第三十一話 ぼっちと陽キャ⑩
「でも、これからそう思ってくれるようになるかもしれない。お前だって、眞城に素の自分を見せてないだろ?案外、奈々衣みたいにすんなり受け入れてくれるかもしれないぞ」
「…………」
難しい顔をして、アリスは俯く。
「あんまり難しく考えるなよ。どうせお前に失うものなんてないんだ。玉砕したら玉砕したで笑ってやるし、その後でまた別の方法を考えればいい。どうせ許してくれないだろうからって動かなかったら、何も変わらない。それに、ずっとそのことで悩み続けるのなんて馬鹿らしくないか?」
あれだけアリスを気に入っている眞城のことだから、今回のことだってきっと怒ってはいないだろう。
自分が悪いこともきっとわかっている。
だからあとはアリスの気持ち一つだ。そのあとどうなるのかは眞城とアリス次第だが、案外気が合うんじゃないかと俺は勝手に思っている。
俺の言葉にアリスは顔を上げると、どこか不安そうな面持ちで聞いてくる。
「……もし駄目でも、また一緒に考えてくれるんですか?」
「まぁ、協力するって言ったからな」
「ほんとに?」
やけに食い下がってくるアリスに、頷いて答える。
「ほんとだ」
「そう、ですか」
ほっと胸に手を当てて息を吐いたアリスは、微笑みながら頷いた。
「先輩がそう言うなら、わかりました。もう一回、頑張ってみます」
それを聞いて、俺も胸を撫でおろす。
眞城との仲直りをどこまでも頑なに拒否されたらどうしようかと思ったが、とりあえずやる気は取り戻してくれたらしい。首の皮一枚でつながったな眞城さんよ。
「ひとまず今日はもう遅いし、また明日だな」
「あの、先輩」
歩き出そうとした俺の背中に、アリスが声をかけてくる。立ち止まって振り向くと、アリスの青い瞳がまっすぐに見つめていた。
「なんだよ」
「その、先輩は……」
そう言って言葉を詰まらせる。
一度俯いてから再び顔を上げて口を開くが、言葉が出てくることはない。
不安そうな顔は、言葉にするのを躊躇っているようにも見えた。
「どうした?」
「……いえ、やっぱり、なんでもないです」
それからアリスは、立ち止まっていた俺を追い抜いて子供のように楽しそうにくるんとターンを決めると、さっきとは打って変わって明るい笑顔を見せる。
アリスの眩い金髪が夕陽を反射して燃えているように映り、思わず目を奪われた。
瞬きをする度に、まるで写真のシャッターを切ったように一枚の美麗な絵画が俺の視界を埋める。
気を抜いていたら感嘆の声を出していたかもしれない。それくらい綺麗な光景だった。
そんな俺の視線に気付いて、アリスが不思議そうな顔をする。
「どうかしましたか?」
「なんでもない」
投げやりにそう言って目を逸らす。
いくら中身が残念でも、アリスは誰もが認める美少女なのだ。すました顔をして歩いているだけで様になるし、綺麗な景色の中にいれば自然と一枚の絵になってしまう。
確かにアリスの性格には色々な問題がある。それはとても万人受けするようなものではないだろう。
だが、そんなことすらどうでもいいと思わせてしまうほどの容姿を、アリスは持っている。
それは努力して手に入れられるものではない、まさに天性の才能だ。
きっと、ほんの少しのきっかけさえあれば、アリスはすぐに多くの友達に囲まれる。
その全てがアリスの求めているものではないかもしれないが、考え方が変わり始めた今のアリスなら、その中から本物の『友達』を見つけることもできるだろう。
そうなれば目標の千人なんてきっとあっという間だ。
そして、そのきっかけはもう手の届くところにある。あと少し頑張るだけで手に入るのだ。
だから、諦めてほしくない。
自然と、そう思っていた。




