第十七話 ぼっちと日常④
アリスに協力することになったとはいえ、二人で学校に入るところを見られでもすれば変な噂を流されかねない。
そうなれば、アリスの友達千人の夢も遠のいてしまうかもしれない――という建前のもと、普通に俺がアリスと一緒にいるのが嫌なので、学校内では基本的に関わらないようにしようという取り決めをした。
アリスは最初渋っていたが、建前の方を説明してやると『先輩……あたしのためにそこまで考えて……!』とか言って涙ぐみながら了承してくれた。ちょろい。
一応俺はクラス内では目立たないグループ(一人をグループと言っていいのかはわからないが)に属しているが、アリスと行動することになれば嫌が応にも目立ってしまう。
目立ちたくない俺にとってそれは絶対に避けたかった。一緒に登校してきた時点でもう手遅れな気もするが気にしてはいけない。
そんなわけで、学校に到着する少し手前でアリスと別れ、教室へ向かう。
一足先に教室に到着した俺が教科書類を鞄から机の中に移していると、がらりと扉を開けてアリスが入ってくる。ちなみに猫被りモードだ。
アリスが入ってきた瞬間、僅かにだが教室内の空気が変わったような気がした。
口数がちょっとだけ減るとか、声がほんの少し小さくなるとか、それくらいの違和感。
それはよくよく注意していなければ気付かないくらいのものだったが、気づいてしまえばはっきりとわかってしまうくらいの変化だった。
今まで全くといっていいほど気にしていなかったが、なるほど、アリスと言う存在はこのクラスにとってそれくらい特別なもののようだった。
それがいい意味でのことならよかったのだが、残念ながらそうではないらしい。
アリスはさっさと俺の隣の席に腰を下ろすと、そのまま腕を枕にして机に突っ伏した。完璧な陰キャムーブ。いや俺も暇なときはそうしているので人のこと言えないんだけど。
しばらくすると、一際大きな話し声と共に一つのグループが教室に入ってくる。
女子生徒複数人を引き連れながら入ってきたのは眞城だった。
眞城が来るなり、アリスの時とはまた違った意味で教室の雰囲気ががらりと変わる。
眞城の机への道がまるでモーゼのように開かれ、神を崇めるがごとく誰彼構わずおはようの嵐が降り注ぐ。それを面倒くさがりもせず、一つ一つ丁寧に返していく眞城は、確かにこのクラスの中心であることは間違いなかった。
果たしてこの陽キャの神と陰キャの化身が仲良くなれる未来なんて存在するのだろうか。無理臭いなぁ。
あまりじろじろ見ていると目が合ってしまいそうだったので、俺も化身に倣って机に突っ伏して授業が始まるのを待つことにした。
――――
午前中の授業は全て座学だったため特に何もなく進行し、昼休みがやってくる。
授業中のアリスは当然のように発言などはせず、ただ黙って授業を聞いてノートを取っているだけだった。
一度目が合ってしまったのだが、ヘタクソなウインクをばちこーんと叩きこんできたので舌打ちしたら泣きそうになっていた。
新しいクラスになってから約一か月、知らなかったとはいえ、こんなやばい奴の隣で過ごしてきたんだと思うと、やっぱり知らなくていいことはあるんだなぁとしみじみと思った。
昼休みに入り、いつものように弁当を机に広げようとしたところで、アリスが席を立った。
また売店に寄って旧校舎にでもいくのかと思っていると、俺の机の前で立ち止まり、俺の弁当を指さしたあと教室の外に向ける。
声をかけてこないあたり俺がお願いした学校内では極力関わらないということを守ってくれているらしい。
ジェスチャーからしてついて来いと言うことだろう。やだなぁ行きたくないなぁ。
無視してもよかったが、後で絡まれるのも面倒なので、仕方なく俺は弁当を持ってアリスの後を追った。




