第四十七話 ぼっちと友達①
時間はあっという間に過ぎ、ついに体育祭当日の朝がやってきた。
雲一つない空はまさに体育祭日和で、朝特有の清々しい空気も今日がイベントのためかいつもとは少しだけ特別に感じる。
そんな気持ちのいい朝に、俺の隣を歩いているアリスは気が重くなるようなくぐもった声を上げた。
「……不安です」
学校へと向かう道すがら、隠そうともせずにアリスが弱音を吐き出す。
既に青ざめている顔からしても相当精神に来ているらしく、時折お腹のあたりを抑えていた。
そんなアリスを見て奈々衣が心配そうにしている。
「始まってもいないうちから何言ってんだお前は」
「そうですよアリスちゃん。頑張って練習してきたんですから、絶対大丈夫です。自信を持ってください」
「そうは言ってもこればっかりは何とも……」
普段なら奈々衣の言葉には二つ返事で答えるのに、それすらないのでかなり追い詰められているようだ。
気持ちはわからないではないが、正直そんなものを見せられているこっちも不安で仕方ない。
「わかった。お前が元気になる言葉を送ってやろう」
「なんですか?」
「元気出せ」
「まんまじゃねぇか。ていうか出ないからこうして困ってるんでしょ?それなのに出せって言われたらもっとしんどくなっちゃうでしょ?」
「まぁ、なんだ……元気出せよ」
「あたしの話聞いてた?辛くなるって言ってるでしょ?なんで言うの?嫌がらせ?」
「言わせんなよ、そんなこと」
「え、嫌がらせなの!?マジで!?」
「兄さん?」
「はい」
奈々衣に咎めるような目で見られたので口を閉じる。
「不安になる必要はありませんよ。私も兄さんもアリスちゃんの味方です。それに今日は眞城さんも牧村さんもいます。一人じゃありませんから、安心してください」
「奈々衣さん……」
奈々衣に優しい言葉をかけられたアリスは多少なりとも不安が解消されたようで、少しだけ元気を取り戻していた。
しかしながら、奈々衣はこれ以上アリスの好感度を上げて一体どうするつもりなのだろう。
弱り目に優しい言葉を囁いて懐柔する。無意識だろうがやっていることは端から見れば完全にたらしだ。
これから先どこへ向かっていってしまうのかお兄ちゃん心配だよ。
「まぁ不安になるのはわからないでもないけど、楽しもうって気持ちも大事なんじゃないか?体育祭なんて、残りの人生であと何回かしかないんだしな」
「楽しもうなんて気持ちがこれっぽっちもない人に言われても説得力ないんですけど」
「ほっとけ」
実際そのとおりだけど。
「なんにしても、やるだけやってみるしかないだろ。それに、前にも言ったけど、失敗したらちゃんと笑ってやるから安心しろ」
「そこは笑わずに慰めてくださいよ。ていうか失敗するなって言ったの先輩じゃないですか」
「そういう気概で練習しろって言いたかったんだよ。本番で『絶対に失敗できない……』なんて思ってたら失敗するに決まってるだろ?気楽にやればいいんだ。別に死ぬわけじゃないし、本当にどうしようもなくなったら転校すればいいんだから」
「そうですね、転校しちゃえば……って気軽になんてこと言ってんですかあんたは!?鬼か!?」
「鬼じゃない、兄だ」
「それ前にも聞いた!全然面白くないやつ!」
「なんだお前、兄を侮辱するのか?兄の俺を侮辱するってことは、妹の奈々衣を侮辱するってことだぞ」
「そ、そんな……!」
「アリスちゃん、騙されてますから。兄さんもわけのわからないことばかり言わないでください」
多少いつもの調子に戻って騒ぐアリスを適当にあしらいながら、三人で学校へと向かった。




