第十五話 ぼっちと日常②
なんだか頭がくらくらする。
なんで朝っぱらからこんな意味不明なやりとりをしなきゃならないんだろう。まぁ全部この馬鹿な金髪のせいだけど。
「今あたしのこと馬鹿にしました?」
「してないしてない」
なんにしても、このままだと本当に遅刻してしまうのでアリスのことは無視して歩き出す。
「あ、待ってくださいよ先輩!」
そう言って隣に並んでくるアリス。
「どうせ同じクラスなんですから一緒に行きましょうよ」
「なんで俺がお前と一緒に登校しなきゃならないんだよ嫌だよ」
憎らしいことに見た目だけはいいアリスは歩いているだけで周囲の目を引いてしまう。
道行く人は大抵振り返るし、同じ学校の奴は俺達を見ながらこそこそ話をしているのが見える。
それくらい目立つ奴の隣を歩いて衆目に晒されたくなんてないし、関係者だと思われたくもない。
だが、何を勘違いしたのかアリスは照れ照れしながらべしっと肩を叩いてくる。
「恥ずかしがらなくてもいいですよ先輩!あたしと先輩の仲じゃないですか!」
うざいなぁ。妙にテンション高いのもうざい。でも今のこいつには何を言っても無駄な気がする。
「なぁんだ、ばれてるなら仕方ないなぁ。でもやっぱり恥ずかしいからちょっと離れて歩いてくれない?十メートルくらい」
「十メートルって、そんなに離れたらお話できないじゃないですか」
「何言ってんだよアリス。今巷では離れて話すのがトレンドなんだぞ」
「え!?そうなんですか!?」
驚くアリスに、俺達と同じ制服を着た生徒を適当に指さしながら説明する。
「ほら見てみろよ。あいつとあいつ、本当は仲いいのに離れて話してるんだ。あっちも、あれもそう。ああやって聞き取れるか聞き取れないかくらいで話すのが今の学生は楽しいらしい」
「へぇ、そうだったんですね。わかりました!流行に乗り遅れるわけにはいきませんからね!」
馬鹿だなぁこいつ。
俺がそんなことを思っているとは露とも知らないアリスは、大体十メートルと思しき距離まで離れると手を振ってきた。準備ができたということらしい。
それに適当に手を挙げて歩き出すと、何かをぶつぶつ言いながらアリスも付いてくるが……。
ハハッ、離れすぎてて何言ってんのかさっぱりわかんねぇや!
「ってそんなわけないだろうがよぉ!?あたし、ぶつぶつ独り言言ってるやばい奴にしか見えなくないですかこれ!?」
どたどたと走ってくると当たり前の抗議をしてくるアリス。気づくのが遅すぎる。
「大丈夫だアリス。お前は元からやばい奴だから」
「慰めになってねぇ!むしろ貶められてる!?」
騒がしい奴だな本当に。
「ていうか、お前の家この辺なのか?」
いつも大体同じ時間に家を出ているが、これまでアリスの姿を見かけたことはなかった。いるだけで目立つので気付かなかったということはまずありえない。
アリスは俺の質問に首を横に振る。
「いえ、違いますよ。先輩と一緒に登校しようと思って待ってたんです」
なんか不穏な言葉が聞こえた気がする。
「待ってたって……俺の家知ってるのか?」
「はい。昨日の夜に地図で調べておきました。先輩の苗字珍しいからすぐ見つかりましたけどね。家に行こうとも思ったんですけど、さすがに初日なので遠慮しておきました」
「…………」
額に冷や汗が浮かんだ。個人情報保護とは……。
そんな俺の気など知る由もなく、アリスは暢気に続けた。
「あたし、誰かと一緒に登校するのって初めてで、今ちょっと楽しいです!」
「……あ、そう」
こいつ、距離の詰め方が異常だ。例えるなら電車で「座ってもいいですか?」と聞かれて「いいですよ」と答えたら膝の上に座ってくるくらい異常だ。
いくらボッチだったとはいえ、さすがに初めて話した翌日に待ち伏せまでして一緒に登校しようなんて普通思わないだろう。
前に生活していた国ではこれが普通だったんだろうか。
いや、そんなことはあるまい。きっとこいつが異常なだけだ。そうに違いない。
俺は思った以上にやばい奴に目をつけられてしまったのかもしれない。早くも協力すると言ってしまった昨日の俺の判断を呪った。
早々にアリスに友達を作らないと、本当に俺の学校生活がアリス一色に染められてしまう。
それだけは何としても阻止せねば……。




