第十二話 ぼっちと放課後⑤
「ま、まぁ?先輩がボッチのまま一人寂しく修学旅行とか回ることになったら?心優しいこのあたしが一緒に回ってあげてもいいですけど?」
「勘弁してください」
「な、なんでですか!ちょ、深々と頭を下げるんじゃねぇ!あたしと回るのそんなに嫌か!?」
「嫌です」
「本気だ!この人本気で言ってる!」
それだけは御免被りたい。こんなにうるさくて目立つ奴と一緒に回るくらいなら普通に一人で回る。
だが、俺がその時までボッチのままだったらどうせ余り組で組まされるのだろう。
そうなると確実に余っているであろうこいつと一緒の班になる可能性は非常に高い。
というかほぼ確定だ。
今日一番の大きなため息を吐く。
何もしなくても今のアリスなら俺に構ってくるだろう。
そして、それを回避するためにはアリスに友達を作ってやるのが一番の近道のような気がする。
いずれにしてもアリスと関わり合いになるのはもはや避けられないことのように思えた。
だったらあとはどうすればいち早くアリスから解放されるのか考える方が幾分か建設的だ。
「どうかしましたか?」
体を乗り出して心配そうに俺の顔を覗き込んでくるアリス。
ガラス細工のように透き通った青い瞳が俺の顔を映している。
本当に、精巧にできた人形のようだ。
長い睫毛に小ぶりな鼻、潤いをたたえた唇に染み一つない肌。
まさに美しいという概念を全て詰め込んだような顔。
テレビやドラマに出ている女優にもまるで引けを取っていない。
なんなら頭一つ飛び出ているくらいだ。
だからこそ、なぜこんな残念な性格になってしまったんだろうと思う。
それさえなければ、こんな風に悩むこともなく今頃は多くの友達に囲まれていただろうし、それこそ、眞城達に混じって優雅なガールズトークでも繰り広げていただろうに。
「なんでもない。とにかく、まずは眞城に謝るところからだな」
「え?」
素っ頓狂な声を出して聞き返してくるアリス。
「友達千人作るんだろ?」
「それは、そうなんですけど……」
「仕方ないだろ。クラスは眞城が牛耳ってるようなもんなんだから。まずはそこをどうにかしないと始まらない」
「いや、そうじゃなくて!」
「何だよ」
聞き返すと、アリスは自信なさげに言った。
「それは、その……協力してくれる、ってことで、いいんですか?」
「協力しないって言っても付き纏ってくるんだろ?どうせ」
「あたしはそんなストーカーみたいなことしませんけど!?」
じとっとした顔で見ていると、アリスはバツが悪そうに眼を逸らした。
「……まぁ、先輩に協力させるためにはどうすればいいかくらいは考えてましたけど」
「例えば?」
「い、色仕掛けとか?」
「ブフゥッ」
「わ、笑うな!何がおかしい!」
笑うなと言うほうが無理な話だった。
言葉にしただけで耳まで真っ赤にしている奴に何ができるというのだろう。
そもそも、色仕掛けと言う言葉自体アリスに似合わなさ過ぎる。
笑う俺を見てアリスはむくれていた。
そういう反応をしているうちは色仕掛けとは無縁だと思う。
「協力はする。でも、眞城と仲直りするまでだ」
アリスは一瞬ぱっと顔を輝かせたが、すぐになんともいえない微妙な顔をした。
何かを言おうとして、でも声にはならない。
一度言葉を飲み込んでから、アリスは再び口を開く。
「千人作るまで協力してくれないんですか?」
「するわけないだろ。何年かかると思ってんだ。俺の残りの高校生活全部お前のために使わせる気か?」
俺だって年頃の男子高校生。
後で思い返したときにあの頃はよかったなぁと思えるくらいの青春は謳歌しておきたい。
ボッチにそれができるかどうかは別として。
「眞城と仲直りした後は一人で頑張れ」
アリスが何かを言いたそうにしているのはわかる。
そして何を言おうとしているのかもなんとなく察していた。
でも、それを言われる前に俺は席を立つ。
俺はきっと、アリスが抱いているような期待に答えることはできないだろうから。
アリスは慌てて残っていたカフェオレを一息で飲んでから立ち上がると、俺をまっすぐに見つめて、
「よろしくお願いします、先輩」
そう言って、目をそらしたくなるほど綺麗な笑顔を見せた。




