第二十五話 ぼっちと陽キャ④
俺たちが向かったのは駅前のファミレス。
四人掛けのテーブルに、牧村と眞城が隣同士で座り、俺はその対面に腰を下ろす。三者面談形式だ。
俺はカフェオレ、牧村はコーラ、眞城は紅茶をそれぞれ頼んだ。
口寂しいという理由で牧村がポテトも頼み、一緒に食おうと言ってくれたので遠慮がちにつまんで食べる。
正直カフェオレとは全く合わなかったが、程よい塩気がポテトの素材の味を引き出していて普通においしかった。
しかし、改めて考えてみても妙な感じだ。
クラスの中心的人物である眞城と牧村が俺と一緒のテーブルを囲んでいることに違和感しか感じない。正直場違い感が凄くて、今すぐにでも帰りたい気分だ。
だが、そう感じているのは俺だけのようで、眞城と牧村はいつも教室で見ているようにお互い自然に会話をしている。
と言っても牧村が中身のない話を振って眞城が適当に相槌を打っているだけだが。
それでも楽しそうに話す二人の様子はまさに仲のいい友達同士といった感じで、俺は完全に蚊帳の外だった。
だからといって話の輪に割って入るなんていう選択肢もないので、俺はカフェオレを何度も口に運んでは机に置きを繰り返して文字通りお茶を濁していた。
転入してきて早々、陰気なアリスがこんな陽気な雰囲気の中にぶち込まれたのかと思うと、嫌が応にも同情する気持ちが湧いた。そりゃ猫も被りたくなるわ。
「じゃあぼちぼち本題と行くか!」
俺が手持ち無沙汰になっているのに気を使ってくれたのか、牧村が爽やかに宣言する。
途端に殊更むすっとした表情になる眞城。
喫茶店に来る途中で涙は引っ込んでいたので落ち着きはしたらしいが、牧村と話していた時との落差が酷い。眞城さん俺の事嫌いですよね。
「ほらましろ。元々お前から話すって約束だったろ?」
そう言って牧村は眞城の肩を肘で小突く。
「……わかってるわよ」
牧村の言葉を受けた眞城は、何を言うか考えるようにしばらく口をもごもごさせていたが、観念したように大きく息を吐くと、俺の目をまっすぐに見て言った。
「あんたにお願いがあんだけど」
「お願い?お前が俺に?」
まさか眞城からそんな言葉が出てくるとは思わず聞き返してしまう。
「なんか文句あんの?」
「いや……」
「ちなみに笑ったらぶっ殺すから」
「はい」
有無を言わさぬ眞城の迫力に頷くことしかできなかった。この人のぶっ殺すは割と冗談になってないから本当にやめてほしい。
すると、もう一度大きく息を吸って、顔をほんのりと赤くさせながら、ぼそりと呟くように眞城は言った。
「ア、アタシと、あいつの、その……仲を、取り持ってほしいのよ」
「あいつ?」
「わかるでしょ?あいつって言ったらあいつよ」
「いやだから誰だよ」
答えはなんとなくわかっているが、聞き返さずにはいられなかった。
するとそんな俺の態度に苛立ったのか、眞城は突然爆発したかのようにテーブルを両手でバァンと叩き、大声で叫んだ。
「アリスちゃんのことに決まってんでしょっ!?」
そのあまりの声量に、店内にいた他のお客さんの視線が一斉に俺達に向けられる。
まるで時が止まったかのように静まり返る店内。
そのせいか後ろで流れているお洒落なBGMの音がやけに大きく聞こえた。
「お、おいましろ……!声がでかいって……!」
牧村が脇から小声で宥めると、眞城はドスンと腰を下ろした。
しばらくすると再び店内に元の喧騒が戻ってくる。しかし、俺の時間だけは今だに止まったままだった。
今眞城は何と言ったか。
『仲を取り持ってほしい』と言った。
で、その『仲を取り持ってほしい』相手は誰と言ったか。
『アリスちゃん』と言った。
アリスといえば、俺が知っている中ではあの金髪の頭のおかしい奴しかいない。まさか、俺の身辺でアリスという名前を持つ者がもう一人いるということはないだろう。
となると、眞城は俺が知っているあの國乃アリスとの仲を取り持ってほしいと言っているということになる。
さっきあれだけムカつくだとか許せないだとか言っていたあの眞城が。
ゴミを見るような目でアリスを睨んでいたあの眞城が。
アリスと友達になりたいと。そう、言っているのだ。
なるほど、どういうことだってばよ。
そんな俺のことなど気にした様子もなく、眞城は横柄な態度で訪ねてくる。
「で、協力すんのかしないのか、どっちなのよ」
「い、いやいや、ちょっと待ってくれよ。お前、アリスの事嫌いだったんじゃないの?」
「はぁ?誰がそんなこと言ったのよ」
「いや、だって……」
思い返してみるが、確かに眞城から直接そういった言葉を聞いたことはない。
なんなら、眞城がアリスと直接話しているところ自体俺の知る限りでは見たことがなかった。けど、そういう問題じゃない。
「だってお前、さっき校舎裏でアリスに向かってさんざんキレ散らかしてただろうが!」
「なんであたしがアリスちゃんにキレなきゃなんないのよ!」
売り言葉に買い言葉でヒートアップしていく俺たちの間に、牧村が割って入る。
「待った待った!ここからは俺が説明するよ織羽志。ましろもちょっと落ち着け、な?」
牧村がそう言うと、眞城は残っていた紅茶を一気にグイっと飲んで、乱暴に受け皿に戻した。動作がいちいちおっかない。
眞城が落ち着いたのを見て牧村はため息を吐くと、「ええとだな……」と言って、話し始めた。




