第四十八話 ぼっちと友達②
ホームルームで出席を確認した後、早々にグラウンドに移動する。
各々の学年、クラスに割り当てられた陣地に移動してからしばらくすると開会式が始まり、変わり映えのない校長の挨拶や体育教師の競技上の注意、生徒の選手宣誓の後、すぐに競技が開始される。
最初は学年ごとの短距離走だ。
知り合いで短距離走に出るのは百メートル走の眞城と四百メートル走の牧村だけ。
最初に呼ばれたのは眞城で、クラスメイトの熱い声援を背に受けて肩で風を切りながらずんずんと向かっていく。
眞城と同じ組の走者は運動部で固められているようで、中には現役の陸上部らしき生徒もいて、激戦になるであろうことは誰の目から見ても明らかだった。
各々位置について、ピストルの合図を待つ。
一瞬の間の後、空砲と共に一斉にスタートを切る。
直後、観覧している生徒たちの間からどよめきが起こった。
スタートから一人飛び抜けた眞城はあっという間に後続を突き放し、勢いを落とすことなくぐんぐんスピードを上げていく。
とてもブランクがあるとは思えない走り。
部活を辞めても未だ衰えを知らない快走は、思わず見入ってしまうくらい気持ちのいいものだった。
結局、眞城はぶっちぎりの一位でゴールテープを切り、その非の打ちどころのない圧倒的な勝利は、場を大いに沸かせた。
その後、四百メートル走に出場した牧村も順当な走りを見せて二位をもぎ取り、しばしの休憩を挟んだ後、ついに俺とアリスの二人三脚の番が回ってくる。
俺とアリスの出番は丁度中程だったので陣地で呼び出しを待っていると、隣に座っていたアリスがガタガタと震えているのに気が付いた。
「大丈夫か?」
「だ、だだだ、だ」
駄目そう。
「どうかしたの」
顔を上げると、眞城がいつもと変わらないどこか怒ったような顔で覗き込んでいた。
実際は怒っているということはなく、ただアリスの出番が回ってくるということで心配になって見に来たのだろう。いい奴。
「緊張してるらしい」
「緊張?」
そう言うと、眞城は躊躇いなくアリスの頬に両手を当てた。
それから痛くないくらいの優しい手つきでぺしぺしと叩く。
叩かれたことに意識が向くと、ようやく何をされているのか理解したのか、ハッとした顔で眞城の顔を見るアリス。
そんなアリスに、眞城ははっきりと言った。
「しっかりしなさい。出番、もうすぐでしょ」
「あ、は、はひ……」
返事を聞いた眞城は満足そうに頷いて、そのままクラスの仲間たちの元に歩いていった。
話しかけることすらまともにできなかった一か月前と比べると、大躍進と言っていいほどの変化だ。
少しだけ赤くなった頬を触りながら、アリスはふぅと息を吐く。
「落ち着いたか?」
「はい。ちょっと痛かったですけど……」
「眞城なりのエールだろ。練習にも付き合ってもらったし、いいとこ見せないとな」
「……はい。そうですね」
自分でも頬を叩くと、よし、と頷いてアリスが立ち上がる。
それと同時に、俺達の順番が回ってくることを告げるアナウンスが流れた。
アリスと一緒に陣地から出ると、男子も女子も関係なくあちこちから視線を向けられるのを感じた。
それは気のせいでも何でもなく、全て一人に――アリスに注がれている。
放課後など、学校の外でアリスと一緒にいて向けられる視線にはそれなりに慣れていたつもりだったが、アリスのことを知っている生徒が多いこの場所では比較にならないほど多くの視線を感じて戸惑ってしまう。
正直アリスの知名度を舐めていた。
全校生徒に知られているということがどれくらい重く、そして恐ろしいことなのか身をもって体感する。
こんなものをいつも直に受けている本人は一体どれほどの心労があるのか想像もできなかった。
「準備はいいか?」
「だ、大丈夫です。失敗しなきゃいいんです。失敗しなきゃ……」
一応声をかけてみるが、二人三脚のことで頭がいっぱいで周りの視線にまで気が回っていないようだった。
慣れているというのもあるのだろうが、今はその方がいいだろう。
余計なことを考えなくていいという意味では、一つのことを考え続けているのは都合がいい。
順調に失敗するフラグを建てていることには目を瞑っておいてやろう。




