AIにあるもの、私達にしかないもの
最近の家電はAI搭載が多い。冷蔵庫もオーブンレンジも。喋るだけなら、どの家電もお喋りを始める。中には、日本語ではなく「ぴろろんろん」「でゅりん」と音だけ鳴らして、はじまりと終わりを知らせるだけのものもあるが、なんとなく、喋っていると感じる。
そして、最近うちに新しいクーラーが入った。
AI搭載でスマホと連携させれば、外出先からクーラーのスイッチも入れられるし、人の温度を察知して暑い人を冷却するようになるという。
そして、よく喋る。
「体感温度28度で、運転を始めます」
「運転中に電源が切られました。次回はお掃除完了後まで電源を入れておいてください」
喋られると、慣れない私は答えてしまう。
「はい、お願いします」
「あ、ごめんなさい。てっきり付けっぱなしかと」
AIさんはもちろん無視する。
そして、大きな勘違いを正そうともせずに、同じことを信じて繰り返す。
猫がキャットタワーに登る度に、なんて体温の高い奴だとばかりに集中攻撃を始めるのだ。猫は確かに暑いので、気持ち良さそうに目を細めているが、「そもそもの体温が高いんですよ」は理解しない。
犬や猫が床にいる間は、体高が低すぎて感知せずに、自動運転まで止めてしまうことすらあるらしいのに、キャットタワーに登ると、人間よりも明らかに背が高いのに、必死に冷やそうとする。
教えても、言いっぱなしで答えない。
だけど、今は生成AIもある。こちらの質問に答えるのだ。
そう言えば、スマホのアシスタントAIが勝手にしゃべり出すことがあったな。多分、何かを聞き間違えて、今日の天気は……などをしゃべり出す。
かまってちゃんなのかな、と思ったこともあった。
いつか、「あ、そうなんですね」と答えながら、「でも、体感温度28度で運転していますから」「運転中に電源が切られました。次回はお掃除完了後まで電源を入れておいてください」と言うようになって、お前は役所の人間かっと突っ込みたくなるのかもしれない。
だけど、四角四面なところは、まだまだ変わらないのかな。
「その子は、猫。そもそもの体温が高いんですよ」
もちろん、答えないけれど。
「集中攻撃されてるね」
猫は私を見ながら、「なんか用?」くらいのなんとなくの返事する。飼い主のことを特別と感じて甘えられる猫。
『AI』ねぇ……。
『名は体を表す』になるということはあるのかな、と思いながら、AIをローマ字読みで、クスリと笑う。
「仕方ないな……」
あと少し、猫には体温の高い『人』でいてもらおう。
『愛』を持つのは、まだまだ人間の特権。そのくらいは、勝っておきたいと感じる老いも感じ始めた今日この頃だ。