第四十九話 ぼっちと友達④
ひとまず保健室に向かい、こけた時にできた傷を保険医に消毒してもらいながらアリスが落ち着くのを待った。
必死に頑張っていたからこそ、その落ち込みようは今まで見てきたどれよりも深いようで、アリスは何も言わずにずっと俯いていた。
先に治療を終えた俺が水でも飲んで一息つこうと保健室を出ると、眞城と牧村が歩いてくるところだった。
俺に気付いた眞城は開口一番に聞いてくる。
「怪我は?」
「俺もアリスもただのかすり傷だ。後の競技も問題ない」
「そう。あいつは?」
「まだ中で手当てを受けてる」
聞くなり、眞城はずかずかと保健室に入って行こうとする。
「おい、今は」
「話したいことがあんのよ。入ってくんな」
問答無用で扉を閉められて、その場に残された牧村と苦笑いを浮かべるしかなかった。
壁に寄りかかりながら、牧村が口を開く。
「やったじゃんか、三位。こけた時はどうなることかと思ったけど、走り始めたらいつもの調子だったから安心した。いい走りだったぜ」
ストレートに賛辞をくれる牧村に肩を竦めつつ、問いかける。
「何かあったのか?」
すると、牧村は大きくため息を吐いた。
「まぁ、國乃のことでな。こけたとき、やたらと囃し立てる奴が多くてさ。相当頭に来たみたいだ」
遠くの俺にすら聞こえてきたのだから、陣地にいた眞城にはなおさらよく聞こえただろう。
「それで心配になっていてもたってもいられずに来たってわけか」
「そのとおり」
「いい奴だな、本当に」
「気に入った奴にはとことん付き合うからな、ましろは。その代わり、気に入らない奴はとことん嫌うけど」
含蓄のある言葉に何も言えなかった。怖いなぁ眞城さん。
「とりあえず先に戻ろうぜ。ここにいてもできることないし」
今の眞城にならアリスを任せても大丈夫だろう。
話したいことがあると言っていたし、しばらく二人にした方がいいかもしれない。
牧村の言葉に頷いて、俺たちは先にグラウンドへ戻ることにした。
―――――
嫌な空気だった。厳密に言えば俺にだけ嫌な空気だが。
少なくない数の生徒が俺を見ながらこそこそと話をしていたり、指をさしたりしている。
自意識過剰で済ませられれば良かったのだが、さすがに無理だった。
理由は当然、さっきの二人三脚だろう。
そもそも二人三脚で男女ペアは多くないので邪推をされやすいというのもあったが、こけた時に顔に触ったりもしたので変な噂でも流れているのかもしれない。
こうなることはアリスと走ることになった時点で覚悟していたが、実際にやられてみるとかなり辛いものがある。
心がざわざわしてしょうがない。
自分の預かり知らないところで何かを言われているというのは、やはり気分がいいものではなかった。
クラスの陣地に戻るとそれはより一層強くなった。
これまで話したことのないクラスメイトがあれこれと話しかけてきて、勝手に話を大きくして盛り上がる。
中傷的な事を話している奴がクラスの中にいなかったのだけは幸いだったが、否定してもあしらっても点いた火は一向に消えそうになかった。
嫌だなぁ辛いなぁと思っていると、
「待て待てお前ら、織羽志と仲が一番いいのは俺だぜ?なんせ、ルィルェーで一緒に走るナーカマなんだからな」
「何それ、意味わかんないんだけど。ていうかルィルェーって何?」
「リレーだよリレー!ボケを解説させんな恥ずかしい!」
「それにナーカマて。お前らが話してるとこなんて全然見たことないけど」
「俺と織羽志の間には言葉なんてものはいらねぇんだ。なんせマブだからな、マブ。気持ちで通じ合ってんだよ。ちなみに國乃ともマブだぞ。ましろは違うけど」
「ましろちゃんだけ仲間外れとか洋平酷ーい」
そんな感じで牧村が場を乱してくれたので徐々に話の中心は逸れていった。
しばらくすると、午前中の競技終了のアナウンスが流れる。
クラスメイトとの話もそこそこに切り上げて、俺と牧村はその場を後にした。




