第二十二話 ぼっちと陽キャ①
アリスと奈々衣が友達になってから数週間が経過したが、アリスを取り巻く状況に特段変化はない。
一応、眞城に謝罪するための練習はそれなりにしているのだが、何分眞城が一人になる状況と言うものが全くと言っていいほどないのである。
眞城の周りには常に誰かしら一人は付き従っており、それは登校中も、昼休み中も、下校中でさえも変わらなかった。トイレに行くときでさえ一人になることはない。陽キャと言うものは学校にプライベートはないのだろうか。
基本的には同じクラスメイトの女子とつるんでいることが多い眞城だが、下校中などは他クラスの女子の姿も見受けられ、改めて眞城の交友関係の広さを思い知る。
同時にそんな眞城と友達になれるチャンスをアホな理由で不意にしたアリスの愚かさも改めて再認識するのだが、もはやそのあたりは考えても仕方ないので考えないことにした。
そんな中、転機は唐突にやってきた。
―――――
ある日の放課後、本日最後の授業で机の上に広げていた教材やら筆記用具やらを鞄に詰め込んでいると、唐突に声をかけられる。
「ねぇ」
「ん?」
顔を上げてみると、そこに立っていたのは金髪ウェーブ化粧増しましのギャル、眞城だった。
珍しく取り巻きは誰もおらず、完全に一人。ちなみにアリスは授業終了のチャイムが鳴った瞬間飛び出していったので既に教室にはいない。
それにしても怖い。
椅子に座っているので眞城を見上げる形になっているのだが、鋭い目つきは見下されているように見えて思わず身を引いてしまうくらいの圧がある。
仏頂面なので何を考えているのかはわからないが、怒っているように見えてしまうのは俺の先入観のせいだけではないだろう。
「ちょっと来い」
そう短く言うと、眞城はずかずかと歩き出してしまう。
わけがわからず呆然と見送っていると、入り口のところで立ち止まって睨みつけてくる。
その目は『さっさと来ないとぶっ殺す』と言っているように感じられた。やだ、ほんとに怖い……。
「何なんだ一体……」
何のために呼び出されたのかはわからないが、しかしよくよく考えるとこれはまたとないチャンスだ。ずっと待ち望んでいた眞城が一人でいる状況がむこうからやってきたんだから。
なんとか言いくるめることができれば、アリスを呼び出して謝罪にこぎつけられるかもしれない。
机の上の片づけを放棄して、すぐさま眞城の後を追った。
―――――
眞城の後に続いて辿り着いたのは校舎裏だった。
校舎裏が見えた時点でもしかしてカツアゲされるために呼び出されたのではと内心びくびくしていたのだが、物陰で誰かが待ち構えているということもなく、突然眞城の拳が飛んでくるということもなかった。
適当な場所で立ち止まると、眞城は俺に向き合って何の前振りもなく言った。
「あんた、最近あいつと仲いいみたいね」
あいつとは間違いなくアリスの事だろう。
学校では接触しないようにしていたとはいえ、あれだけバカ騒ぎしながら一緒に登下校していれば隠すなんてそもそも無理だった。
「別に仲がいいわけじゃ……」
「うっさい」
ぴしゃりと言葉を遮られる。
「何?もしかして狙ってんの?」
「狙ってるって、アリスをか?冗談じゃない」
「どうだか」
すると、眞城は俺のすぐ目の前まで近寄ってきて大袈裟に腕を組んだ。
そのあからさまな動作に、何かあったら殴りますよと脅されている気分になる。実際、手を伸ばせば余裕で届く距離だ。
さすがに殴られるのは嫌なので一歩下がるが、下がった分だけ眞城が詰めてくるので一向に距離を離すことができない。仕方なく近距離で向かい合うしかなかった。
つまるところ、眞城が俺を呼び出した理由は、自分に歯向かってきたアリスなんかと仲良くしてんなよと言いたいからなのだろう。
前にアリスから聞いた話が本当なら、ある意味眞城も被害者だ。傷ついているクラスメイトによくしてあげようと思っただけなのに、手酷い言葉を投げつけられたのだ。許せないという気持ちは当然だと思う。
でも、アリスが謝りたいと思っている気持ちも嘘じゃない。
なんだかんだ言いつつ、ここ最近、アリスはアリスなりにどんな言葉で謝れば誠意が伝わるのかをずっと真面目に考えていた。
だからこそ、俺は眞城と一対一で話が出来るこのチャンスを必ずモノにしなければならない。
アリスが友達作りに一歩踏み出すために……そして何より、俺がアリスから一秒でも早く解放されるために。




