旅は道連れ1
エルフの里を出発して2日が経ち、満身創痍ですと言わんばかりのレイが私に尋ねてくる。
「さ、里長……もう2日間歩きっぱなしですけど、引き抜く人に見当がついているのですか?」
「ん? いや。ついていないけど?」
『え?』
レイとキースは声を重ね、驚いた表情を浮かべる。
「まあ、旅は道連れって言うじゃない。もう少し頑張ってよ」
「そ、そんなぁ~」
あまりのショックに歩くのを放棄するキース。
え、ヤダ。メチャクチャ可愛い!!
ヘナヘナと倒れ込む姿がなんとも愛おしく見えた……って。
「座らないでよ!! 歩かないと一向に着かないよ!?」
2人は口を揃えて私に反論する。
『せめて目的地を決めてから歩いてください!!』
ごもっとも。ごめんなさい。
レイとキースの指摘により、地図に目を通した私は目的地を定め、2人を説得し、再び歩みを進めた。
そして、1時間近く歩いた末、とある国に辿り着く。
「着いたよ。目的の国、ジェネラーレに」
目的と言っても、休息も兼ねて立ち寄っただけなんだけどね。
「里長、約束通り、食事を取っても良いのですか?」
そう言えば歩いてもらうためにそんな約束したわね。
「良いよ。好きなものを食べなさい」
先陣を切って飲食店に足を踏み入れるレイ。
そんな彼とは対照的に、お腹が空いているのにもかかわらず、私の横から一歩も動かないキース。
なるほど……ベルフェの言うとおり、外に出して正解ね。
「キースくん。安心して。私も行くから一緒に食べましょう?」
一言声を掛けると、表情こそ変わらなかったものの、自分から店に入ろうとしてくれた。
ぎこちなさはあるものの、キースを見て私も店に入る。
余程我慢していたのか、レイとキースは無我夢中で食べのもを口に運び、空腹を満たしていた。
「け、結構食べるわね。見ているこっちがお腹いっぱいになりそう……」
私の声が聞こえないほど2人は食べ物に夢中になっていたが、食べるペースが落ち、流石に追加注文しないだろうと思い、会計を済ませようとする。
「すみません! 会計をお願いします」
ウエイターが駆け寄り、明細を確認した後、私に金額を提示してくる。
提示してきた金額を見て、私は何度も目を擦り、確認する。
「え……あ、あの~。確かにいっぱい食べてますけど、これは少し高くないですか?」
「今、この国では食材の価値が上がっていますので、この金額になります」
ああ、そういうことね。
それにしても想像していた5倍高い。
ぼったくられている気がしなくもないけど……。
私が納得しがたい表情を浮かべ、やりとりを見ていたレイとキースが明細を見る。
「な、なんですか!? この金額は!? 確かに食べましたけど、この金額はぼったくりじゃないですか!?」
騒ぎ立てるレイを鎮めようとして、声を掛けるが、レイは止まらなかった。
「そうですか……どうしてもご納得出来ないのであれば……」
ウエイターが指を鳴らし、ゾロゾロと店の奥から出てきたスタッフたちが私たちを囲む。
スタッフの異様な雰囲気を感じた私は、今にも飛びかかりそうなレイの肩に手を置き、提示された金額をきっちり払う。
「これで良いでしょう? レイくん。キースくん。さっさと出るわよ」
2人を連れ、足早に店を出ようとする。
呆気にとられた店のスタッフたちは渡されたお金を握りしめ、私たちに挨拶することなく、立ち尽くしていた。
「さ、里長!! あの不当な金額は払う必要は……」
「レイくん。キースくんを見て」
レイがキースに目を向けると、青ざめた顔で震えているのが分かった。
「平和主義のキースくんに、あの状況が長く続くのは良くないわ。お金で解決できるのなら、それで良いじゃない」
「バトルラビットなのに……平和主義?」
「そ、そうです……父は僕の力は素晴らしいって褒めてくれるけど、僕は戦いたくない。だから……極力、他人とも話したくはないけど……」
キースくんの気持ちは痛いほど分かる。
だけど、心配ね。
私がいれば安心させられるけど、もし1人になったら……考えたくはないわね。
「そういうことだから、極力問題は起こさないでよね。第一、レイくんも揉め事は嫌いでしょ?」
「はい……申し訳ございません。里長」
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その後、一応と思い、住民たちから情報を集め、腕が立つ衣類を取り扱う職人がいないかを聞き回った。
そして、とある情報を耳にする。
「え? 武器商人?」
「ええ。武器の販売は勿論、製造、防具や衣服も取り扱っている店があるが、少し訳ありでな……おっと、すまない。急用があるので失礼させてもらう」
「あ、ちょっと!!」
有力な情報だったが、訳ありという言葉に引っ掛かった。
「里長……どうしますか?」
「せっかく得た情報だから行きましょう。問題は自分の目で確認すれば良いわ……あれ? キースくんは?」
レイの隣にキースがいたはずなのだが……いない。
ヤバい……一番訪れて欲しくなかった展開だ……。
「レイくん!! 探すよ!!」
「あ、はい!!」
キースくんがもし、面倒ごとに巻き込まれていたら……仕方ない。
手荒なことはしたくないけど、覚悟しなくちゃね。