旅は道連れ2
「ヒッ!! な、何ですか!?」
路地裏に連れ込まれた僕は見知らぬ男たちに囲まれ、体を震わせる。
「何だぁ? よく見たらコイツ人間じゃねーな。魔物か?」
「ウサギの耳がついているが、何の種族かは分からねーな」
「あ、あの……僕に何のようですか?」
「うるせーな!! 勝手に喋るんじゃねぇ!!」
「ヒッ!!」
男たちの大声に驚いてしまった僕は頭に生えている耳に手を当て、後退する。
「店でのやりとりを見てたらよぉ。お前の連れが大金を払ったのを見ちまってよぉ。まだたんまり持ってそうだから、身代金目的でお前を拉致らせてもらったわけよぉ」
そ、そんな!! ぼ、僕のせいでセリナ様に迷惑をかけてしまう……。
「だからよぉ。大人しくついてきてくれないかなぁ?」
1人の男がナイフを持って僕に近づいてくる。
肩に触れられた瞬間、防衛本能が働き、男を殴り飛ばしてしまう。
「ガハッ!?」
飛ばされた男は壁にめり込み、男たちは唖然とし、僕は殴った拳を見て叫んでしまう。
「あ……あ、わああああぁぁぁぁ!!」
人を……人を殴ってしまった!!
「こ、この野郎!! やりやがったな!!」
男たちは怒りの形相を浮べ、僕に迫ってくる。
殴られると覚悟した僕は目を固く閉じ、痛みに備えたその時。
「やめろぉッ!!」
男たちの背後から制止する声が聞こえ、男たちは振り向き、僕はソッと目を開いた。
「お前たち、子供相手に寄って集って何している?」
男たちを制止した声の持ち主は、額から角が1本生えた若い鬼のお兄さんだった。
「ああ? 何だお前は?」
綺麗な顔立ちで高身長。左の腰には剣を携えていて、男たちが尋ねているにも関わらず、手に持っていたお酒をゴクゴクと飲んでいた。
「黙れ。耳障りだ。見逃してやるから、とっとと失せろ」
鬼のお兄さんが言葉を言い切った瞬間、男たちは刃物や棒を持って、鬼に襲いかかる。
しかし、お兄さんは冷静に男たちの動きを見て、最小限の動きで攻撃を躱し、的確に急所を軽く小突く。
男たちは声を上げることなく倒れ、お兄さんは優しい口調で僕に話しかける。
「怪我はないか? 少年。大丈夫か?」
「あ……うん」
安心からなのか、僕は涙を流しながら、お兄さんが差し出してきた手を握り、ゆっくりと立ち上がる。
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「確かこっちからキースくんの声が聞こえたような……」
キースの叫び声が場所に辿り着くと、十数人の男たちが寝ており、私とレイは状況を理解しようと頭をフル回転させる。
「え ?えーっと……」
「せ、セリナ様ぁ!!」
涙と鼻水を流しながら私に抱きついてくるキース。
ああ、服に付くから抱きつかないで……とは言えないよね。
「大丈夫だった? ごめんね。はぐれてしまって……」
私はキースが走ってきた方向に目を向けると、鬼の青年が佇んでいた。
そして瞬時に、彼がキースを助けてくれたんだと察した。
「助けてくださって、ありがとうございます。なんとお礼をしたら良いか……」
「いえいえ。お気になさらず。それよりもまだ怯えているようですね。自分の店で良ければ、一息入れていきませんか?」
「いえ! 何から何までしていただくのは……」
その時、私にしがみついているキースの握力が強くなり、震える姿を見て、私は思わずため息をつく。
「……お願いしても宜しいですか?」
鬼の青年はニッコリと笑みを浮べて私たちを店まで案内してくれた。
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店に案内された私たちは、挙動不審になりながらも、客間に腰を下ろす。
客間のすぐ近くには工房もあり、泣きじゃくっていたキースが目を輝かせて周囲を見渡していた。
「お茶しかありませんけど、宜しかったら……」
「あ、ありがとうございます」
私とレイは一口だけお茶を飲み、目の前にお茶が置かれているにも関わらず、キースはずっと工房に目を向けていた。
「自己紹介が遅れましたね。俺はジャック。売れない武器や防具を作り、販売している鬼です」
「私はセリナ・スカーレット。こっちはレイくん。そして……助けていただいたこの子はキースくんです」
レイはペコリと頭を下げるが、キースは完全に自分の世界に入り込んでしまい、挨拶を忘れる。
まあ、下手に口出しして泣かれても困るから、ソッとしておきましょうか。
その時、ジャックが1枚の布を取り出し、キースに手渡す。
「これは?」
「良い布だろ? 俺が手作業で作った布だ」
するとキースはありとあらゆる方向から布を見つめ、笑みを浮べる。
「凄く綺麗……凄いですね」
ジャックは照れくさそうに笑い、後頭部をガリガリと掻く。
「そんな直球に褒められると照れるなぁ」
私の目から見ても、手で作ったとは思えないほど良い布であることは分かった。布以外にも、店に飾ってある武器や防具を見ても、素晴らしいものばかりだった。
私の故郷でも腕の立つ鍛冶屋や仕立屋があったが、それ以上の技量を持っていることが分かった。
「どうして店の看板を表に出さないのですか?」
職人としての腕は間違いなくあり、胸を張って商売を素事が出来るはずなのに、看板を出すどころか、営業していることも周知していない状態だった。
私の率直な質問に対し、ジャックは苦笑いを浮べて言葉を返す。
「いやぁ~。以前からこの国は魔物を見下す風習があってねぇ。鬼の店から武器や防具を買う人なんかいなくてねぇ。まあ、生活に困らない程度に稼いでいるから問題はないけど」
そんな風習間違っている。同じ人間だけど、恥ずかしい。
話を聞いていると段々腹が立ってきた。
「ムカつかないの? 私は同じ人間として、この国のやっていることは恥ずかしいと思っています」
「確かにムカつくところもあるが……俺にはやらなければならないことがある」
「やらなきゃ……いけないこと?」
私は首を傾げ、ジャックの言葉の続きを待った。
するとジャックは鋭い目つきに変わり、思いを口にする。
「同胞たちを滅ぼした……あの魔王を倒すために、俺は武器を作り、戦いの時を待っている。この国は腐っているが、資源がある。準備する場所としては申し分ない」
魔王という単語を聞いた瞬間、私は瞬時にジャックの思いに同情し、拳を作る。
そして、思いを固め、ジャックにある提案をする。
「ジャックさん」
「はい?」
「私の里に来ませんか?」
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