第三十六話 ぼっちと体育祭②
「アリスちゃんは出たい競技とか、これなら得意みたいな競技はあるんですか?」
「得意なのは特にないですね。だから、出るとしたらすぐに終わる徒競走か、責任を分散できる二人三脚とか……とにかく目立たないのがいいです」
不純だなぁ……俺と全く同じこと考えてやがる。
「徒競走はいいとしても、二人三脚の相手はどうするんだ?」
俺が聞くと、アリスはどこか恥ずかしそうに両手の人差し指を胸の前で合わせてもじもじと身をよじる。
「そ、それは、その……先輩が一緒に走ってくれたらなぁと……」
「徒競走はいいとしても、二人三脚の相手はどうするんだ?」
「ん?ちょっと先輩?質問がリピートしてますけど?せんぱーい?」
「徒競走はいいとしても」
「はいはいわかりましたよ!組みたくないならはっきりとそう言えばいいじゃないですか!くそ!」
くそって言うなくそって。そういうとこだぞ。
「そもそも身長的に無理があるだろ」
俺の身長は百七十五センチで、アリスの身長は高く見積もっても百五十センチだ。肩を組むにしては差があるし、歩幅もかなり違うだろう。
「そうだ、眞城に頼んでみたらどうだ?知らない間柄じゃないから頼みやすいだろ」
眞城に提案したらそれはもう喜んで受けてくれるだろう。
体育祭に関して眞城からの接触は今のところまだないが、多分何かしら考えているはずだし。
「身長も俺よりは低いし、一緒に練習すれば仲良くなれるかもしれない。そうだ、それがいい。そうしよう」
「奈々衣さんは何に出るんですか?」
「聞けや」
相変わらずアリスは眞城のことになると拒絶反応を示す。
眞城が仲良くなろうとしてちょっかいをかけてくることを嫌がらせされていると思っているので仕方ないといえば仕方ない。
「だって眞城さんと走るなんて公開処刑以外の何物でもないでしょ!?学年で一番目立ってると言っても過言じゃない人なんですよ!?失敗したら確実に笑われるじゃないですか、あたしが!」
それを言ったらアリスの方が目立っているとは思うが、確かに眞城も存在感が桁外れなので、そんな二人が二人三脚なんてしようものなら注目の的になるのは間違いない。
それにしても眞城が哀れだ。
頑張ってアリスの気を引こうとしているのを知っているのでなおさら哀れ。むしろあはれ。
というか……。
「そもそもお前が目立たないってのはほぼほぼ無理だろ」
アリスの髪を見ながら言う。
こげ茶やら茶髪やらの生徒はそれなりにいるが、天然の眩い金髪は当然アリスしかいない。
名前にしてもカタカナなのはアリスだけだし、青い瞳もアリスだけだ。
じっとしていたとしても問題なく目立つだろう。
奈々衣も同じことを思ったのか、アリスの髪を取って触りながら頷く。
「アリスちゃんは綺麗ですからね。髪も帽子で隠したところで意味ないでしょうし……」
「そ、そんなに褒めても、何も出ないんですからねっ?でへへ」
「いっそのこと綺麗さっぱり丸刈りにするってのはどうだ?」
「確かにそれなら目立たな……って目立つわ!なんなら全校生徒の視線独り占めだわ!何さらっととんでもないこと言ってんですかあんたは!?『ちょっと短くしてみたら?』みたいなノリで言っていいことじゃないんですけど!?」
「じゃあお前は丸刈りにしたことあんのかよ!」
「えぇ!?い、いや、それはないですけど……」
「それならなんで似合わないと言い切れる!碌に試しもしないで、自分の想像だけで勝手に判断して!そういうのを決めつけって言うんじゃないのか!」
「な、なんでそんなに怒られないといけないんですか!?それにここまで伸ばすのだって結構大変で……」
ぶつぶつ言うアリスの言葉を遮って、まっすぐに見つめながら言う。
「現状で満足していていいのか?新たな可能性を模索しないでいたら、もうそれ以上成長できないんじゃないのか?お前ならいける。丸刈りでも坊主でもスキンヘッドでも、どんな髪型だって似合う。俺を信じろ」
「なんでハゲ限定なんだよ!やらないよ!?なんでいい話風にして刈る前提で話進めてるの!?切るにしたってショートでいいじゃん!」
「じゃあいいよそれで」
「雑!」
「兄さん、ふざけすぎです」
「はい」
「ぶはははははは!怒られてやーんの!」
「アリスちゃんも、笑い方が下品ですよ」
「はい」
この三人の中で一番強いのは間違いなく奈々衣だった。




