エルフの里3
勢い良く里の外に出たのは良いんだけど……地の利が全くないのは厳しいかな?
『案ずるな、セリナ。お前には我の加護がある』
だから勝手に喋らないでよ。スカーレット。
「加護って言ったって、どんな加護なのよ……」
『それはだな……っと、説明する前に目的のヤツらが近づいているぞ』
スカーレットの指摘の直後、私も気配を感じ、身を低くする。
そして、エルフたちが恐れている魔物の姿を見て、私は思わず目を擦った。
「……え? 何あれ?」
視線の先には腕の筋肉が異常に発達した巨大なウサギがいた。
「もしかして……ウサギなの!? 私の知っているウサギと違う!!」
図鑑や他人との話でも、聞いたことも見たこともないウサギを見て、私は驚きを隠せなかった。
正直、キモい。
しかし、観察していく内に分かったことがあった。凶暴さがにじみ出ており、エルフを襲ったのは彼らだと察した。
彼らは周囲を警戒しながらエルフの里へと向かい始めるが、既に私の体は動いていた。
「止まって」
彼らの前に立ち、彼らは私の存在に驚きつつも、戦闘態勢に入る。
「この匂いは……人間か? 人間ごときが我らの前に立ち塞がるとは、良い度胸だな」
そっちこそ良い度胸じゃない。私の魔力も感じないくせに戦闘態勢に入っちゃって。
「そこをどけ! 人間! 我らは安息の地を求め、この森に来たのだ! この森は我らバトルラビットのものだ! 他種族は排除する!!」
「悪いけど、義理があってこの先は通すことが出来ないよ。どうしてもって言うなら……」
私はボスであろうバトルラビットを挑発し、薄らと笑う。
「かかってきなさい。ちゃんと手加減はしてあげるから」
挑発に乗ってしまったボスは迷わず私に飛んでくる。
攻撃を躱そうと足に力を入れるが、スカーレットが脳内で語りかける。
『動くな、セリナ』
嫌だ。真正面から来る攻撃を躱さないバカはいないわよ。
『良いから動くな。我の加護を見せてやろう』
へぇ……確かに気になるし、もう回避しても遅そうだし、1回だけ言うこと聞くわ。
私は攻撃を食らう覚悟で佇み、スカーレットの加護の力を見ることにした。
「棒立ちだと!? 舐めるな!!」
バトルラビットが私に拳を振り下ろそうとしたが、突如現れた紅い魔方陣によって、攻撃は阻まれた。
「な、何だ!?」
おお? 私は何もしていないよ?
バトルラビットは紅い魔方陣に弾き飛ばされ、体勢を崩す。
『見たか? セリナよ。これが我の守護の力。真紅の壁だ。いかなる攻撃からお前を守る最強の防御加護だ』
ふむふむ……四方八方、上下からの攻撃も自動で防いでくれる加護……悪くないわね……って。
「守り強化だけで魔王を倒せとか無理すぎるでしょ? ちょっとガッカリ」
『ええッ!? ガッカリしないでよ!! 結構良いでしょ!?』
まあ、確かに良い守護だけど……攻撃面が強化されない以上、あの魔王には勝てないわね。
地道に努力するか……っと、それよりも。
「分かったでしょ? あなたの攻撃は私には届かない。何度やっても無駄だよ。降伏して。私は無駄に攻撃はしたくない。見逃してあげるから、森から出て行きなさい」
しかし、完全に頭に血が上ってしまっているボスは私に突っ込んでくる。
気乗りはしないけど……見せしめがてら、驚いてもらおうかな。
「下級炎魔法……フレイム!!」
威力を最小限に抑えたフレイム。足に軽い火傷を負ってもらうとしましょうか。
『あ、言い忘れていたが、セリナ』
今度は何?
『今のお主の魔力は、我の加護を受けている影響もあって、下級魔法でも上級魔法以上の威力が出せるぞ?』
そ……そ、それを早く言いなさいぃぃぃぃ!!
ボスがフレイムに触れた瞬間、巨大な火柱が立ち、数秒後には中規模な爆発が起き、爆風が広がる。
私と戦いを見守っていたバトルラビットたちは目を守り、爆風が止んだのを確認した後、被害を確認する。
ボスの燃えカスだけが爆心地にあり、バトルラビットたちは当然、私も顔を青くさせて驚く。
『おお~。凄い威力だな。流石は我が見込んだ魔法使いだ』
う、嘘でしょ? 今までこんな魔法使ったことないわよ……。
自ら放った魔法に驚きながらも、冷静さを取り戻し、顔を引きつらせながらも、バトルラビットたちに声を掛ける。
「どうする? 1番強そうな子は倒しちゃったけど、まだ来る?」
正直、私自身も魔法の威力に引いていて、戦いたくない。お願いだから、命を粗末にしないで!!
数秒の硬直状態が続いた後、一匹のバトルラビットが動き出す。
ええ~。まだやるの? 勘弁してよ~。
心の中で涙を流しながらも、魔法を唱えようとした瞬間。
「……降伏する。手も足も出ないと見ました」
バトルラビットたちは跪き、私に深々と頭を下げる。
あー、良かった。素直に降伏してくれて助かった。
ホッと胸を撫で下ろし、安堵していると遠くから声が聞こえ、声のする方向に目を向ける。
「セリナさ~ん」
私に駆け寄ってきたのはエルフの里長のレシスだった。
揺れてる……アレが揺れて近づいてくる。
「すごい爆発音でしたけど……って、どういう状況ですか?」
跪いているバトルラビットたちを見て、レシスは困惑する。
「大丈夫。降伏したし、襲ってこないよ」
「ほ、本当ですか!?」
レシスは嬉しそうな顔を浮べ、私に抱きついてくる。巨大なアレが私の体に当たり、あまりの弾力性に私は表情を和らげる。
「ほわぁ……って、離れてくれます?」
「ああ! すみません! つい、嬉しくて」
気持ちは分かる。里の危機が去ったのは、さぞ嬉しいだろう。
逆に敗れたバトルラビットたちは、心なしか生気が感じられなかった。
まあ、無理もないか。
「……レシス。頼みがあるんだけど」
「はい。何でしょう?」
「この子たちに食事を与えてくれない?」
私の一言により、レシスとバトルラビットたちは驚きの表情を浮べ、私は手を合わせてお願いする。
バトルラビットたちに目を向け、軽く息を吐いたレシスは優しい口調で返答する。
「分かりました。では、みなさん。里に入ってきてください」
レシスは快く私の申し出を引き受け、バトルラビットたちを里に入れた。
バトルラビットたちも感謝を感じつつ、里に足を踏み入れる。