後ろにはアリスの姿もあり、多少疲れは出ているようだが、二人三脚を終えた時の落ち込みようからはいくらか回復しているように見えた。
そんなアリスに奈々衣が駆け寄る。
「もう大丈夫なんですか?」
「ちょっと擦りむいただけだったので。ご心配おかけしました」
そう言って奈々衣に微笑んでから、俺を見る。
「織羽志さんも、色々とご迷惑をおかけしました」
素直に頭を下げるアリスの態度が妙に気持ち悪く、俺はしっしっと手を払って答えた。
「全くもってその通りだな。お前が出す足を間違えたばっかりに、俺がどれだけ辛い目に遭ったことか」
「兄さん……」
「織羽志……」
失望したような目を向ける奈々衣と、可哀そうなやつを見るような目を向ける牧村。
完全アウェーな状況が出来上がる。




