第四十話 ぼっちと体育祭⑥
「それでも俺は反対だ。今からでも選手を変えるべきだ」
そもそも、大群衆の前でアリスが走ること自体が難しいだろう。
これは別にアリスを見くびって言っているわけじゃない。単純に向き不向きの話だ。
できないものはできないし、無理にしようとしてもいい結果が得られるわけではない。
確かに眞城の言うように協力している姿を見せて二人の間に確執がなくなったと周りに知らしめることができれば、噂も信憑性をなくしてアリスと友達になりたいと言ってくる奴らも出てくるかもしれない。
陰口も次第になくなっていくはずだ。
でも、失敗した時のリスクも無視はできない。
失敗すれば非難は間違いなく旗印であるアリスに向かうだろう。
そうなればどんなことを言われるのかなんてわかりきっている。
それで傷つくのは他の誰でもないアリスだ。
そんなことになるくらいなら、わざわざリレーに出る必要なんかない。
しかし、眞城は俺の意見をすぐさま否定してくる。
「アタシが勝たせるって言ったでしょ」
「体育祭までにお前がアリスを鍛えるとでもいうつもりか?」
「勝算はある。あいつは多分走れないわけじゃない。走り方を知らないだけで、運動神経は悪くないのよ。体育の授業で見てたけど、間違いない」
「でも、お前の性格上優しく教えるなんてできないだろ。ただでさえ怖がられてるのに、そんなことしたらもっとアリスに嫌われて……」
「別にいい」
躊躇いもせずに、きっぱりと眞城は言った。
「別にいいって……お前はアリスと仲良くなるために今まで頑張ってきたんじゃないのか?」
「そうよ。でも、それとこれとは話が違う。どれだけ嫌われようが、この機会は逃せないのよ」
「……どういうことだよ」
「リレーで一位になれば、今まであいつを避けてた奴らも、馬鹿にしてきた奴らも、全員見返してやれるでしょ」
その眞城の言葉に何も言い返すことができなかった。
体育祭で最も注目されるリレーで一位になる。
そんなことができれば、確かに眞城の言うようにどんな奴らでも見返すことができるだろう。だから眞城はアリスを無理やりにでもリレーに推薦した。
だが、眞城のアリスと仲良くなりたいという想いが本物であることを知っているからこそ、簡単に頷くことはできなかった。
「そもそも、アリスが嫌だって言ったら元も子もないだろ」
「だからあんたに頼むのよ」
「…………」
「あいつのことを一番よく知ってんのも、一番信頼されてんのもあんたでしょ。だから、あいつが出るように説得して」
「それは……」
「できないなんて言うんじゃないわよ」
有無を言わさない眞城の言葉に口を噤むしかなかった。
「あんたなりにあいつのことを考えてるんだってのはわかる。さっきだって、あいつのためにわざわざ立候補してきたくらいだしね。でも、あんたにしかできないのよ。ムカつくけど、アタシじゃできないのよ」
「…………」
「それに、別にあいつと仲良くなるのを諦めるわけじゃないから。嫌われたからって、もう仲良くなれないわけじゃないでしょ」
多分、眞城は全部決めていて、俺が何を言ったところでそれを覆すことはできないのだろう。
それを証明するように、眞城は自信満々に俺を真っ直ぐに睨みつけながら、宣言する。
「絶対に勝つ。アタシが勝たせる。だから協力して。織羽志」
そう言って眞城が突き出してきた拳に、拳をぶつけて応える以外の選択肢は残されてはいなかった。




