第四十三話 ぼっちと体育祭⑨
「お前の夢は何だ?」
そう問いかけると、アリスは躊躇いがちに答える。
「……友達千人作ること、です、けど」
「そうだ。だからこそこの機会を逃す手はないんだ。ただでさえ目立つお前が、みんなが一番注目するクラス対抗リレーで一位になってみろ。どう感じると思う?」
目立つということは確かにデメリットも多いが、メリットもある。
いくら頑張っても注目されない人間がいる中で、アリスのように生まれた時から持っている人間は、ただそこにいるだけで注目される。
そんな人間が活躍すれば、今までの評価なんて簡単にひっくり返る。
アリスの肩に手を置いて、奈々衣が頷く。
「格好いいって、思いますよ。クラスの方々も、他の人達も、アリスちゃんのこと絶対見直します」
奈々衣の答えにアリスはわかりやすく狼狽える。
「……でも、走る人たちの中で絶対にあたしが一番遅いですし。そんなの、活躍も何も……」
「だからこそのリレーなんだ」
「…………」
「誰よりも早く走れなんて言わない。お前がやらなきゃいけないことはたった一つ。失敗しないこと。それだけだ」
「失敗しないこと……?」
「リレーは最後にゴールテープを切った奴が正義だ。そいつがいくら遅かろうが誰も気にしない。お前はただ前を向いて走るだけでいい。バトンを落としたり、こけたりさえしなければ、みんなでお前を一位にする」
たとえ一位になれなかったとしても、頑張っている姿を見て悪く言う奴は少ない。
いたとしてもそんな奴は放っておけばいい。
何より、眞城とアリスが協力して走ったという事実が残るだけでも大きな前進になる。
だからやらないという選択肢はない。
「もう一度言うぞ。これはお前の夢に近付ける大きなチャンスだ。だから、頑張ってみないか?」
お膳立ては済んだ。あとはアリスの気持ちだけ。
少しの間、沈黙が流れる。
ぐす、とアリスの鼻が鳴った。
胸の前でぎゅっと両手を握り、フルフルと肩を震わせる。
そして、涙声になりながら言葉を紡いだ。
「そんな風に言われたこと、今までなかったから……。あたしが、一番なんて、そんなの、絶対に無理だって、そう、思ってて……」
言葉に出すと、目に溜まっていた涙がぽろぽろと零れた。
そのあとはもう声にならず、奈々衣が肩を抱くと子供のように泣きじゃくる。
その姿を見てずきりと胸が痛くなった。
この話を考えたのは眞城で、この涙は眞城にこそ向けられるべきものだ。
眞城には言うなと言われていた。
これは不器用な眞城なりの罪滅ぼしで、あいつにとってはただマイナスにしてしまったものをゼロに戻すだけだから。
でも、この涙はきっとそんなものをとっくに飛び越えて余りあるものに到達しているように思う。
アリスにとっての〝友達〟というものに……。
口を開きかけて、ぐっと堪える。
これはきっと俺のエゴなのだろう。
そもそも眞城が望んでいることじゃないし、今のアリスに言っても混乱する材料にしかならない。
俺は、俺にできることをするしかないのだ。




