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隣のアリスちゃん  作者: sazamisoV2
第一章
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第四話 ぼっちと便所飯④

 そうこうしているうちに焦れた國乃がタックルかましてきて、体当たりされた勢いのまま床に倒れ込んでしまった。


 ここぞとばかりに俺の体の上に馬乗りになった國乃は、大きな声を上げながら俺の顔めがけて激しく拳を振り下ろしてくる。


「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろぉ!」


「お、落ち着け國乃!誰にも言わないから!それに俺も便所飯をしたことがあるからお前の気持ちはわかる!」


「ほ、本当ですか?」


「いや……」


「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


「とにかく落ち着けって!」


 振り下ろされる腕を掴んで止める。

 國乃は俺の手を外そうとしてしばらくじたばたもがいていたが、諦めたのか徐々に力が抜けていった。


「うふ、うふふふふふふ……」


 すると國乃が突然肩を震わせて笑い始める。

 そして独り言のようにぽつらぽつら言葉をこぼし始めた。


「笑えばいいじゃないですか。転入してからまだ一か月も経ってないのに一人寂しくこんなところでご飯食べてるあたしを。声高らかに笑えばいいじゃないですか。『あいつ転入早々ボッチ飯とかマジ笑えるんだけど』って言いながら陰で笑い合えばいいじゃないですか。滑稽なあたしを見ながら食べるお昼ご飯はさぞ美味しいでしょうねぇ。さぁ遠慮しないで。笑ってくださいよ、ピエロなあたしを。ほら笑えよっ!」


 國乃の自虐は妙にリアルで笑う気になれなかった。

 もしかして過去に誰かに同じようなことを言われたんだろうか。言われたんだろうなぁ。

 言葉に実感がこもっているからこそこんなにも切ない気持ちになるんだろう。


 それにしても、いつもの國乃と今の國乃とでは様子があまりにも違いすぎる。

 ここ数週間の國乃の様子は席が隣なのである程度知っているが、一言で言えば無口な奴という印象しかなかった。

 ちやほやされていた最初の一週間はそれなりに愛想笑いとかもしていたような気はするが、ここ数日間においてはそれこそ仏像のように無表情で、何を考えているのかも全くわからないくらいだった。


 それに比べて今の國乃はどうだ。

 とてもいつもの人を寄せ付けないような雰囲気を放っている奴と同一人物とは思えない。

 それくらいはっちゃけている。まるで二重人格。


 すると、國乃は突然ぬらりと立ち上がり、旧校舎の出口に向かって歩き出した。


「お、おい、どこ行くんだ?」


 呼び止めると、國乃は立ち止まって振り向く。その目は暗く濁った光を灯していた。


「クラスメイトに秘密を知られてしまった以上、あたしはもうこの学校にはいられません」


「退学するってのか?いくらなんでもそれは極端すぎるだろ。たかが便所飯してるのがばれたくらいで」


「ばれたくらいで?それ、本気で言ってるんですか?」


 変なスイッチが入ってしまったらしく、まくしたてるように國乃は言う。


「一人にばれれば次の日にはクラス全員に広まってる。その次の日は他のクラス、また次の日には全校生徒。おまけに話に勝手に尾ひれをつけられて面白おかしく吹聴される。違うと言っても聞いてはくれず、むしろ『必死なのウケる』と笑われる。あとに残るのは何も言えず愛想笑いを浮かべているあたしだけ。そして卒業するまで笑われ続けるんです。これがどういうことかわかりますか?終わりってことですよ!あたしの学校生活ジ・エンドってことですよ!」


 聞けば聞くほど悲しくなる話だった。ていうかめっちゃ喋るなこいつ。


「待て、俺は別に誰かに言うつもりは……」


「言葉なんかじゃ信用できませんねぇ!証拠はあるんですか証拠は!あたしがあなたを信用できる証拠!出せるもんなら出してみてくださいよ、さぁ!」


「…………」


 どうして國乃が孤立したのかわかった気がした。普通に面倒くせぇわこいつ。


 このねちっこさといい自虐ネタといい上がり下がりの激しい変なテンションといいそこはかとなく漂ってくる残念臭といい、明らかに國乃は陰の気を持つ者――陰キャで間違いない。そしておそらくこっちの國乃が本来の國乃なのだろう。


 俺が何も言えないでいると、なぜか勝ち誇ったような顔になった國乃は、それみたことかと言わんばかりに鼻から大きく息を吐き出すと再び歩き出した。


 なんというか、もうこのまま行かせた方がいいような気がする。

 知られたくない秘密を知ってしまった俺が同じ教室にいたらこれから一年間さぞ生きにくかろう。

 俺は誰かに言うつもりはない(そもそも言う人がいない)が、いつばらされるかと怯えながら生活するのも精神的によくないだろうし。


 何より学生生活終わりだって自分で言っていたし、新天地で新しく始めたほうが國乃にとっていいことなのかもしれない。

 俺にできることは、せめて國乃が次に行く学校でも同じ結果にならないことを祈ることくらいだ。


 そんなことを思いながら國乃の新たな門出を穏やかな眼差しで見送っていると、國乃は旧校舎の出口のところで立ち止まる。

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