エルフの里4
レシスが里のエルフたちを説得し、バトルラビットたちはエルフたちが用意した食事の前に座る。
「ほ、本当に良いのですか? 自分たちはあなた方に怪我を負わせてしまったのに……」
「気にしないでください。私たちは里が無事で良かったんです。確かに怖かったですが、みなさんを見てみると、困っていたようでしたので、追い返すことは出来ませんでした。さあ、料理が冷めてしまいます。どんどん食べてください」
エルフの言葉に甘えたバトルラビットたちは、手を合わせた後、勢い良く食べ物にありつく。
涙を流しながら食べ続ける大人のバトルラビットもいれば、嬉しそうに頬張る子供のバトルラビットもいた。
その様子を遠目で見ていた私は笑みを浮べ、レシスの家にお邪魔した。
「無理言ってごめんね。辛い気持ちを踏みにじるようで……」
「いえ! 住人たちが言ったとおり、里が無事であれば良かったんですよ。こちらこそお礼を言わなくては……」
「お礼なんて良いよ。私はお礼の返しでやったんだからキリがなくなるよ」
「……フフ。そうですね」
私とレシスは笑い合い、用意してくれたハーブティーを飲む。
その時、扉がノックされ、レシスが来客対応をする。
「セリナさ~ん! バトルラビットさんが話をしたいですって~」
バトルラビットが? 私に? ……もしかして、仲間をやってしまったことを根に持っているんじゃ……ヤバい、どうしよう。
「失礼します」
やってきたのは降伏の判断をしたバトルラビットだった。
「私に話しって?」
堂々としたが、内心ビビっていた。
急に暴れたりとかしないよね?
「道を踏み外した我々を救い、その上食事を恵んで頂き、ありがとうございます!」
予想していた言葉とは全く違う感謝の言葉を聞いた私は目を丸くする。
「感謝されるようなことはしていないよ。感謝なら準備してくれたエルフたちに言ってよね。それに……ごめんね。私、貴方たちの仲間を殺しちゃって……悪気はなかったのよ! これだけは……」
「いえ。それも含めて感謝しています。あのまま、あのリーダーに従っていたら、自分たちは取り返しのつかないことをしてしまっていました。それに見事な腕前に惚れてしまいました。無礼ながら、貴方様に仕えさせて頂けないでしょうか?」
「え?」
ええええッ!? 展開が急すぎるんですけど!?
「つ、仕えるって……私には無理だよぉ」
「いえ。我らは既に仕えるつもりです。どんな命令であろうと、我らは貴方様に従います!」
食い下がってくる……どうしよう。
「良い考えですね。私もセリナさんに里を託そうと思っていたところなんですよ~」
ええッ!? レシスまで!? とことん急展開なんですけどッ!?
「里をって……レシスさん、自分の言っている意味分かっているの?」
「私では里のみんなを守るには力不足ですし、里を守ったセリナさんこそ、里をより大きく豊かにしてくれるのではないかと思ったんです」
ああ……可愛い顔から感じる真剣さ……勘弁してよぉ。
『良いではないか。セリナよ』
また勝手に喋った、スカーレット。何が良いの?
『魔王を倒すには身を落ち着かせる場所が必要であろう? それに戦力も。この者たちは土地を提供し、力になってくれると言っている。素直に受け止めたらどうだ?』
無責任なドラゴンめ……でも、一理ある。
スッと瞼を閉じて、深く息を吸い込み、2人に告げる。
「それなら……私の話を聞いてくれる? それでも心変わりしないのなら引き受けるわ」
2人はコクリと頷き、レシスとバトルラビットに椅子に座るよう促した。
2人は終始、口を挟むことなく私の話を聞いてくれた。
「なるほど……守護の力も合わさってあの力……納得できた」
「元々魔法使いをしていて、戦いに嫌気がさして魔法薬店を営んでいたのに……辛いですね」
納得してくれた? 辛いって理解してくれた? 聞こえる? スカーレット。平和主義の私は戦いが嫌いなのよ?
