エルフの里2
種族エルフに興味があった私は、リリカとレイの好意に甘え、里を探索することになった。
小規模で立派とは言えない建物が並ぶ里だったが、のどかで私は大好きだった。そして、絶滅寸前の彼らを見て、少し胸が苦しくなった。
「どうですか? セリナさん。私たちの里は?」
「……あ、うん! 良いところですね!」
ヤバイヤバイ……考えすぎた。
落ち着いていて、平穏そうな場所なのに、彼らは絶滅の危機なんて……信じられない。
「私たちも良いところだと思うんですけど……」
ですけど?
「近頃、魔王によって住処を追われた魔物がうろついてまして……」
「僕たちエルフは戦闘向けの種族じゃないので、魔物に襲われると太刀打ちできなくて……」
表面上では苦笑いを浮べているが、リリカとレイ……いや、エルフたちが心の底から魔物を恐れているのが分かった。
エルフたちの脅威になっている魔物も見過ごせないが……魔王。
本当に……私が倒せるのかな?
「おい!! 誰か手を貸してくれ!!」
遠くから男のエルフが助けを求めてくる。声に反応したレイは即座に向かっていき、私たちも後を追った。
「これは……」
「酷い……」
男のエルフ2人がボロボロにやられた姿を見て、リリカは思わず視線を逸らし、私は目を細めた。
「誰にやられたんだ?」
「例の魔物だ。狩りをしていた2人に襲ってきたんだ」
事情を聞いたレイは目を逸らしているリリカに駆け寄り、協力を求めた。
「リリカ。2人に治癒魔法を。里長が来るまで僕たちで応急処置をしよう」
リリカはコクリと頷き、レイや数名のエルフと共に、治癒魔法を唱えた。
エルフ族専用の魔法……治癒。
昔読んだ本には書かれていたが、実際見たのは初めて。
魔法を使う者として、興味深すぎる。
しかし、私の興味とは裏腹に、エルフたちの治癒魔法は中々効き目がなく、負傷者の傷口は塞がらなかった。
「ダメだ……やっぱり私たちじゃ」
「頑張れリリカ! もう少ししたら里長が来る! もう少しだけ頑張ってくれ!」
ああ……なんて健気なの。仲間のために全力で力を駆使しているなんて……私、久しぶりに感動した! 彼らが治癒の力を使うのであれば、私は知識を使おう!
周囲を見渡すと、見慣れた草を発見し、人知れず作業を開始する。
ものの数秒もしない内に、目標のものが完成し、レイとリリカに話しかける。
「2人とも、ちょっと良い?」
2人は治癒魔法を唱えたまま、私に目を向けてくる。
私は2人が治癒している怪我人に緑色の液体を掛け、ニッコリ笑う。
液体は傷口を覆い、やがて浸透し、傷を癒やした。それどころか、意識が朦朧としていた負傷者が元気よく起き上がり、レイとリリカたちは驚きの表情を浮かべていた。
『ええッ!?』
「セリナ特製、回復薬だよ。活性効果もあるから、元気も出てくるはずだよ?」
「傷が完全に塞がっている……」
「セリナさん!! 凄いですね!!」
「まあ、この程度の傷を治せなかったら、店の看板はとっくの昔にしまっていたよ」
「あの……お店とは? セリナさんは一体……」
そう言えば名乗ったときに言わなかったね。
「私は魔法使いでもあり、魔法薬専門店の店主だったの。2人程度の回復薬調合なら3秒あれば十分よ」
すると、レイ、リリカを含めたエルフ全員が私の前に跪き、深々と頭を下げる。
「え? ちょ、ちょっと! どうしたの!?」
『魔法使い様!! ありがとうございます!!』
ふぁ!? 一体どういうこと?
傷を治した程度で、なんで跪いているの!?
困惑していたその時、跪いているエルフたちの背後から、とても美しい女性が駆けてきた。
「あら? 怪我人が出たって聞いたから慌ててきたのに……みんなどうしたの?」
『さ、里長!!』
エルフたちが里長と呼ぶ女性を見て、私は目を奪われてしまった。
む、胸が大きい!!
