第三十二話 ぼっちと陽キャ⑪
翌日の放課後、俺は再び眞城にファミレスに呼び出されていた。
こうも毎日ファミレス通いしていると中々財布に優しくないのだが、眞城さんが俺の財布事情に配慮してくれるなんてことあるはずもないので、今日もまた一杯分のお金が財布から消えていく。
ちなみに今この場にはアリスも牧村もいない。
正真正銘、眞城と二人きり。
端から見れば高校生のうきうき放課後デートに見えるかもしれないが、実際はただの圧迫面接みたいなものなので楽しさの欠片もない。
ドン、という効果音が背後に見えそうなほどふてぶてしい態度で両腕を組みながら俺を睨みつけている目の前の眞城を見て、帰りたいなぁと心の底から思った。
アリスとの仲を取り持つという約束をしてしまった手前、無碍にもできないのが辛いところだ。
運ばれてきたカフェオレを飲みながら、眞城の様子を伺う。
「…………」
昨日あれだけアリスにはっきり嫌いと言われた割に、眞城にめげた様子は見られなかった。
目の下が薄っすらと赤くなっているあたり昨夜は枕を涙でそっと濡らしたのかもしれないが、それだけだ。
「で、どうすればいいわけ?」
何の前振りもなく眞城が言う。
相変わらず主語がなくてわかりづらいが、アリスとの関係を改善するにはどうすればいいかということを聞きたいんだろう。
「その前に、お前には反省すべきことがあるんじゃないか」
「反省?」
殊更目を細める眞城。怖い。
反射的に謝ってしまいそうになるが、ぐっとこらえて続ける。
「昨日はお前が無駄に突っ走ったせいでこんがらがったんだ。ああいう強引に行こうとするのをどうにかしないと、いつまでたってもアリスと仲良くなんてなれないぞ」
アリスの名前を出すと、眞城は肩を落としてあからさまに落ち込んだ様子を見せた。
「奴はいわば野生の兎だ。警戒心が強く、滅多な事じゃ捕まえられない。お前みたいに力技で強引に捕まえようとしたところで近寄る前に逃げられるだけだ」
自分の言葉ながら、言いえて妙だと思った。
周囲を警戒しながらぴょんぴょん野原を駆けまわるアリスの様子が目に浮かぶ。
まぁアリスの印象からするとウサギと言うより犬だが。
「つまり、捕まえるなら罠にかけろってこと?」
「やめてあげて?例えだから。友達になるために罠にかけるとか悪魔の所業だからね?」
「あのさぁ、はっきり言ってくんない?あんたの話回りくどいんだけど。要するに何が言いたいわけ?」
イライラした様子で言う眞城。怖い。
この人に冗談や例え話はあまりしないほうがいいらしい。
「……要するに、時間をかけて徐々に慣れさせる必要があるってことだ。具体的に言うと、まずは挨拶から始めて、少しずつ話をできるようにする。最初は一言二言で終わるかもしれないけど、そうやってゆっくり信頼関係を築いていけば徐々に話せるようになって、最終的には仲良くなれるって寸法だ」
今度の説明は理解してくれたらしく頷いた眞城だったが、その顔はどこか不服……というか、困惑した表情が浮かんでいる。
眞城や牧村あたりの陽キャは誰とでも軽く話しただけで友人になれる(というかあっちから寄ってくる)だろうから、このような面倒な手順を踏まなければならないことが不思議なのかもしれない。
だが、陰キャは実にデリケートな生き物なのだ。
初見の相手はまず信用しないし、ちょっとでも怖いと思ったら離れて近づきもしない。仲良くなるにはとにかく時間をかけなければならない。
陰キャの俺が言うのだから間違いない。
何か言いたげな眞城が口を開く前に補足する。
「またアリスと話す場所をセッティングしても、どうせ昨日みたいにお互いだんまりになるか、誤解を生むようなことにしかならない。これ以上嫌われたらもう取り返しがつかないから、慎重にやるしかないんだよ」
「…………」
嫌われたら、という言葉を聞いた眞城は泣きそうになっていた。
昨日アリスに大嫌いと言われたことを思い出したのかもしれない。
見た目に反してちょっとメンタル弱すぎじゃないですかねこの人。




