第十一話 ぼっちと放課後④
話を聞いて、俺は言った。
「馬鹿じゃないの?」
「ば、馬鹿ってなんですか馬鹿って!」
「馬鹿だろうが!何?どうして照れ隠しで『ぶっ殺す』なんて言う必要があるの?普通に『ありがとう』でいいだろうが!ていうか眞城も周りの奴らも普通にいい奴じゃねぇか!」
そりゃ誰だって突然『ぶっ殺す』なんて言われたらキレる。
キレないにしても、『え、何こいつ近寄らんとこ』となるのは当たり前だ。
長い間一緒にいる気心の知れた相手になら冗談だと理解してもらえたかもしれないが、出会って間もない奴に言われてもわかるわけがない。
真に受けるのは当然だ。
眞城の友達は多い。うまく取り入ることができれば友達なんてあっという間に増えただろうに、アリスは自分の夢に近づけるまたとないチャンスを自ら不意にしていたのだ。
しかもどうしようもないくらいしょうもない理由で。
これを馬鹿と言わずになんと言うのか。
そもそもアリスが猫を被りながら接するという時点で既に無理があったのだろう。
最初から見栄を張って猫なんて被らなければ、友達はできなかったかもしれないが少なくとも眞城の逆鱗に触れることはなかっただろうに。
「何もかもお前が悪い」
俺の言葉を聞いてアリスは俯いた。自分でもわかっているのだろう。
しかし、そうなると話はまた大きく変わってくる。
現状では、アリスが誰かに友達になってほしいと言ったところで、その後ろに眞城の逆鱗が待っているとわかっていれば誰も友達になんてなってはくれないだろう。
虎の尾が見えているのにわざわざ踏もうなんて奴はいない。
高校生活はあと二年間もあるのだ。誰だって楽しく送りたいと思う。
なんにしても、アリスが友達を作るためには眞城を何とかしなければならないだろう。
だが、アリスのこの陰キャぶりを見る限りそれは難しいように思えた。
「一つだけいい案を思いついたぞ、アリス」
「何ですか?」
「諦めよう」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!何勝手に諦めようとしてるんですか!」
「そりゃそうだろ。あのおっかない眞城を怒らせたんだ。ぶっちゃけ詰んでる」
「うぐっ……」
アリスの話からして、眞城は友達に対してはそれなりに優しい部分があるのかもしれない。
根っからの悪人と言うわけじゃないのなら、おとなしくしていれば留飲を下げてくれるかもしれない。
だから諦めるという選択もありだと俺は思う。
だが、アリスは納得しなかった。
「それは……嫌ですよ。諦めるのは嫌です」
「……なんでそこまでして友達が欲しいんだよ」
それはアリスの夢を聞いた時から抱いていた疑問でもある。
友達が欲しいなんて、きっと世の学生たちは誰しもが思っていることだとは思う。
そう思っていない人も当然いるだろうが、ただ、学生生活を送る上で集団行動は避けては通れない。
一人だけではできないことも多い。だからいないよりはいたほうがいい。それは間違いないことだ。
でも、実際に作れるかどうかは半ば運に近い。
クラスに気の合う奴がいればいいが、いなかった場合どうにもならない。
無理して作ったところで楽しくないし、ちょっとしたすれ違いですぐに離れてしまう。
だから離れないように気を使って、気を使った分だけ疲れていく。
もちろんそういった友達関係はありふれたものだし、否定したいわけでもない。
ただ、疲れるくらいなら無理に作るようなものではないと俺は思っている。
アリスは悪い奴じゃない。
言動におかしいところはあるが根はいい奴なんだろう。
でも、出会ったばかりの俺が言えた義理じゃないかもしれないが、それを理解してもらうにはアリスは不器用すぎる。
性格が友達作りに向いていないと言わざるを得ない。
それはおそらく本人も自覚していることだろう。
それでも頑なに友達が欲しい理由が俺にはわからなかった。
しばらく待っても、アリスからの答えはない。
ほとんど冷めてしまったカフェオレの最後の一口を喉の奥に流し込んだ頃、ようやくアリスは口を開いた。
「後悔、したくないから」
その一言は、独り言のようにも聞こえた。
でもそれは紛れもないアリスの本音のように思えた。
はっとした顔をして、アリスは下手な笑顔を浮かべる。
「あ、後で高校生活を振り返ったときに、ずっとボッチだったなんて笑い話にもならないじゃないですか!それに、修学旅行や文化祭みたいな楽しい行事だって目白押しですし!絶対、一人でなんて回りたくないですから!」
なんとも言い訳がましい言い草だった。
多分、今言った以上の理由がアリスにはあるのだろう。
だが、それを深追いして聞こうとまでは思わなかった。