『承知の上で頼み、セリナの力を信じて加護を授けたのだ』
反省する気なし……もういいや。
「で? 私の話を聞いても考えは変わらない? 私は魔王と戦うの。死ぬかもしれない危険な戦い。それでも、私に付いてくるの?」
レシスとバトルラビットは目を合わせ、コクリと頷いた後、再び跪く。
「考えは変わりませぬ。魔王と戦うのであれば、我は腕となり、足となります!」
「セリナさんが平和を望むように、私たちも平和を望みます。そのためにも、力を尽くさせてください」
2人の考えは変わらず、私の方が折れ、2人と目線を合わせるようにしゃがむ。
「分かった。2人の思いを受け止めさせてもらうね」
2人は頭を下げ、私はライラックの里長になることにした。
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レシスとバトルラビットのリーダ、ベルフェは種族全員に声を掛け、私の前に集合させた。
ううぅぅ……久しぶりに大人数の前に立つから緊張するぅ。
全員が揃ったのを確認したベルフェとレシスはアイコンタクトを取り、レシスは咳払いをする。
「みんな集まってくれてありがとう。急な話だけど、私は里長を降りることにしたわ」
エルフたちはザワつき、バトルラビットたちは口を開けることなく見守り続ける。
「そして、私の後任としてセリナ・スカーレットさんが里の長になってくれるわ。セリナさんも了承しているし、異議があれば今ここで聞くわ」
異議申し出を待つが、誰1人として反対の声を上げず、私が里長になる話しは可決された。
「異議は……ないわね。それじゃあ、セリナさん。後はよろしくお願いします」
「あ、はい!」
用意された木箱の上に乗り、緊張に耐えながらも、私はみんなと向き合う。
「改めて……ライラックの里長になったセリナです。気軽に呼んで頂けると嬉しいです」
て、違う違う!! 自己紹介するんじゃなくて……。
「エルフのみなさん。そしてバトルラビットのみなさん。私は……みんなを大切な里の住人……仲間だと思っています。だから、みなさんが平和に暮らせる里づくりをしていきたいと思います。そのためにはみなさんに守って頂きたいルールを3つ作りました」
「3つ?」
それぞれの種族から声が上がりザワつき始めるが、ベルフェ、レシスの一声によって再び静まり返る。
「まずはルール1つ目。これからみなさんは仲間になります。仲間になった以上、見捨てることなく、手を差し伸べ、助け合ってください。もちろん私もみなさんが困ったら助けます。続く2つ目。自分たちの短所を理解し、克服することに務めてください。いつまでも苦手なものを苦手のままにしないでください。そして、3つ目……3つ目は常に笑顔でいてください」
「笑顔?」
バトルラビットたちから声が上がり、3つ目のルールの意味を伝える。
「他人の笑顔を見ると心が明るくなるでしょ? 私は暗い雰囲気が好きじゃないの。だから、みんな笑顔でいてくれる?」
ベルフェとレシスを含めた全員が隣と顔を見合わせ、ニッコリと笑みを浮べて、私の提案に賛同してくれた。
「それじゃあ……これからよろしくね! ライラックのみんな!」
『はい! セリナさん!』
バトルラビットとエルフ。2つの種族がお互いを知ってもらうために、私はレシスに無理を言って宴を開いてもらった。
「はい、セリナさん。お肉が焼けましたよ」
「セリナ殿。グラスが空になっていますよ。注ぎましょうか?」
レシスとベルフェが私に気を使ってくるが……。
「私ばっかりに気を使わないで、貴方たちもみんなと楽しんできたら?」
「自分はセリナ殿と一緒にいられれば、それで良いのです」
「私ももう少しセリナさんとお話ししたいんです」
まさか種族の元トップがこんな甘えん坊だったとは……ギャップ萌え、堪りませんなぁ。
『セリナよ。顔が崩れかけているぞ?』
は! いけない! いけない! 最近別世界に行きすぎている……いや、そのまま別世界に行けば良かったかな? スカーレット、邪魔しないで。
『なッ!?』
それはそうと……。
「まあ良いか。2人に話したいことがあったの」
レシスとベルフェは同時に首を傾げ、お酒を一口飲んだ後、思いを伝える。
「里長にはなるけど……2人にはそのまま種族を束ねるトップでいて欲しいの。私1人だと荷が重いし、2人には手伝って欲しいの。頼めるかな?」
「セリナさん……」
「セリナ殿……」
「私(自分)で良ければ、何でも手伝います! 是非やらせてください!」
思った以上の食いつき……ほんの少しの付き合いだけど、これだけ慕ってくれるのは嬉しい。
「頼むね。週に1回は報告会を兼ねて集まりましょうね……ふぁ~あ。お酒も入って疲れたし、私は休むね~」
「大丈夫ですか? お送りしましょうか?」
「セリナさん~。良かったら、私の家に泊まりますか?」
「いや。リリカちゃんとレイくんの家にお邪魔することになっているから、大丈夫よ。それと、付き添わなくても大丈夫だから」
『お休みなさ~い!』
とても襲い、襲われていた関係とは思えないね。レシスとベルフェもそうだけど、2つの種族の距離が思った以上に縮んでいる。喜ばしい事ね。
「……種族も土地の規模も違うけど……ここを拠点にして良かったかも」
盛り上がる親睦会を尻目に、私はリリカとレイの家を訪れ、就寝準備に入った。