刀鬼・ジャック
「里に? 俺がさっき言ったことを忘れてないですか?」
「忘れてないよ。奇遇にも私も魔王を倒すのが目的なの」
「魔王を? 貴女が?」
私がコクリと頷くと、ジャックは高らかに笑う。
突然笑い出すジャックにビックリするレイとキースだったが、私は驚くことなく、彼を見続ける。
「面白いことを言いますね。貴女じゃ、あの魔王は倒せない」
ジャックの一言でレイとキースの表情が曇ったが、私は2人に視線を向け、余計な口出しをしないように釘を刺した。
「へえ。それじゃあ、勝負してみる?」
私の提案を聞いた瞬間、ジャックは笑うのをやめ、目を細めて私を睨みつける。
「勝負? 俺と貴女で? 冗談はよして……」
「冗談じゃないよ」
私の即答により、冗談じゃないと察したジャックは深くため息をつく。
「私が勝ったら一緒に里に来てもらうわ。貴方が勝ったら望みを1つ叶えた上に、潔く帰るわ。どう? 受けて立つ気にならない?」
数秒の沈黙が流れ、考えた末にジャックは笑う。
「魔物の中でも力自慢である鬼の俺に勝負を挑むとは……面白い人間もいるもんだ。分かった。受けて立とう! そして、先に言っておく。俺が勝った場合、その少年を預けてくれ」
ジャックはキースを指差し、指を向けられたキースは私とレイを交互に見て、目を丸くする。
「え……ぼ、僕ですか!?」
「ええ。構わないわ」
驚いているレイとキースを余所に、私は条件を呑んだ。
「さ、里長! 気持は分かりますが、ベルフェさんの息子さんを勝手に……」
「あら? レイくんは私が負けると思っているの?」
笑みを浮べて言葉を返したつもりだったが、レイは私の笑みから何かを感じたのか、それ以上何も言わなかった。
「キースくんも、異論はない?」
一瞬戸惑う素振りを見せたキースだったが、一度私の戦っている姿を見ているキースは何も言わずに、コクリと頷いた。
「決まりね。行きましょうか。気が変わらないうちに」
ジャックは真剣な表情を浮かべたまま、私たちと共に店を出た。
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ジェネラーレから少し離れた荒野に辿り着いた私たちは、お互いの目を見て、対峙する。
「本当に良いんですね?」
「構わないわよ。いつでもどうぞ」
するとジャックは空間を歪ませて穴を開ける。その穴から杖を取り出し、私に向かって投げ、杖は地面に転がる。
「……何のつもり?」
「悪いが、丸腰の人間を攻撃するのは気が引ける。見たところ魔法使いだろう?俺が作った杖で良ければ使ってくれ」
私は地面に転がっている杖を拾い上げ、隅々まで目を通す。
流石私が目を付けただけはある。性能も見た目も最高クラスの出来。本来なら躊躇うことなく使うのだが……。
「返す」
私はジャックに杖を投げ返す。
「……これこそ何のつもりですか?」
「確かに私は魔法使いだけど、その杖は使わないわ……いや、はっきり言うわ。魔法も極力使わないわ」
再びジャックの目つきが鋭くなり、私は笑みを浮べて理由を話す。
「貴方に完全敗北を味わってもらうには、拳の方が良いでしょう?」
挑発ともとれる私の言葉に、ジャックの表情がさらに強ばる。
「……後悔するなよ」
そう呟いた瞬間、ジャックは私たちの前から姿を消す。
突然消えたことにより、遠くから見ていたレイとキースは「消えた!?」と驚きの声を上げながら、ジャックの姿を探していた。
確かに姿は消えたけど……私には分かる。
「……右後ろ」
呟いた瞬間、ジャックが私の右後ろに姿を現し、殴るモーションに入っていた。
しかし、それも見えていた。ジャックの拳は私に当たることなく、空を裂いた。
不意とも呼べる攻撃を躱されたジャックだったが、冷静さを保ちつつ、私に攻撃を繰り出し続ける。
しかし、連続攻撃全てを見切った私は、少しの隙を見つけて、ジャックの顔に軽く拳を当てる。
「ヌッ!?」
一瞬怯んだジャックだったが、即座に体勢を整え、追撃に備えていたが。
「遅い」
間髪入れずに私はジャックの腹部を思いっきり殴り、数十メートル先に飛ばした。
僅かに急所を外されたのを感じ、私はジャックに向かって駆け出し、数発ほど追撃する。
流れのまま勝てる……そう思った瞬間。
「……舐めてましたね」
ジャックが腰に携えている剣に手を伸ばす。
その直後、体全体に寒気が走り、私は追撃を中止する。
「良く止まりましたね。良い勘を持っている」
ジャックはゆっくりと剣を鞘から抜き出し、切っ先を私に向けてくる。
私は嫌な予感を抱きつつ、寒気の正体が気になり、思わず笑みを浮べる。
ジャックは深く息を吸い込み、息を吐ききった瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を振って、斬撃を飛ばす。
一振りで2つの斬撃かぁ。思ったより早く振ってるね……でも。
「真っ直ぐすぎるよ」
私はその場から跳んで離れ、斬撃を躱す。躱して安心しようとしたその時、背後でスカーレットの加護が発動する。
「ふぇ?」
背後に目を向けると加護が斬撃を受け止め、消滅させていた。
これは驚いた。まさかもう一発放っていたとはね。
「防いだか」
私が無傷なのを知ったジャックはさらに斬撃を飛ばす。
真っ向から来る斬撃は回避し、死角から来る斬撃は加護を頼って防いでいたが、完全に攻防が一転し、私は徐々に追い詰められていた。
その時、視界の端にキースの姿が映り込み、私は頭を下げて自分の息子を預けてきたベルフェを思い出した。
「……仕方ないねぇ。少しだけ、昔の勘を取り戻そうか」
私はジャックが放つ斬撃を冷静に分析し、その弱点を見出す。
「行くよ!」
斬撃の軌道を見切り、私は勢い良くジャックとの距離を詰める。
最短で真っ直ぐに駆け、大きく振りかぶってジャックに拳を振りかざす。
「せいッ!!」
しかし、私の拳は剣によって阻まれ、ジャックに当たることはなかった。
「少し真っ直ぐすぎないですか? それに近づけば安心だと思いましたか?」
ジャックが剣に力を込め、私を押し返そうとした瞬間、私は笑った。
「ううん」
私の笑みに困惑していたジャックだったが、数秒後に意味を理解した。
「なッ!?」
私の拳が青白く発光し、距離を取ろうとしたときには遅かった。
「下級雷魔法・サンダー!!」
拳から放たれた雷は剣を伝ってジャックに襲いかかる。
感電したジャックはその場に跪き、トドメが来ると覚悟し、目を閉じる。
しかし、数秒経っても傷みが襲ってこないのを不審に思い、ソッと目を開けた。
「ごめんなさい。魔法は使わない約束だったけど、私を追い詰めるほど貴方が強かったってことにしてくれないかな?」
私はジャックに手を差し伸べ、ジャックはキョトンとした表情を浮かべた後、微笑を浮べ、私の手を握る。
「参った。貴方の方が俺より強かった」
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