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少年の覚悟

 約束通り、ジャックは里に来てくれるため、荷造りをしに店へと戻った。

 レイとキースも手伝い、順調に荷造りは進んでいたのだが……。


『セリナよ』


 もう反論する気はなくなったわよ。分かっているわよ。スカーレット。


 私は複数の気配を感じ、店の外に出た。


 すると店を囲むようにジェネラーレ国の兵士たちが待機しており、私の姿を見た兵隊長が前に出てくる。


「客か? まあいい。武器商人、ジャックはいるか?」


「いるけど、何の用?」


「数刻前、ヤツは人間に対し暴行に走った。魔物が人間に手を出すことは、この国では重罪。連行させてもらう」


 なるほどね……手を上げたのは間違っているかもだけど、魔物にとってはこの国で生きるのは辛いわね。


「悪いけど、ついさっき彼は私の仲間になったの。貴方たちに渡す気はないわ」


「何? 貴様、魔物を庇うつもりか? 庇う場合は、貴様も同罪だぞ!!」


「鈍いね……今なら見逃してあげるって言っているのに」


 私の呟きは兵士たちに届かず、一斉に店に向かって突撃し始めた。


 私は呆れ果ててしまい、深くため息をつく。


「……残念ね」


 ソッと瞼を閉じ、集中力を高め、開眼と同時に微量の魔力を兵士たちに浴びせる。


 私の魔力を浴びた兵士たちは体の不調を訴え、9割ほどは足を止め、1割ほどは気を失う。


「な、何だ!? 貴様、一体何を!?」


「これは警告よ。これ以上私の邪魔をするなら、意識を失う程度じゃ済まさないわ」


 なぜだろう。今だけ自然と低い声が出た。自分でもビックリするくらい怖い。


「うぐッ……」


 店に突撃することが出来ず、兵隊長は撤退命令を下した。


 ワタワタになりながら撤退していく兵士たちを見て、私はホッと胸を撫で下ろす。


「あら? 見ていたの?」


 店の中に戻ろうとしたとき、ジャックとキースとレイの3人が目を丸くさせて驚いていた。


「強いとは思っていましたが、セリナさんは一体何物なんですか?」


「ん? 私? 私は魔法使いでありながら、故郷では騎士として生きてきた時期もあったのよ。だから魔法だけじゃなく、体の使い方も熟知しているわ」


 私の素性を少し知ったジャックは口角を少し吊り上げて、思わず呟く。


「なるほど。本当に甘く見ていたようですね」


「さあ。準備できたんでしょ? さっさと帰りましょうか。私たちの里へ」




 ======




 再び2日かけて里に戻った私たちは、住民たちに迎えられる。


「セリナさん! お帰りなさい!!」


 ちょ、レシス!抱きついたら柔らかいおもちが……。


「帰って来るなり抱きつかないでよ」


「すみません……」


 天然でやってくるのが恐ろしいところだわ。


「お疲れ様でした。セリナ殿」


 片膝をついて私を迎え入れるベルフェ。


 こっちはこっちで、何か堅苦しい。


「お迎えありがとう。早速だけど、みんなに紹介するね。ジェネラーレ国で武器の販売や制作をしていた……」


「ジャックと申します。セリナさん……いや、里長に忠を尽くし、この里を支えるため来ました。これからよろしく」


「私からもよろしくね」


 住民たちからも喜びの声が上がり、私はバトルラビット数人を呼び出し、あるお願いをした。


「忙しいのは承知の上だけど、力がある君たちの腕を見込んで、頼みがあるの」


「なんでしょうか?」


「ジャックのために工房小屋を作って欲しいの。今は簡易的なもので良いから、早急に出来る? 無茶なお願いだとは重々承知の上で……」


 私が言葉を言い切る前に、バトルラビットたちはキビキビとした口調と動きで、作業に取りかかった。


「は、早ッ!! もういなくなっちゃった……。まあいいや。ベルフェ。工房が完成するまで、ジャックを居候させてくれないかな?」


「はい。大丈夫ですよ」


「それと、里の案内もしてくれると嬉しいな」


「お任せください! さあ、ジャック殿。自分についてきてくだされ」


 ベルフェは意気揚々とジャックを連れて里を案内する。


 流石に疲れが出ているのか、不意にあくびをしてしまい、レシスの勧めもあって休もうとしたその時。


「ん? どうしたの? キースくん」


 キースが俯いたまま私の服を引っ張る。

 キースの様子から何かを感じ取った私は、レシスに先に家に行っているよう指示する。


「どうしたの? 黙ってちゃ何も分からないよ?」


「セリナ様……お願いがあるのですが」


「お願い?」


「はい。僕……ジャックさんのところで働きたいです!!」


「ジャックのところで? どうしてまた?」


 再びキースは俯いてしまうが、私はキースの思いを察し、尊重することにした。


「……構わないけど、まずはお父さんに気持ちを伝えなきゃ。そうじゃないと、私は協力できないよ」


 少し不安そうな表情を浮かべるキースだが、自分の顔を数発軽く叩き、覚悟を決める。


 その顔を見た私は、キースをベルフェの元に連れて行った。




 ======




 里の案内をしている最中のベルフェと、付いて回っているジャックを見つけ、声を変える。


「あ、ごめんね。紹介している最中に」


「いえ。大丈夫ですよ。それよりもセリナ殿。如何なされましたか?」


 隣にいるキースに目を向け、私の目を見たキースは一歩前に出る。


「お……お父さん」


「どうした? キース」


 一瞬、キースがこっちを見たが、私からは何も出来ない。


 頑張って!!


「どうしたんだ?」


「あの……僕……ジャックさんのことろで働きたいんだ!!」


 いつも控えめな声量のキースが声を大にして思いを伝える。


 息子の胸の内を知ったベルフェは驚きを隠せず、困惑する。


「は? え? き、キース。お前、どういうつもりなんだ?」


「お父さんは僕の力を見込んで期待していたのは知っていたけど、僕は戦いたくないんだ! そして……僕はジャックさんみたいな職人さんに憧れているんだ!」


「し、しかしだな……」


 まあ、ベルフェの気持も分からなくもない。だけど、キースにはキースの思いもあって、道もある。それを理解する必要があるけど……。


「ベルフェ殿。自分からもお願いします」


 私が口を挟もうとしたが、先にジャックが口を開ける。


「じゃ、ジャック殿まで!」


「元々自分は彼に目を付けていました。純粋な力もあり、物作りの興味を持っていたのは知っていました」


「ジャックさん」


 ジャックはキースを見てニッコリと笑みを浮べ、ベルフェに深々と頭を下げる。


「彼なら立派な職人になります。是非とも弟子として迎えいれさせてください」


 ジャックと共にキースも頭を下げ、困りに困ったベルフェは私に助けを求めてくるが、私は何も言わずにウインクをする。


「……わ、分かった。ジャック殿。息子を頼む」


「ベルフェ殿……感謝します!」


 ジャックはキースに向き、握手を求める。


 キースは一瞬戸惑うが、固く握手を交わし、柔らかい笑みを浮べる。


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伊澄ユウイチです!


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