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隣のアリスちゃん  作者: sazamisoV2
第一章
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第三十七話 ぼっちと体育祭③

 しかしこれ以上ふざけると奈々衣に本気で呆れられてしまうので真面目に話をする。


「でも実際、何の種目を選んだところで人前に出る以上、目立たないってのは諦めたほうがいいだろうな」


「ですよねぇ……」


 そう言ってアリスはとほほと肩を落とす。


「百メートル走は大勢立候補するでしょうから、なれなかった時のことを考えるとあまり人気のない二人三脚あたりを最初から狙うのがいいのかもしれませんね」


「でもなぁ……」


 奈々衣がそう言うと、アリスは悲壮な顔をする。


 実際奈々衣の言うことはもっともで、人気のある競技に立候補してあぶれた結果やりたくない競技にさせられるよりかは、最初から人気のない競技を狙ったほうが安牌だ。


 だが、二人三脚はどうしてもペアが必要になる。

 現状気楽に組める相手がいないアリスにとっては難しい問題だろう。


「そういえば、先輩は何に出るんですか?」


「百メートル走だな」


「百メートル走って……なんか先輩っぽくないですね」


「ほっとけ」


「兄さんは中学校の頃陸上部でしたから、こう見えて足は結構速いんですよ」


「え、そうなんですか?」


 アリスがきらきらした目で見てきて非常に居心地が悪くなる。


「奈々衣、あんまり俺の個人情報を喋るんじゃない」


「いいじゃないですか。知られて困るものでもないですし」


 ニコニコと微笑みを向けられると反論する気も失せて、肩をすくめるしかなかった。


「でも意外ですね、先輩が元運動部って。先輩っぽくないというか、解釈不一致というか。あたし的に先輩は部活に入ったはいいものの居心地が悪くなってそのまま幽霊部員になって結局辞めてボッチやってるイメージなんですけど」


「無駄に解像度の高い想像はやめろ」


 確かに俺は基本インドアだし高校に入ってからは部活にも入っていないが、運動が嫌いなわけではないし日常的に軽い運動も継続して行っている。


 だからといって自信があるとまでは言わないが、走る系の競技なら目立たないくらいの無難な成績は残せるという自負があった。

 目立つリレーだけは御免だが、その他は正直なんでもよかったりする。


「だったら尚更あたしと二人三脚組んでくれたっていいじゃないですか!」


「こけて笑われる未来しか見えないから嫌だ」


「確かにそうかもしれませんけど!」


「そこは嘘でも否定しておけよ」


「ふ、ふん!先輩だって、二人三脚になったら組んでくれる相手なんかどうせいないんでしょ?その時になって組んでくださいって言われても遅いんですからね!」


「はっ、何を言い出すかと思えば。俺にだって組んでくれる相手くらい……相手、くらい……」


 いないねぇ。そりゃそうか。ボッチだし。


「俺、明日からしばらく学校休もうと思います……」


「あ、じゃああたしも……」


「こらこらこらこら、現実逃避しないでください兄さん。アリスちゃんも便乗しない」


 奈々衣に諭されて非情な現実に引き戻される。辛ぇわ。


 すると、奈々衣はアリスに穏やかな笑みを向けて言った。


「大丈夫ですよアリスちゃん。なんだかんだ言っても兄さんは優しいですから、最後はなんとかしてくれます」


「奈々衣さん?何勝手なこと言ってるの?」


 ぶっちゃけアリスのことは二の次で百メートル走に出る満々だったので、そんな信頼感溢れることを言われてしまうと罪悪感で胸が苦しくなってしまう。

 しかも、


「確かに先輩が一緒に走ってくれたらいいなぁっていうのが本音ですけど……でも、ここ最近先輩には助けられてばっかりなので、今回は一人で頑張ってみようと思います。だから、先輩は出たい種目に出てくださいね」


 と、なぜかこんな時だけ殊勝なことをアリスが真面目な顔して言うものだから、罪悪感が二割り増しくらいになって死にたくなってしまった。


 こいつは本当にアリスなのだろうか。

 俺の知るアリスなら、ぎゃあぎゃあと騒いだあげくどうにかして俺を二人三脚に巻き込もうとするはずなのだが、ここまで素直だと逆に不気味だ。

 何か裏があるんじゃないかと思えてならない。

 いや、待てよ……?


 そもそも人見知りのアリスが話したことのないクラスメイトと組まされるかもしれない二人三脚をわざわざ選ぶだろうか。


 運動が苦手と言う言葉に隠されて気付けなかったが、アリスの性格を考えるなら余計な人と絡まずに済む徒競走の方がいいはずだ。


 じゃあなぜわざわざ二人三脚を持ち出したのか。

 そんなのはもはや考えるまでもない。


 一人で恥を被るより、二人で被ったほうが恥ずかしさは半減される。

 実際アリスは『恥を分散できる』と自分で言っていた。あれはおそらく本心からの言葉だったのだろう。


 百メートル走だろうが四百メートル走だろうがビリになるのは恥ずかしい。

 そして校内でも指折りの目立つ存在であるアリスがそんな痴態をさらせば周りからどんな嘲笑をされるかわかったものじゃない。


 だからこその二人三脚。

 だからこそのペア。


 しかし、俺に頼んだところで断るであろうことは目に見えている。

 実際俺はアリスにお願いされたところで無視して別の競技を選ぶつもりだった。


 だから奴は罠を張った。

 俺が罪悪感で二人三脚に立候補するよう仕向けたのだ。

 しかも俺に組む相手がいないことを確認したうえで。


 どうせ最後に余るのはボッチ同士だというところまで計算に入れた、まさに用意周到と言わざるを得ない作戦。


 ふと、アリスが一瞬ちらりと俺を見たのがわかった。

 まるで様子を伺うように。

 そのまま眺めていると、口角がぴくぴくと痙攣をはじめ、冷や汗をかき始める。


 アリスは感情が顔に出やすい。

 そして今のこいつの顔は、何か後ろめたいことがあるときの顔だ。

 それは、俺の想像が当たっていることを如実に示していた。


 まったく、やるじゃないかアリス。

 そこまで頭が回るなんて、俺はお前を少々見くびっていたようだ。素直に称賛を送ろうではないか。


 だが浅い、浅すぎる。

 そんな見え見えの罠にひっかかってやるほど、この織羽志かばねは甘くはない。


 フフ……フハハハハハッ!


 残念だったなぁ國乃アリス!


 俺の善意を利用しようとしたお前の自業自得だ!


 俺は俺の出たい競技に出る!お前と組んで目立つのなんかまっぴら御免だ!


 精々話したこともない相方の足を引っ張らないよう頑張るんだなぁ!

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