故郷へ2
ライラックを出て半日ほど経った。
すでに日は昇り始め、私たちは遠くから故郷、グラン国を眺めていた。
「あの国がセリナ殿の故郷ですか……」
肉眼で様子を伺おうとするベルフェ。
するとジャックがポーチからあるものを取り出し、私たちに手渡す。
「これは……望遠鏡ですか?」
レシスは首を傾げ、手渡された望遠鏡をマジマジと見る。
「急ピッチで作ったから距離調整は出来ないが、この距離なら見られる保証はする」
「ありがとう。ジャック」
手短にジャックにお礼を述べた私は、望遠鏡を覗く。
そして、望遠鏡越しに映った光景は悲惨なものだった。
かつて、多くの人が行き交い、賑わっていたのだが閑散としており、建物はほとんど倒壊し、街の中心には大きな地割れが入っていた。
思い出してしまう……あの時のままだ。
一瞬だけ死ぬ直前の映像が脳裏に浮かんだが、私は頭を横に振り、再び望遠鏡を覗く。
「……あ。人がいる」
グランの中に人であろう影を見つけ、私はそれを観察する。
倒壊していない建物から続々と出てきて、私は生存者がいたことに安心する……だが、現実は酷いものだった。
建物から出てきた人たちは全員痩せこけており、歩くのがやっとの状態だった。
そんな人たちにムチを振るっているヤツらがいた。
「ひ、酷い……」
私と一緒にグランの様子を見ていたレシスが思わず望遠鏡から目を離す。
「アイツらは……魔王の手下の魔人。忘れはしない。数で押しかけてきて、俺たちバトルラビットの住処を奪ったヤツらだ!」
私は目を逸らすことはしなかったが、怒りのあまり、望遠鏡を握りつぶしてしまった。
「あ……ごめんなさい。悪気は……」
「いえ。無理もありません。他人の俺たちから見ても胸くそ悪い現状です。セリナさんの気持ち……察します」
粉々になった望遠鏡を見て、私は何度も深呼吸を行う。
落ち着け……私。怒りにまかせて飛び込んでも人々を危険に晒すだけ。考えて行動しなさい。
「セリナ殿。しばらく様子見ですか?」
「ええ。グランのみんなと、あの魔人ってヤツらの動きを見てみたい」
3人は私の意見に反対することなく、一緒に観察してくれた。
人々が活動し始めてから1時間ほど経ち、変化が訪れる。
「あれ? みんなグランから出て行ってる……」
「セリナさん。反対側からも出て行っていますよ?」
国から出るのは不思議じゃない。ただ、誰1人として荷物を持っていなかったのだ。
「彼らは一体どこへ?」
理解が追いつかない私たちに、ジャックがある場所を見つめて、指を指す。
「セリナさん。全員、あの山岳地帯を目指しているようです」
「山岳? あんなところに何の用かしら? まあ、良いか。取り敢えず私とジャックが山岳地帯に行って様子を見てくるわ。レシスとベルフェはこのままグランの様子を見ていてくれる?」
「はい!」
「お任せください!」
再び望遠鏡に目を向ける2人。私はジャックを連れて、人々が目指す山岳地帯に向かった。
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蒸し暑さが籠もる洞窟の中で、人々は一生懸命何かを掘っていた。
「この山……鉱山ですか?」
「いや。グラン近辺の山で鉄や鉱石は採れないはずだけど……魔人たちはみんなに何を掘らせているの?」
ジャックは採掘した石をこっそり拝借し、目を細める。
「これは……魔法石ですね」
「魔法石? 魔法石って言ったら魔力は含んでいるけど、加工が難しい石だよね? なんでそれを掘らせているの?」
「理由は分かりませんが、加工自体は腕が良い職人なら容易いことです。何か、狙いがあるはずです」
すると、1人の魔人が人々に休憩しろと命令する。
相当疲れているのか、人々は即座に地面に座り込み、手や腕で額の汗を拭っていた。
「……見張りの魔人もいなくなった。直接聞いてみましょうか?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。手短に済ませるから、見張りお願いね」
「承知しました」
ソロリソロリと足音を消して、岩の影に隠れながら、私はグランの住民たちに近づく。
そして、一番近くで休んでいた男性に声を掛ける。
「ねえ。ねえ!」
魔人に気づかれないよう、出来るだけ小声で声を掛け、私の声に気づいた男性が周囲を見渡す。
「こっち! こっち!」
ようやく私を見つけた男性は呆け顔になる。
「……え? もしかして……セリナさん?」
「そうだよ! セリナだよ!」
すると男性は私の前に跪き、涙を流しながら「良かった……」と呟く。
「セリナさん……生きていたんですね」
「嬉しい気持は分かるけど、喜ぶのは後にしてくれる? 貴方たちはここで何をしているの?」
男性は涙を流しながらも鉱山で採掘している理由を述べる。
しかし、残念なことに有力と呼べる情報は得られなかった。
「……なるほどね。とにかく魔法石の採掘をさせられている訳ね」
「力になれなくてすみません……セリナさん」
「気にしないで。それよりも、私は今の現状を見過ごせないわ。今晩でも貴方たちを助けるわ」
「助ける……ほ、本当ですか!?」
「ええ。だから、魔人たちに気づかれないよう、みんなに話しを回しておいてね」
「は、はい!」
すると遠くから魔人が住民たちに採掘を再開しろと怒鳴る。
話していた男性もみんなの元に戻ろうとした。
「ねえ!」
「はい?」
「……ティルって男の子を知らない?」
作業に戻ろうとしていた男性を無理矢理引き留め、私は里を訪れてきた女の子の友達を知らないか尋ねる。
「ティル? 残念ですが、自分は……」
「そう……ありがとう。それじゃあ、待っててね」
今すぐにでも助けたい気持ちを抑え、私はジャックと共に鉱山から去った。
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日が暮れ、グランの住民たちが国に戻り、篝火が焚かれるとき、私たちは立ち上がった。
「3人とも良い? 絶対にグランの住民たちは傷つけないでね」
『はい!!』
レシスとジャックはグランの住民たちの元へ向かい、私とベルフェはウロウロと徘徊している魔人に目を向ける。
「目障りですね」
「全くよ。ベルフェ。頼むね」
「お任せください!」
隣にいるベルフェが姿を消し、私は右手の先に魔力を集中させる。
「……中級火炎魔法・メガフレイムッ!!」
私の前に炎の球体が現れ、私は国を出入りする門にメガフレイムを放つ。
爆発と共に門は消滅し、爆風によって石や瓦礫が飛び散り、火柱が上がる。
「な、何だ!!」
爆発音と被害を見た魔人たちは爆心地に集まり、火柱を見つめる。
「こんばんは。魔人さんたち」
「何者だ!?」
立ち上っている火柱を消した私は、笑みを浮べて魔人たちに挨拶をする。
「突然来て悪いのだけど……私の前から消えてくれるかな?」
私の姿を確認した魔人たちは一斉に武器を構え、突撃してくる。
しかし、魔人たちの攻撃は私に届かなかった。
「な、何だ!? この紅い魔方陣は!?」
紅炎竜の守護。下級の魔人たちじゃ攻略することは出来ないでしょうね。
「怯むな!! 押せぇッ!!」
魔人たちは怯むことなく私に襲いかかってくるが……。
「待たせたわね。ベルフェ」
私と魔人たちの間にベルフェが降り立ち、目にも止まらぬ速さで襲いかかってくる魔人たちを拳1つで倒す。
「お前ら程度、里長の手を煩わせるほどでもない。俺が相手してやる。加減してやるからかかってこい!!」
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