第二十八話 ぼっちと陽キャ⑦
店の入り口から離れて広場に移動すると、牧村にアイコンタクトを送る。
俺の意図を理解してくれたらしい牧村は、眞城の背中を押してアリスの前に誘導してくれた。
俺は俺で、こっそり逃げようとしていたアリスの首根っこを掴んで眞城の前に突き出す。
腕を組んだまま微動だにしない眞城と、借りてきた猫のようにおとなしいアリス。
まるで野生の虎と飼い猫が対峙しているようにも見える。
「…………」
「…………」
だが、しばらく待ってみても両者の間に会話は発生しない。始まる気配すらない。
時間が経つにつれて眉間の皺が増えていく眞城。時間が経つにつれて血の気が引いていくアリス。状況は徐々に悪化の一途を辿っていた。
何やってんだろうこいつら。どちらにしても相手に言いたいことがあるはずなのに、出方を伺っているのか何なのか。
しかし、なんにしてもこの流れはよくない。
アリスは完全に眞城にビビってしまっていて、そんなアリスを見た眞城もどうしていいかわからず固まっている。
今この場にはただの陰キャとコミュ障がいるだけだった。そんな二人が向かい合ったところでどうにかなるわけもない。相性が悪すぎる。
(おいなにやってんだアリス。練習したまんま言えばいいんだから簡単だろ?)
耳打ちすると、ロボットのようにギギギと振り向いたアリスは、固まった表情のまま涙を流し始める。
向かい合っているだけでいっぱいいっぱいですと目で訴えていた。どんだけ怖いんだよ。
牧村も眞城の背中を肘でつついて催促しているが、眞城は口をへの字にしたまま開こうともしない。
俺と目が合った牧村は、両手を上げて降参のポーズを取った。
今日はお互いに引き上げて別の日に仕切りなおしたほうがいいかもしれない。突然と言えば突然だったし仕方ない。
それに、眞城の本心が分かった今、今日すぐにでも仲直りしなければならないというわけでもない。
正直さっさと仲直りしてほしいのでこの場で俺が誤解を解くことも考えたが、アリスの眞城に対する反応を見る限りすぐに理解してくれるとは思えないし、それでこじれでもしたら本末転倒だ。
「あー、眞城?アリスはちょっと体調が悪いみたいだから、話はまた今度にでも……」
「そうだな!ましろも、今日はもういいんじゃないか?」
牧村のフォローのおかげもあってお開きムードが出来あがった――はずだった。
「あんた、あたしのことどう思ってんのよ」
すでに踵を返そうとしていたアリスに向かって、唐突に眞城が言い放った。
「お、おい、ましろ!」
牧村が止めようとするが、眞城は目をグルグルさせながらアリスに詰め寄っていく。完全に自制が聞いていない。
今にも掴みかかっていきそうな眞城の勢いに思わずアリスの前に出て止めようとすると、邪魔だと言わんばかりに突き飛ばされる。碌に準備もしていなかったので盛大に尻餅をついてしまった。
「おい眞城、ちょっと落ち着……」
眞城を止めるために立ち上がろうとした、その時だった。
「嫌いです」
小さな声のはずなのに、確かに耳に届いた。
そしてそれは俺だけじゃなく、眞城にも届いたのだろう。その証拠に、眞城はその場で動きを止め、目をまん丸に見開いてアリスを見ていた。
「い、今、なんて……」
呟くように言う眞城。そんな眞城に、アリスはもう一度、はっきりと告げた。
「あたしの友達に乱暴する人なんか、大嫌いです!」
「な……によ、それ……!」
あわ、あわわわわわわわわわわわ。
誤解が誤解を呼び、集まった誤解が融合してさらなる誤解を生んでいる。誤解スパイラル状態とでも呼べばいいのだろうか。
眞城に暴力を振るうつもりなんてなかっただろうし、俺も全く気にしていないのだが、アリスは眞城に対して明らかに敵意を剥き出しにしていた。
まるでアリスじゃないみたい。いつものおバカなお前はどこに行ってしまったの。
とにかく、この二人をこれ以上この場にいさせてはいけない。
「行くぞアリス」
突っ立ったままのアリスの手を強引に掴んで歩き出す。特に抵抗することもなくアリスはついてきた。
「織羽志!またな!」
その声に振り向くと、牧村が眞城をずるずると引きずっているところだった。
引きずられている眞城はショックのあまり虚空に手を伸ばしたまま白目を剥いている。さすがに自業自得なので何も言えなかった。本当にアリスのことになるとポンコツだなあいつ。
牧村に手を挙げて答えてから、俺はアリスを連れてその場を後にするのだった。




