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隣のアリスちゃん  作者: sazamisoV2
第一章
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第十八話 ぼっちと日常⑤

 アリスが向かった先は案の定旧校舎だったが、さすがに前回のようにトイレには向かわなかった。


 代わりに入ったのは鍵が壊れている空き教室の一つ。


 昨日見た限りでは机も椅子も教室の後方に乱雑に積み上げられていて歩くだけで埃が舞いそうだったのに、誰かが掃除したのか教室中が綺麗になっている。誰がやったのかはすぐに想像がついた。


 扉を後ろ手に閉めながら、アリスに問いかける。


「で、何だよ」


「時間がもったいないのでお昼食べながら話しましょう」


 そう言って、アリスは二つの机を向かい合わせにして手早く椅子を設置すると座るように促してくる。

 なんだか無性に抵抗があったので机を少し離すが、すぐさまゴツンと机をぶつけてきたので仕方なくそのまま座った。


 アリスは売店で買ってきたであろうパンをいくつか、俺は持ってきた弁当を机に広げて食べ始めたところで、アリスがどこか神妙な面持ちで口を開く。


「あの、先輩。人と話をするのって、どうやるんでしたっけ……」


「いきなり何を言い出すのお前は」


「いえ、今日一日眞城さんと話をできるタイミングとか探ってみてたんですけど、その、謝る以前になんて話しかけたらいいのかがわからなくなっちゃって……」


「あぁびっくりした。そういうことか。思わず帰るところだった」


「なんでいきなり帰ろうとしてんですか。これはあたしにとって切実な悩みなんですよ」


 切実な悩みと言いながら、暢気な顔で美味しそうにパンを頬張っている。本当に悩んでるんだろうか。


「ちなみに、お前の周りに人がいた頃はどんな感じだったんだ?」


「基本的に話しかけられてただけだったので、あたしの方から話しかけることはほとんどありませんでしたね」


 大勢に話しかけられててんぱっているアリスの様子が目に浮かんだ。確かにこれだけ話題性のある奴なら周りもちやほやしたいと思うのは当然だろう。

 今となっては……いや、この話はやめよう。無駄だ。


「眞城に話しかけたこともなかったのか?」


「あたしからはなかったです。眞城さん、元々そんなにべらべら喋るタイプじゃないみたいで。どちらかと言うと周りが話しているのを聞いて反応するって感じでした」


 周囲の話を聞いて最終的な判断を下す。まるで会社の社長みたいな奴だ。


 しかしそれはそれで厄介である。

 つまり眞城からアリスに話しかけてくる可能性は低いということだ。話しかけてきたところに合わせて謝罪という流れが一番楽でよかったのだが、それは難しいかもしれない。


 となるとアリスが自分から話しかけに行かないといけないわけだが、どうやって話しかけたらいいか悩んでいる時点でかなり厳しそうだ。


「なら、そういう場をセッティングするのがいいのかもしれないな。どっかに呼び出したりとか」


「でもあたし、多分、というか絶対、てんぱっちゃうと思うんですよ」


「紙に書いて読み上げるだけならできるんじゃないか?」


「それだと誠意が伝わらないかも……」


「真面目か。別に構わないだろそれくらい」


「構いますよ。もし一回目で失敗したら、二回も三回も謝らなくちゃならなくなるじゃないですか。先輩はそんな苦痛にあたしが耐えられると思ってるんですか?」


 できれば一回だけで済ましたいという気持ちはわからないでもないけど、その言葉に誠意込められてるんですかね。


「とにかく、試しに俺を眞城だと思って練習してみるか」


 昼食を食べ終えて片づけをした後、アリスと向かい合って座る。雰囲気的には受験の面接練習みたいな感じだ。


 スマホのメモにぱぱっと考えた普通の謝罪文を書いて渡し、いざ練習を始めようとしたのだが、アリスは画面と俺の顔を何度も見比べたまま言葉を口にしようとしない。


「なんか気になることでもあるのか?別に変な事書いてないだろ」


「いえ、そういうことじゃないんですけど。その、こういう畏まった感じで男の人と見つめ合うということがこれまでなかったので、その、ちょっと恥ずかしいと言いますか……!」


 照れ照れしながら言うアリス。めんどくせぇ。


「大丈夫だアリス。俺が見てるのは目じゃなくて鼻の穴だから。見つめ合ってるわけじゃない」


「な、なんてとこ見てんですか!?確かに目線ちょっと下だなとは思ってましたけど!」


 言いながら手鏡を取り出して身だしなみを確認するアリス。手鏡常備とか意外と女子力高い。

 実際には眉間の少し下くらいを見ているのだが、反応が面白いのでこのままにしておこう。 


「ダメ!鼻の穴見るの禁止!」


「じゃあどこ見ろってんだよ」


「目を見ろよ目を!目じゃないにしてもいくらでもあるだろうが他に!なんでよりにもよって鼻の穴なんだよ!」


「……まぁそれはそれとして」


「今の間は何!?あたしの顔ってそんなに見るとこないの!?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐアリスはとりあえず無視して話を続けた。


「これまで何回も告白されてきたんだろ?だったら男に見られることなんて屁でもないんじゃないか?」


「……そういうときは大抵俯いてましたし、一言断るだけで会話なんてしなかったので。そもそもちゃんと返事したのも何回かくらいだし……」


「さす陰」


「何か言ったか」


「いや何も。とりあえずやってみるしかないだろ。こういうのもどうせ慣れだ。スマホ見たままでいいから」


「わ、わかりましたよ。でも先輩はちゃんと目を見ててくださいね!ほかのとこ見ちゃ駄目ですからね!」


 そう念を押しながら、ふぅと息を吐いてスマホを見るアリス。


 だが、「あー」とか「うー」とか言うだけでやっぱり声に出すことができない。


 ここまで来ると重症だ。慣れないことをやっているというのもあるだろうが、やはり練習相手が男と言うのが結構なネックになっているらしい。

 このまま続けたとしてあまり成果は得られない気がする。


 正直あまり気は乗らないが、かといって頼れる人が他に誰もいないので仕方ない。


 俺はスマホを操作して、とある人物に電話を掛けた。

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