第三十話 ぼっちと陽キャ⑨
「なんとなくわかるんですよ。この人はあたしのこと見てないな、とか。転入してすぐ、眞城さんはあたしによくしてくれましたけど、直接話したのなんてほんの数回だし、友達だって言えるほど仲良くなったわけじゃありませんでしたから。他の人にしても、あたしの容姿のことばっかり見て、あたし自身を見てくれる人はいませんでした。まぁ、猫被ってるあたしが何言ってんだって思われるかもしれませんけど」
本当の自分を見てくれない。
特別な容姿を持つアリスにとって、それはきっと、物心ついた時から付き纏っている問題で、ずっと悩み続けてきたことなんだろう。
気持ちがわかるなんて軽々しく言えないが、想像くらいはできる。多分、凄く、寂しい。
アリスは俺が思っていたよりもずっとシビアに『友達』というものと向き合っているのだ。
そして同時に思い知る。
アリスの『友達を千人作る』という夢が、どれほど本気で、どれほど切実で、どれほど誠実なものなのかを。
自嘲気味に笑いながらアリスは続けた。
「意味わかんないですよね。本当の自分を隠そうとしてるくせに、本当の自分を好きになってもらわなきゃ友達になりたくないなんて。矛盾してるし、そんなの、ただ重いだけだって自分でもわかってるんですけど」
「いいだろ、重くたって」
自然と言葉が出ていた。
アリスが俺を見たのが気配で伝わってくる。でも、構わずに続けた。
「よく知りもしないくせに口先だけで俺達は友達だなんて言ってくる奴らを何百人作るより、面倒くさいところまで知ったうえで受け入れて笑ってくれる奴を一人作る方がよっぽど価値があるんだ。そんな友達を見つけるのに慎重にならないわけないし、そんな想いが軽くていいわけがない」
「……先輩は、やっぱりそういう人なんですね」
言葉を返す前に、アリスは矢継ぎ早に続けた。
「でも、今のあたしじゃ駄目だってこともわかってるんです。この間奈々衣さんに教えてもらったばっかりですけど。見た目だけじゃわからないことも多いけど、見た目だけでわかることもあるって。あたしの容姿を見て、友達になりたいって思ってくれた人達を、あたしは勝手に嫌な人たちだって決めつけて蔑ろにしてた。そのせいで、友達になれるかもしれない人を、チャンスを、自分で不意にしちゃってたんだって気付いて、凄く、後悔したんです。だから、頑張ろうって思ってたのに……また、振り出しに戻っちゃいました。振り出しよりももっと戻ってるかもしれません」
「そんなことないだろ」
「……そう、でしょうか」
「少なくとも、あれだけ怖がってた眞城に真正面からびしっと言ってやれたんだ。ちゃんと自分の思っていることを相手に伝えられるようになったんだから、後退なんてしてない」
「そうだといいんですけど」
そう言ってから、アリスは微笑を浮かべる。
「なんか今日の先輩、優しいですね」
「いつもはお前が怒らせるようなことを言ったりやったりしてくるからで、俺は元々優しいんだよ」
冗談交じりにそう言ったのだが、
「知ってますよ、そんなの」
と、ノータイムで返事が返ってくる。
アリスを見ると、思わず出た言葉だったのか目を開いて両手で口を押えていた。
それから徐々に顔を赤くさせていき、最後には目を背ける。
「…………」
「…………」
何この空気。気まずいんですけど。
ごほんと大きく咳払いして妙な空気を霧散させると、気を取り直して言った。
「なぁ、アリス。眞城とのこと、もう一度頑張ってみないか?」
「でもあたし、眞城さんに二度も酷いこと言っちゃったし、もう許してもらえるとは……」
「お前は眞城のことをどれだけ知ってるんだ?」
俺は、牧村から話を聞くまで眞城が本当はどんな奴なのかなんて知りもしなかった。
知らなければ、ずっと関わることのないただおっかないだけのクラスメイトとしての認識しか持たなかっただろう。
でも、ちゃんと話してみて、それは間違いだったんだと気づいた。
知ることで変わることはある。
でも、最初から知ろうとしなかったら何も始まらない。相手を知ることは、友達になる上で絶対に避けて通ることはできない。
アリスの言う『友達』になるためならなおさらに。
「本当は、お前と友達になりたいって思ってるかもしれない」
「それはないですよ」
予想通りアリスは即座に否定する。それくらいアリスにとっての眞城との間にある溝は深いということだろう。
今は仕方ない。




