第十六話 ぼっちと日常③
学校へ行く道すがら、アリスはずーっと何かしら喋っていた。
教室でいつも見ていたアリスからは想像もできなかったが、聞いてくれる人がいなかっただけで元々喋るのは好きなのだろう。
ちなみにアリスは靴下は左足から履く派らしい。世界一どうでもいい情報に脳の容量を割かれてしまったことが非常に悔やまれる。さっさと忘れよう。
そんなアリスだったが、学校へ近づいていくにつれて口数が減り、自然と声も小さくなる。
口調も丁寧なものになり、表情もいつも教室で見るすまし顔になっていた。
つまるところアリスの猫被りという奴だろう。
「お前、学校ではやっぱりそれでいくのか?」
「仕方ないじゃありませんか。素のままだと、その、色々問題もありますし」
「確かになぁ……」
その色々というものを短い時間で散々思い知らされたので何も言うことができなかった。
「否定されないはされないで少しばかり複雑なんですけど」
「もういっそのこと大暴れして全部リセットしたほうが楽なんじゃない?」
「織羽志さんは私を助けようとしてるのか陥れようとしてるのかどっちなんですか。リセットするにしても暴れる必要ないでしょう」
「新しい何かが生まれるかもしれないだろ」
「生まれねぇよ!生まれたとしても敵だけだよ!」
「出てる出てる、素が出てる」
そこで、ずっと思っていたことを口にする。
「お前のその口の悪さはどうにかならないのか?」
正直、外見とのギャップがありすぎて違和感しかない。
日本人離れした顔で日本語をペラペラ喋っている時点でかなりの違和感があるのに、そこに汚い言葉が混じっているのだから頭がバグりそうだ。
アリスの本性を知っていればまだ理解してもらえるかもしれないが、何も知らない人相手に同じようなノリで話したらドン引きされるのは目に見えている。
眞城に対してもそれのせいで仲違いしてしまったわけだし、これから友達を作っていくにあたって直していかなければならないところなのは間違いない。
「なんていうか、意識して使ってるわけではなくて……気が付いたら言ってしまってるといいますか……」
「反射的に言ってるってことか?」
「そうですね。直さなきゃいけないなとは思っているんですけど。あ、でも、別に誰彼構わず言ってるわけではありませんからね?最近は織羽志さんに対してしか使っていませんから」
「使うなよ俺に対しても」
「えーだって先輩に気を使うの馬鹿らしいじゃないですかぁ。本性割られちゃってるしぃ」
「お前が勝手に割ったんだろ俺だって知りたくなかったわ。ていうか使い分けるのやめてくれる?頭おかしくなりそう」
「わかりました」
そう言うと、アリスはこほんと咳を一つして、すんとした顔を作る。ひとまず猫被りモードで行くことにしたらしい。
そんな人が変わったようなアリスの雰囲気に一瞬気圧されつつも、なんとなくいたずら心が湧いた。
「なぁボッチ」
「ボッチって言うな!」
「はい駄目ー」
そう言うと、ハッとした顔をするアリス。煽り耐性がなさすぎる。
「ひ、ひっかけるなんて卑怯ですよ!」
「むしろなんでこんなのに引っかかるんだよ。そんなんでよくもまぁやり過ごせると思ったもんだな」
「言われてヤな言葉には反応しちゃうんです!」
「スルーしろよ。いちいち反応してたらキリないぞ」
「わかってますよ。わかってるんですけど……」
「これから友達を作っていくつもりなら直さないと駄目だぞ、それ」
日常的な会話をする中でふざけて煽られたり馬鹿にされたりするなんてことはよくあることだ。
仮にアリスに友達ができたとして、何か気になることを言われたときにいちいちムキになって反論していたら『こいつめんどくさ友達辞めよ』なんてことになるのは目に見えている。
「でも、どうしたら直せるのかわかんないんですよ。どうすればいいと思います?」
「こればっかりは慣れていくしかないんじゃないか?試しにこれからお前のことをボッチって呼ぶようにするから耐えてみろよ」
「滅茶苦茶抵抗あるんですけどそれ。せめて他の呼び方になりません?」
「じゃあ一人ぼっち」
「意味変わってないです。なんならもの悲しさが増してる」
「じゃあ陰キャ」
「いや酷くなってるから。心へのダメージが上昇してるから」
「チビ」
「それもうただの悪口じゃねぇか!ていうかあたしはそんなに小さくねぇ!」
「我儘な奴だな。じゃあ何ならいいんだよ」
「マシなやつなら何でもいいよ!そんなのしか出てこないとか先輩あたしのこと嫌いなんですか!?」
「…………」
「なんか言えぇっ!」
アリスが煽り耐性を獲得するのはほど遠そうだった。
結局アリスと登校してしまっていることに気付きつつも、極力他人を押し通す努力だけはしながら、学校へと向かうのだった。




