エルフの里5
日差しが瞼をこじ開けようとしている……。
もう何度目かわかんない開眼。
「……ん~。気持ちいい」
太陽の高さから見ると10時頃かな?
昨日から里長になったし、そろそろ行動しないとみんなに示しがつかないね。
『遅い起床だな。里の住人は既に起きて行動しているぞ?』
朝からよく喋るわね、スカーレット。
余計なことは喋らないって約束完全に忘れているよね?
「分かっているわよ。全く……」
ハンガーに掛けているローブに袖を通し、身なりを整えて部屋から出る。
リビングに顔を出すと、明るい声が私を迎えた。
「あ、セリナさん! おはようございます! よく眠れましたか?」
声を掛けてきた人物を見て、私は目を擦る。
「……えーっと。リリカ……ちゃんんなの?」
「そうですけど……どうかしました?」
そ、そんなバカな!?
最後に見たリリカは背も小さく、童顔で胸に膨らみもなかったのに……大人っぽくなって、背も私と同じくらい伸びて、私以上に胸が膨らんでいる!
一体、何が起こっているの?
「ん? ようやく起きましたか。里長。気分はどうですか?」
背後から話しかけてきたレイもリリカと同じように急成長していた。
い、イケメン美青年になっている……。
「あ、そ、その~」
「様子がおかしいですよ?」
2人が私に近づいてくるが、現実を受け止められない私は2人に背を向け、家から飛び出す。
「ど、どうなっているの!?」
叫びながら里を駆け、私の姿を見たエルフたちは私を見て首を傾げていた。
前方に誰かがいたにもかかわらず、私は足を止めることなく走り続け、衝突する。
「あたッ!!」
「うおッ!?」
お尻を地面につけ、痛みが走る額を撫でて、ぶつかった人物に目を向ける。
「す、すみません! 全然前を見てませんでした!」
「セリナ殿? 一体どうかされたのですか?」
ぶつかった人物の声色を聞いて、私は目を丸くする。
「え? ……もしかして、ベルフェ?」
私の前に立っていたのはベルフェなのだが、人間の顔立ち、骨格をしており、白髪の頭からウサ耳が生えていた。
「な、なんで擬人化しているの!? どういうこと!? 起きてからビックリさせすぎだよぉ!!」
「せ、セリナ殿!? お気を確かにッ!!」
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落ち着きを取り戻した私は、ベルフェに全てを話した。
「なるほど……セリナ殿が驚いていた理由が分かりました」
「で? どうしてみんなの姿が変わっているの?」
「遠い国で聞いたことがあります。魔物は認めた主の姿に近づくと……」
「主の姿? ということは……」
「はい。我々バトルラビットやエルフたちはセリナ殿を主、もとい里長として認めているため、人間の姿に近づいたのだと思われます」
「なるほど……未だに理解しがたいけど、現実を受け止めるしかないね」
正直、バトルラビットの姿は可愛くなかったから、擬人化してくれた方が私としてはホッとしている。
だけど……。
「もう一つ聞いて良い? 魔力を持たなかった貴方たちが魔力を持っていたり、魔力を持っていたけど量や質があまり良くなかったエルフたちの魔力が増えていたり、質が良くなっているの?」
ベルフェは顎に手を当て、数秒考えた後、思いを口にする。
「分かりません」
ですよね~。
知っていたら悩まないもんね~。
「……まあ、いいや。あまり気にしていても始まらないし、考えるのはやめましょう」
芝生に背をつけ、青々と広がっている空を見つめる。
その時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえ、上半身を起こす。
「セリナさ~ん」
声の主はレシスだった。
待てよ。みんなが成長しているのであれば、そこそこ成長していたレシスはどれだけ成長しているの? まだ大きくなるの!? 何がとは言わないけど……。
「レ、レシス?」
「あ、セリナさん! ここにいましたか~」
その場で佇むレシスを観察し、観察されているレシスは首を傾げる。
「セリナさん?」
よ、よ、良かった~。
コイツは成長していない……体は。成長していたのは魔力の方だった。
レシスの魔力は一流魔法使いと思うほど増えており、質も良くなっていた。
「空気読んでいるわね」
「何の話しですか?」
レシスはベルフェに視線を送るが、私の思考を理解できていない2人は同時に首を傾げていた。
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しばらく1人になり、冷静に周囲を見渡せるようになった私は、里のみんなの動きを見る。
全員良く動いて、しっかり役割を担っている。間違いなくこの里は良い方向に向かっている……って、あれ?
みんなの動きを見て、ある違和感を抱く。
「動きにくそう……みんな成長しすぎて服のサイズが合っていない?」
「あ、セリナさ~ん。申し訳ないんですけど、回復薬の作り方を……って、どうしたんですか?」
声を掛けてきたレシスが私の視線の先を見て、尋ねる。
たまたま近くを通りかかったベルフェを止め、私は2人にある提案をする。
「2人に提案したいことがあるんだけど、聞いてくれる?」
2人は口を揃えて「もちろん!」を答え、私は思いを口にする。
「見た感じ、みんな成長したせいか、服のサイズが合わなくなって、動きにくそうなの。でも、これ以上は負担を掛けるわけにはいかないから、外部から職人を呼び込もうと思うの」
「外部から?」
「と、言いますと?」
言葉の通りなんだけど?
「いい職人を呼び込んで、みんなの服を新調したいと思うの。ダメかな?」
2人は顔を見合わせて、私に満面の笑みを返す。
「良い案じゃないですか!」
「セリナ殿。そこまで自分たちのことを……本当にありがとうございます!」
「異議無しね? じゃあ、善は急げね。さっそく探してくるね」
駆け出そうとした瞬間、2人が私を呼び止め、反応した私は2人に目を向ける。
「ひょっとして、1人で行くつもりなの?」
「セリナ殿。自分で良ければお供します」
ええ~……お供ぉ?
正直、みんなには里のことに集中して欲しいし、2人はみんなに指示を出して欲しいんだけど……。
「いや……大丈夫だし、心配しないで」
「心配しますよ!!」
「セリナ殿に何かあったら自分たちは……」
気持ちは嬉しいけど、心配しすぎだよ。
「はぁ……分かった。だけど、2人にはみんなに指示を出して欲しいし、代表者を1人ずつ出して。その2人を私のお供として連れて行くから……それで良い?」
2人は元気よく「はい!」と答え、駆け出していった。
数分も待たないうちに、レシスとベルフェは代表者を連れてきた。
「あ、レイくんだ」
「レシスさんから話は聞いています。お供として頼りないかもしれませんが、お願いします」
「ありがとう。よろしくね。それと……」
ベルフェが連れてきた白髪の少年に視線を向けるが、ベルフェの後ろに隠れてしまう。
「コラ! キース! しっかり挨拶しろ! もう少し胸を張れ!」
「せ……セリナ様。自分は父の息子のキースです。よ、よろしくお願いします!」
「父?」
ふとベルフェに視線を向けると、ベルフェは満面の笑みを浮べてコクリと頷く。
「ふぉえ~。お子さんがいたんだ」
「はい。悔しながら、若くして自分よりも腕が立ち、頭も切れるのですが、如何せん自分に自信がなく、発言する事すら躊躇ってしまう状態でして……」
なるほどなるほど。
「少しでも自信がつけばと思って選出したのですが……セリナ殿?」
キースの目線に合わせ、私は手を差し伸べる。
「行きましょ。大丈夫よ」
キースは恐る恐る私の手を握り、ベルフェから離れる。
私はキースの手を握り、レイを連れて、里の外に出る。
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次話から出来るだけ早期更新に務めます。
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