第二十三話 ぼっちと陽キャ②
「眞城がアリスに何を言われたのかは聞いた。でもそれは誤解なんだ」
「誤解?あいつはアタシに『気安く触るんじゃねぇぶっ殺すぞ』って言ったんだけど?どこに誤解する要素があんの?」
「それは……」
言い淀む。
確かに誤解するような要素は微塵もない言葉だ。自分で言っておきながら、これを誤解にするにはどう話を持っていけばいいのかさっぱりわからない。
とりあえず眞城の視線が痛いので何か言わなければと思って口を開く。
「あいつは海外出身だから、言葉を変なタイミングで使うことがあるんだよ」
「あれだけペラペラ日本語喋っといてそんなことあるわけないでしょ」
自分で言っておきながら、確かにそのとおりなんだよなぁと納得してしまった。
おそらく眞城の誤解を解くためには、アリスが俺達にとっての普通とは違うということを正直に言うしかないのだと思う。
下手な言い訳をするよりかは真実を伝えたほうが説得力も段違いだし、誠意もある。
でも、そうした場合、果たして眞城はアリスと再び友達になってくれるのだろうかという疑問があった。
面倒くさい奴だと、もう関わりたくないと思われてしまうのではないか。
アリスが謝ることができたとして、そのまま別れてはい終わりということになってしまうのではないか。
そう考えると下手なことは言えない。
アリスの夢は友達を千人作ること。その夢を叶えるための一歩として、眞城と友達になるのは必須だ。
それは別に眞城の交友関係が広いからという理由だけではない。
苦手な人だろうと仲良くなれるようでなければ、いつまで経っても千人なんて夢には近づけないからだ。
だが、憎々し気に眉間にしわを寄せながら、眞城は吐き捨てるように言う。
「アタシにぶっ殺すなんて言ってきたのはあいつが初めてよ。ほんとムカつく。絶対に許せない」
「…………」
眞城の言葉に何も言い返すことができなかった。
眞城の怒りは本物だ。本気で怒っている。多分、謝っても許してくれないくらいに。
それでも……。
「なぁ、眞城。アリスはお前に謝りたいって本気で思ってるんだ。それだけは聞いてやってくれないか」
ダメ元で、とかいうわけじゃない。せめてここ最近のアリスの努力を無駄にしないことが、今の俺にできるせめてものことだと思った。
それに、どうせ無理だからと決めつけて謝らないよりも、謝ったけど無理だったの方が気持ち的に楽になる。次にも繋げることもできるはずだ。
だが、そんな俺の言葉を眞城は一蹴する。
「そんなの、聞くわけないでしょ」
「……そうか。でも、あいつは全部自分が悪いって、そう思ってる。それだけはわかってやってほしいんだ。頼む」
俺は、自然と眞城に向かって頭を下げていた。
地面を見つめながらふと、なんでこんなことをしているんだろうと思う。
他人の、ましてやアリスなんかのためにここまでしようなんてこれっぽっちも思ってなかったのに。
眞城の返事はなかった。
俺の言葉を聞いてどう思ったのかはわからない。でもせめて、アリスのことを敵ではないと思ってくれればいいと、そんなことを思っていた。
しばらくの間、俺と眞城との間に沈黙が流れる。
眞城が何かしてこない以上、俺も動くことはできなかった。
ただひたすらに相手に向かって頭を下げ続けるという地獄のような時間。
だが――。
「…………ぐす」
その時間は唐突に聞こえてきた小さな嗚咽によって終わりを迎えた。
まさか俺が無意識のうちにと思って鼻を触ってみるが、当然そんなわけはない。
咄嗟に顔を上げる。見上げた先の眞城はさっきと変わらない様子で威圧的に腕を組んで堂々と仁王立ちしていた。
だが、どういうわけか、キッと睨みつけたその目の端に、うっすらと涙が浮かんでいる。
徐々に溜まっていくそれは、しばらくすると小さな粒となって眞城の頬を伝っていった。
泣いている。あの眞城が。
え、なんで?
俺が疑問符を浮かべるのと同時に、遠くから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。




