紅炎竜・スカーレット
真っ暗な世界を見続ける私だが、頬に冷たい感触があり、目を覚ます。
「……あれ? ここは?」
確か私は……地割れに落ちて……死んだはずじゃ。
「腕が……ある」
意識がなくなる前には無かったはずの右腕があり、夢か現実か確認した。
「イタタタタッ!! う~……痛い。ほっぺたはつねるものじゃないね」
痛みもあり、腕も再生し、生きていると理解できたけど、一体ここはどこなの?
水が滴る音が反響しているからどこかの洞窟であることは間違い居ないんだけど……。
「ようやく目が覚めたか」
背後から低い声が聞こえ、私は恐る恐る振り返る。
「ヒッ!! ドラゴン!?」
目の前にいる巨大な紅い竜を見て、私は腰を抜かしてしまい、その場から逃げ出したいと言わんばかりに足をバタバタさせる。
「驚くな……と言うのは無理か。落ち着け。魔法使い」
相変わらず声は低いが、どことなく優しさを感じ、私は平常心を取り戻す。
「貴方は誰ですか? それにここはどこですか?」
「怯えなくなったと思ったら質問攻めか? 説明する立場にもなってほしいものだ」
何このドラゴン。嫌な感じ……いや、流石に質問攻めした私が悪いか。
「まずは名を名乗ろうか。我は紅炎竜・スカーレット。世界を創った始祖であり、守り続けてきた者だ」
始祖? 守り続けてきた? 言ってて恥ずかしくないのかな?
「なんだその信用ならない目は? 本当だぞ? 本当のことなんだぞ!」
ドラゴンなのに信用が無いと思って念押ししてくる……ちょっと可愛いかも。
「……まあ、理解しがたいですけど、そういうことにしておきましょう」
スカーレットと名乗るドラゴンは「本当なんだぞ!」と何度も叫いているが、正直私が知りたいのはそこじゃない。
「あ~、貴方のことは分かったから、ここはどこなの?」
冷静さを取り戻したスカーレットは軽く咳をして、私の問いに答える。
「ここはあの世と現世の狭間だ」
あ、やっぱり私死んだんだ。
「あーなるほどね……で? 天国に行くか地獄に落とすか決める最中だった訳ね」
勝手に状況を理解し、呆れ口調でものを言う。
しかし、スカーレットは首を傾げ、ボリボリと首筋を掻く。
「いや……全く違うが」
何で!? 死んだらそういうセオリーじゃ無いの!? じゃあ、私は何のためにここにいるの!?
「確かにお前は死んだ。本来ならお前の想像しているとおり、天の世界か地の世界に送られる予定だったが……」
だったが?
「訳あって、お前を生き返らせ、頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいこと? え? 生き返らせた?」
スカーレットは私の故郷を消した青年の正体を明かし、それを聞いて私は納得した。
「あー。やっぱり魔王だったのね」
「え? 驚かないの? 俺の姿を見て驚いたのに、故郷を襲ったヤツが魔王だったことには何で驚かないの!?」
やっぱりこのドラゴン変。
「別に驚かないわよ。強かったし、私の最高威力の魔法を下級魔法で相殺するんだもん。魔王だったって言われても納得しかないわよ。で? 私を生き返らせた理由は何? まさかとは思うけど、魔王を倒せって訳じゃないでしょうね?」
「察しが良いな。その通りだ。お前に魔王を倒してもらいたい」
答え分かっていて言っているのかな?
「断ります」
「ええッ!? 何で!?」
「見ていたのなら分かるんじゃないですか? 兵士たちも含めて、私瞬殺されたんですよ? 生き返っても勝てるわけないじゃないですか。それに私じゃなくても良いでしょう? 私程度の魔法使いならゴロゴロいますし、他を当たってください」
生き返れたのは少し嬉しいが、やっぱり死んだままの方が良い。気楽だし、生まれ変わるまで平穏に暮らせそう。
「……残念だが、他を当たるつもりはない」
当たってって言ったでしょ? 人の話聞いているのかな?
「まずは否定をさせてくれ。お前はその辺にいる魔法使いとは違う」
「一緒です」
「話を最後まで聞け!!」
スカーレットの気迫がこもった声に圧倒された私は、渋々話を聞くことにした。
「お前の故郷以外にも魔王に消された国が複数ある。その国にも手練れは何人もいたが瞬殺された……だが、お前は瞬殺されず、魔王の魔法を相殺した。それに……」
「それに?」
「お前だけ、魔王に対して憎しみや恐怖を抱いて死ななかった。後悔? と言った方が良いか? とにかくお前は他の者とは違う。だから生き返らせたのだ」
スカーレットの言うとおり、死ぬ寸前、私は故郷のことを思い、死んだ。
自分がもっと強ければと後悔の念を持って……でも。
「生き返らせた理由は分かった。だけど、やっぱり断ります。実力差は死ぬほど分かったし、私には成し遂げられる気がしません」
丁重に断るが、スカーレットは不気味に笑い、嫌な予感を抱いた。
「実力差に関しては心配するな。我もそのままお前を現世に送ろうなど考えていない」
ヤバい。このドラゴンは私の話を全然聞いてくれない。
「お前には我の力を授ける」
「力を……授ける?」
首を傾げた瞬間、私の足下に紅い魔方陣が現れ、炎が私を包み込む。
「え? うえぇぇ!?」
「安心しろ。お前には我の加護……紅炎竜の加護を授ける。スキル無効の結界を張られたとしても、我の力だけは無力化されない。さあ、魔王を倒す魔王になってこい!!」
絶対嫌だ!! 魔王を倒す魔王なんてなりたくない!! と言うか、魔王倒しちゃったら、次のターゲット、私にならない!?
「行け!! 魔法使いセリナ……いや、紅魔の魔女、セリナ・スカーレット!!」
いぃぃやあぁぁ~!! 勝手に名前変えるなぁぁ!!
こうして半ば無理やり生き返ってしまい、無理やり加護を与えられ、私は現世に送られたのであった。