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エルフの里1

「ンハッ!! ……私、寝てたの?」


 目の前に広がった光景は洞窟ではなく、木や草が生い茂る森の中だった。


「……森? 本当に生き返ったの?」


 未だに生き返った実感はなく、当たり前のように体は動く。そして……。


「喉が渇いた……口がネバネバする」


 耳を澄ますと水が流れる音がし、私は音がする方向に向かった。


 緩やかな水流の川に顔を近づけた瞬間、私は目を疑った。


「は? 何この髪の色? それに目も……真っ赤じゃない! 私の黒髪と黒目はどこ行ったの!?」


 水面に映った自分の姿を見て、困惑する。


 何て趣味の悪い色。よくよく見たら服まで真っ赤。お気に入りの白いローブが……。


『目が覚めたか。二度目の人生、気分はどうだ?』


 聞き覚えのある声……スカーレット?


「ちょっとこれ何なの!? 真っ赤じゃない!! 私に何をしたの!? それとどこから話しているの!?」


『相変わらず質問攻めするヤツめ。1つずつ答えよう。その容姿は我の守護を受けている影響だ』


 なんて悪影響!!


『……紅色。気に入らなかったか?』


 え? 口にしていないはずなのに何で私が思ったこと分かるの?


『その疑問は2つ目の質問の答えだ。事情があって、我はお前の心の中にいる』


 は?


『何だ? 理解できなかったか? 結構分かりやすく説明したんだけど……』


「はぁ!? どういうこと? どういう意味? 訳が分からないんだけど!?」


『右手の甲を見てみろ。紅い紋章があるだろう?』


 ある。確かにある。擦っても全然とれない。


『擦るんじゃない!! お前を生き返らせ、守護の力を与えたのは良かったが、自分の力の残量を見誤ってしまって存在を維持できなくなり、消滅しかけたのだが、急遽お前の心の中に移動したことにより、紋章となって消滅を免れたのだ』


 ふ……ふ……。


「ふざけないでよッ!! 誰の許可を得て女の子の心の中に入り込んでいるの!? 重罪よ!! 万死に値するわ!!」


 あ~……もうお嫁に行けない。


『案ずるな。もともと行く気もないだろう?』


 魔王倒したら次は竜狩りでもしようかしら?


『わ、悪かった!! 無許可で心は覗かないから許してくれ!! 極力話しかけないから!!』


 はぁ……なってしまったものは仕方ない。


 だが……。


「竜狩りは勘弁してあげるけど、魔王を倒したら1発ぶっ放させてよね?」


 ジョークではなく、本気だと悟ったスカーレットは怯え声を上げる。


「よーし! そうと決まれば魔王倒すぞ~」


『は、張り切るんじゃない!! 意気込むんじゃない!!』


 い・や・だ。


 それはそうと……。


「お腹空いた……」


 胃が鳴り、私は腹部を押さえてしゃがみ込む。


「生き返る前にご飯食べておけば良かった……」


『セリナよ。あの世にも狭間にも食事という概念はないぞ』


 スカーレットからの冷静な突っ込み……何か腹立つ。


「生き返らせるんなら食事と水くらい用意しておきなさいよ!! 気が利かないわね!!」


『自分が消えるかもしれない状況の時に出来るわけないだろう!! 八つ当たるのは道徳的におかしいぞ!!』


 死人を生き返らせるのも道徳的にどうなのよ!!


 ああ……ヤバい。カッとなったらフラついてきた……視界も霞むし……せめて水だけでも……。


 川に顔を着けた瞬間、私は意識を失った。




 ========




 3度目の開眼は見知らぬ天井が見えた。


「ここは……部屋?」


 私はベッドの上で横になっており、ラフな寝巻きを着ていた。


 私の服は……ハンガーに掛けられている。


 周囲を見渡しながら、ベッドから起きると、部屋の外から声が聞こえ、ソッと部屋を出る。部屋を出て、広間らしき空間を覗くと、そこには男女が楽しそうに会話をしていた。


「あれは……エルフ?」


 耳が尖っており、2人から微量の魔力を感じた私は、2人がエルフだと即座に察した。


 すると私の視線に気づいたのか、女エルフが私に手を振り、調子を聞いてくる。


「あ、良かった! 目が覚めたんですね。具合はどうですか?」


「だ、大丈夫です!」


 返答を聞いた2人は嬉しそうな笑みを浮べ、私に近づいてくる。そして、男エルフが安堵の表情を浮かべ、経緯を説明する。


「あなた……川に顔を付けて寝ていたんですよ?」


 え? は? え?


「川から離したら、微かに息をしていたので、勝手ながら運ばせてもらいました」


 は……恥ずかしい。


「た、助けていただき、すみません!! なんとお礼をすれば良いのか……」


「お礼だなんて。気にしないでください。僕たちはただあなたをほっとけなかっただけなんですから」


 な、なんていい人たちなんだ……。


 2人とも明るい笑みを浮べて、私を見つめてくる。心なしか2人の背後から光が放たれているようだ。


 その時、私の胃袋が大きな音を鳴らし、反射的に腹部を押さえる。


「あ……その」


 すると女エルフは私の手を握る。


「お腹空いているでしょう? 起きたときのために用意していましたのでどうぞ!!」


 女エルフに強制的に食卓に座らされた私は、呆気にとられて並んでくる料理を見つめていた。


「さッ! あまり豪華ではありませんが、お口に合えば……」


「いえ……その、助けてもらった上に食事まで頂くなんて……」


 2人のもてなしに対して戸惑っている私に、スカーレットが心の中で話しかけてくる。


『ここは頂いておけ。食事は力を持続させるためにも必要なことだ』


 あなたは黙って、スカーレット。第一あなたが気を使ってくれていたら、私は倒れることはなかったんだけど?


 心の中で反論したが、スカーレットは何も言い返さなかった。


 思いとは裏腹に胃は鳴き続け、赤面しながら私はフォークとナイフに手を伸ばす。


「す……すみません。本当に頂いて良いのですか?」


 2人は「どうぞどうぞ!」と言わんばかりに料理に手のひらを向け、私は料理を頬張る。


 空っぽだった胃袋に物が入ると、私の手は止まらなかった。


「ん……んん!!」


 考えるのをやめ、次々と料理を頬張り、空腹を満たす。


 食べている最中、2人は満面の笑みを浮べて、私を見守り続ける。


 7品ほどあった料理を全て平らげた私は2人に深々と頭を下げる。


「ごちそうさまでした! 非常に美味しかったです!」


「お口に合って何よりです」


 空腹を満たした私は窓の外を見て、2人に現在位置を聞いた。


「ここはどこですか?」


「ここはエルフの里。ライラックです」


「エルフの……里ですか?」


「はい! 森の中央部で、少ない人数ですけど、切り盛りしている里です!」


 再び窓の外を見ると、人間や他種族の姿は見当たらず、行き交う人全てがエルフ族だった。


「凄い……本当にエルフしかいない!! ……えーっと」


 そう言えば名前聞いていなかった。


 名前を尋ねようと切り出し方を考えている私を見て、2人は自己紹介を始める。


「あ、自己紹介が遅れました。私はリリカ。こっちが夫の……」


「レイです」


 丁寧に自己紹介するエルフの夫婦、リリカとレイに対し、私は頭を下げながら自分の名前を口にする。


「私はセリナ」


『セリナ・スカーレットな』


 勝手に名前変えた上に、強要しないでよ。スカーレット。


 不本意ながらも、私は2人にセリナ・スカーレットと名乗った。

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