故郷へ1
エルフとバトルラビットたちが狩りに出かけようとしていたため、頼むような形で同伴させてもらった。
「ん~。里の中も居心地が良かったけど、外も気持ち良いわね」
背伸びをしながら隣を歩くエルフに声を掛ける。
エルフは嬉しそうな笑みを浮べ、周囲に獲物がいないか探索する。
すると、別行動していた組が遠くから声を掛けてくる。
「お~い。大物がとれたぞ~」
彼らが肩に何かを担ぎながらこちらに近づいてくる。
「わぁ! 大きな鹿ね!」
「おお! 良くやった! 今日は鹿肉だな!」
私も住民たちと共に喜び、鹿に感謝しつつ、里に戻ろうとする。
その時、近くで物音がし、気づいた私は周囲を見渡す。
「ん? セリナ様? どうされましたか?」
「今……近くで物音がしたような」
住民たちが首を傾げている最中、私は自分の耳を頼りに音がした場所に向かう。
「え?何?」
茂みから人の何かが見え、私は慌てて駆け寄る。
そしてようやく見つけた。
「大変!!」
なんと茂みの影で少女が倒れていたのだった。
「大丈夫!? しっかりして!!」
少女の体や服はボロボロで、微かに口から漏れる呼吸は弱々しかった。
「しっかりして!! 今回復薬を……え?」
私は少女の顔に見覚えがあった。
この少女は……いつも男の子と一緒に私の店の前を通って学び舎に通っていた子だ。
「と、とにかく回復薬と……ごめん!! ちょっと手を貸して!!」
私の声に反応した住人たちは、慌てて駆けつけ、少女を里へと運んでくれた。
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レシスに頼み込み、ベッドを貸してもらい、私は少女の看病をし続けた。
何十分、何時間と時は流れ、目覚めてくれと祈り続けた結果。
「……う、ん?」
少女の口が微かに動き、声が漏れた。
「あ……ここは?」
「起きた? 気分はどう? 気持ち悪くない?」
少女は私を見て数秒固まる。
「あれ? ……セリナさんがいる。ということは、私は死んだの?」
あ、なるほど。この子は私を死んだ人間だと勘違いしているのか。
まあ、間違いは無いけど。
「死んでないよ。貴女はちゃんと生きているよ」
すると少女は驚きの表情を浮かべた後、スーッと涙を流す。
「え!? 本当に大丈夫!?」
「いえ……嬉しいんです。セリナさんが……生きているなんて」
この言葉を聞くと、改めて私は故郷に愛されていたんだなぁと実感させられる。
「セリナさん。起きたんですか?」
部屋の外からレシスが声を掛け、私は「今起きた」と言葉を返す。
するとレシスは部屋から離れ、数分後に再び訪ねてきた。
「スープを作ったんですけど、食べますか?」
私は少女に空腹であるかを尋ね、レシスからスープが入った器を受け取る。
「食べられそう? 無理しなくても良いんだよ?」
少女は無理矢理体を起こそうとするが、痛みが走るのか、中々起き上がれなかった。
私は少女に起き上がるのをやめさせ、スープをスプーンで掬い、飲ませる。
一口飲む度に、少女は嬉しそうな表情を浮かべる。
飲むペースは遅かったが、無事に飲みきり、少女はレシスにお礼を言った。
「おいしかったです……ありがとうございます」
「どういたしまして」
落ち着いた少女は私に目を向け、単刀直入に疑問をぶつけてくる。
「それよりも……セリナさん、生きていたんですか?」
「まあ、1回死んだんだけど、生き返っちゃって」
「生き返った?」
「まあ、私の事は置いておいて……話す元気はある?」
すると少女はコクリと頷き、私は少女に故郷の事を尋ねた。
「それじゃあ……故郷が魔王に襲われてからのことを聞いてもいい?」
「はい……国が火の海になって、騎士さんや冒険家さんたちはほぼ殺されて……生き残った私たちは1日1食、無休で強制的に働かされました」
話しだけで過酷さが伝わり、私はさらに質問した。
「さっき強制的にって言ったよね? どうやって貴女は逃げてきたの?」
すると少女は表情を曇らせ、今にも泣きそうな顔で質問に答える。
「……お母さんが、囮になって、私を逃がしてくれたの。振り向いちゃダメって言われて……一生懸命走ったんだけど、目の前が真っ白になっちゃって」
少女の涙が、母親のその後を教える。
「……そう。ごめんね。辛いことを聞いて」
少女は首をブンブンと横に振り、涙を滲ませながらも、しっかりと私の目を見てきた。
「それと……貴女といつも一緒に学び舎に行っていた男の子。あの子はどうなったの?」
「ティル? ティルの事ですか?」
男の子の名前はティルって言うのか。今まであいさつを返していたけど、名前は知らなかった……。
「ティルは……魔王の配下に逆らって……どこかに」
すると少女が突然咳をしだし、私は少女のことを思い、質問を控えることにした。
故郷のその後を知った瞬間、怒りがこみ上げてきたが、私は気持ちを何とか落ち着かせ、少女の頭を優しく撫でた。
「もう大丈夫だよ。ありがとう。話してくれて」
「はぁ……はぁ、でも私、セリナさんが生きていてくれて嬉しかった。本当に良かった」
涙を流しながらも私を見て無理矢理笑みを浮べる少女を見て、私は意思を固める。
「ねえ。ここに住まない?」
「え?」
「ここに住んでいるみんなは優しいし、襲ってくる心配は少ないよ」
「でも……私は、何も出来ないですし」
「出来ないんなら、出来ることを増やせばいいのよ。ここで」
私は少女に手を差し出し、少女は躊躇いながらも、私の手を握る。
「本当に良いんですか?」
「もちろんよ。だから、安心しなさい」
すると、安心しきったのか、少女は再び眠りにつき、私は少女瞼から流れている涙を指で拭った。
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日が完全に落ち、里の周囲が真っ暗になったとき、私は誰にも見つかることなく里の外に出る。
数分ほど森を出ようと歩みを進めていると。
「あれ? どうしているの?」
私の前にレシスとベルフェとジャックが立ち塞がっていた。
「セリナさん。ごめんなさい。あの子から少し話を聞いたの」
衰弱している人間に無茶させて……全く。
「セリナ殿が故郷に向かうであろうと予想しておりました。自分たちもお供させてください!」
3人は同時に跪いて、お供をさせて欲しいと懇願するが、私は3人から目を背け、丁重に断る。
「ダメだよ。私の個人的な感情なんかに付き合ったら。巻き込むのは申し訳ないし」
「セリナさん。俺たちはセリナさんに惹かれて里に住むことを決めたんだ。どんな無茶な用件だろうと、俺たちはセリナさんのためなら命を張る覚悟です。ですから、願いを聞き入れてくれませんか?」
再び3人同時に頭を下げ、食い下がってくる。
何を言っても聞かないと判断した私は軽くため息をついて、3人を軽く抱きしめる。
「……ありがとう。後悔しないよね?」
『はい!』
思わずクスリと笑ってしまい、3人を立ち上がらせ、同伴を許した。
そして、誰にも知らせないまま、私たちは里を後にした。
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