第二十話 ぼっちと日常⑦
「でも、嬉しいなぁ。私、アリスさんのお話を聞いて、ずっと話してみたいって思ってたんです」
「……そ、そうなんですか」
「はい。綺麗で、クールで、大人っぽくて、とても私と同い年とは思えません。今も私だけこんなにはしゃいじゃって。子供みたいで恥ずかしいです」
「………………」
あーあーあーあー言わんこっちゃない。どんどん外堀を埋められていってる。もう引くに引けないところまできてるな。やめるなら今しかないぞと目配せするが、
「あの……………………………………ありがとうございます」
結局言えず。
アリスの本性を隠したいという気持ちもわからないではないし、全部を曝け出す必要もないが、でも結局最後に辛くなるのは自分だ。
今はそれでもいいだろうが、友達が増えれば増えるほど、被らなければならない仮面も増えていくことになる。
一人二人ならいいかもしれないが、アリスの目標は千人。本気で目指すつもりなら、猫なんて被っている余裕は絶対にない。不器用なアリスならばなおさらに。
それに嘘はいつかバレる。信頼を失ってしまえば、せっかくできた友達も二度と近づいてくれなくなるだろう。
なにより、そんなことをして作った友達に意味があるとは思えなかった。
「聞いてくれ、奈々衣」
「なんですか?」
「アリスはボッチなんだ」
「ボッ!?」
恥ずかしげもなく目と口をガパッと大きく開いてアホ面を晒すアリス。そうそう、それでこそ俺の知る國乃アリスだよ。
「ボッチ……って、一人ぼっちという意味の……?」
「そう、そのボッチだ。友達がいない奴のことだな」
「……お、織羽志さんは一体何を言っているのかさっぱりわかりませんねぇそんなわけないじゃないですかこのあたしがボ、ボッチなわけが……」
「そうなんですか?」
奈々衣の純粋な瞳に見つめられて俯くアリス。額には汗が浮かんでいる。
俺は嘘を言っていない。だから、それを否定するということは奈々衣に嘘を吐くということでもある。
根は真面目なアリスのことだ。優しい奈々衣に嘘を吐くことはさぞ心苦しかろう。
でも、猫を被り続けるということはそういうことだ。こんなところで耐えられない奴が今後耐え続けていくなんて不可能だろう。
苦しそうにしているアリスにさらに追い打ちをかける。
「それに、陰キャでもある」
「いんきゃ……?」
「かばね先輩っ!?」
今度は身を乗り出して抗議してくるが、奈々衣が見ている手前掴んだりはしてこない。
「陰キャってのは性格が陰気で、すぐに落ち込んだり、なんでもかんでも後ろ向きに捉えるような内気な奴のことだ」
「そう、なんですか?」
「………………………………そんな、ことは」
俯いたままアリスはぼそりと零すように言う。あと一押しってところだな。
「俺がアリスと初めて話したのもこの旧校舎でな。丁度昼休みに、アリスが便……」
「それだけは駄目ええええええええええええええええええええええええええええっ!」
ついに耐えきれなくなったアリスが大声で叫びながら飛び掛かってきた。奈々衣の目の前だということもすっかり忘れて、俺の口を塞ごうと必死に手のひらを押し付けてくる。
「言っていいことと悪いことがあんでしょうが!?あんた鬼か!?」
「鬼じゃない、兄だ」
「つまんねぇこと言ってんじゃねぇっ!」
「あの、アリスさん……?」
「ハッ!?」
アリスが恐る恐る振り返る先には、困惑した様子の奈々衣。どこか残念そうにしている表情を見てアリスの顔から血の気が引いていく。
「アリスさんと話していて、なんだか違和感があるなって思っていたんですけど……こういうことだったんですね」
「いや、違うんですよ。これは、なんと言いますか……」
言い訳をしようとするアリスだったが、そんなアリスを見て、奈々衣は柔らかな笑みを浮かべた。
「私にも、普通に接してもらえませんか?」
「……え?」
「アリスさんを初めて見た時、綺麗よりも、可愛いよりも、まず優しそうな人だなって思ったんです。こんな人と友達になれたら、嬉しいだろうなって」
「そんな、ことは……」
「それで、今日こうして話をしてみて、やっぱり、友達になりたいって思いました」
「…………見た目だけじゃ、どんな人間かなんてわからないじゃないですか」
途中で言葉を切ったアリスは、悲しそうな顔をして呟くように言った。