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エルフたちが里長と呼ぶ巨乳美女の家に招かれた私は、挙動不審になりながらお茶を飲んでいた。
「この度は深手を負った住民を助けて頂き、ありがとうございます!」
深々と頭を下げる里長に、私は顔を上げてと頼む。
「気にしないでください。私は助けてもらった恩を返しただけです。それに、前の仕事柄なのか、傷ついた人を見たらほっとけなくて」
「魔法使いさん……なんて心が広いの」
か、可愛すぎるッ!!
潤んだ瞳を見てしまった瞬間、意識を失いそうになった。
巨乳は敵だと思っていたけど、こんな可愛い顔されたら憎めないよ~。
「あ、あの~魔法使いさん?」
はッ! いけない! いけない!
別世界に行っていた。
「し、失礼しました。あと、申し遅れました。私はセリナ・スカーレットって言います」
「ご丁寧にありがとうございます。私はエルフの里を束ねているレシスと申します。里長と呼ばれていますけど、大それたものではないので、気軽に呼んで頂けると嬉しいです」
顔も良く、容姿端麗で笑みが似合う彼女だが……里のみんなが彼女を里長に指名したのはなんとなく分かる。
「……ほぇ~。他のエルフとは魔力の質が違いますね」
「え?」
突然の発言に驚くレシス。しかし、私の探究心は止まらなかった。
「器も量も大きくないけど、清らかで優しい魔力。エルフ特有の治癒魔法を扱うなら、もってこいの魔力……」
「あ、あの。セリナさん?」
我に返った私は顔や頭が熱くなり、跳びはねて後退し、土下座する。
「あわわ!! 失礼しました!! つい気持ちが上回ってしまって……」
土下座している私を見て、レシスはクスクス笑い、私の前でしゃがみ込む。
ああ……レシスさん。しゃがんだら溢れそうですよ。
「セリナさんって……面白いですね」
「あ……あはは」
引かれなくて助かった~。
昔からのクセは死んでも治らなかったみたい。
その時、開けていた窓から風が入り込み、匂いや温度を感じて、私は気持ちを落ち着かせた。
「……さっきから感じていたんですが、良いところですね。前に住んでいた故郷も平穏で好きだったんですけど、ここに住みたくなってしまいそうです」
レシスは自慢げにニッコリと笑みを浮べる。
「そう言ってもらえると嬉しいですね。ですが、もう少ししたら移住を考えているのです」
レシスに目を向けると、悲しそうな……悔しそうな表情を浮かべており、私はソッとレシスの手を握った。
「訳ありね。私で良かったら相談に乗りますよ」
「セリナさん……ありがとうございます。ですが……」
断ろうとするレシスにウインクし、断り続けても無駄だと悟ったレシスは私に全てを話した。
移住を考えている理由は単純だった。
里周辺にとある魔物が現れ、住民たちを襲っているとのことだった。
彼らは、すばしっこく、腕力も脚力もあるらしい。幸いなことに、魔法は使えないらしい。
一度見てみないと分からないが、魔法が使えないのであれば、勝つ自信はある。
「……なるほどね。それで、その魔物の種族はなんて……」
「さ、里長ッ!!」
家の外から声が聞こえ、私とレシスは急いで外に出る。
「あれ? レイくんだ」
外に出ると、そこには息を整えているレイがいた。レイはその場で跪き、内容を伝える。
「たった今、見張りから報告があり、魔物の集団がこちらに向かっているとのことです!」
レシスは頭をかかえ、レイからの報告を受け止める。
「……分かったわ。里の男性は迎え撃つ準備を。女性と子供たちは万が一に備えて里の外に出られる準備を」
「はい!」
レシスの指示を受けたレイは走り去っていき、レシスはため息をついて、里を見つめる。
「……レシスさん。今の指示、取り下げてくれませんか?」
「え?」
「取り下げて、みんなを里の中心に集めてください。私がみんなの代わりに魔物を撃退させますから」
「せ、セリナさん!? え!?」
「食事と介抱してくれたお礼に、私がなんとかしますよ。それじゃあ、お願いしますね!」
背後でレシスが引き留めている声が聞こえたが、私は足を止めなかった。
故郷と同等くらいに気に入ったこの場所を……魔物に奪われてなるものか!!