天才魔法使いと現れた魔王
「ん~!! 今日もいい朝~」
日差しを浴びながら店の看板を出し、背伸びをする。
「あ、セリナだ!」
「セリナさん。おはようございます」
元気いっぱいな挨拶をしてくる男の子と女の子に対し、私は笑みを浮べて手を振る。
「セリナ! また魔法を教えてよ!」
「良いよ。授業中に寝ないことが条件だけどね」
「あちゃ……バレてた?」
男の子は後頭部を掻き、照れくさそうに笑い、女の子は呆れてため息をつく。
「あ! 急がないと遅刻しちゃうよ!」
女の子が男の子を引っ張って学び舎に向かう。男の子は引っ張られながらも私に手を振り、遠ざかっていく。
「ふぅ……さてと。そろそろ取りに来る頃かな?」
店の受付に立ち、魔法薬が入ったケース数個をいつでも出せる準備をする。
すると男性が受付の前に立ち、声を掛けてくる。
「おはようございます。セリナさん」
「あ、おはようございます」
「ギルドの注文品を取りに来ました」
「あ、はい! 準備できていますよ。このまま持っていきますか?」
「いや、台車を持ってきたからそこに置いて欲しいかな」
受付から身を乗り出し、男性の足下に台車があることを確認し、私はケースを抱えて店の外に出る。
「いつもすみませんね。セリナさん」
「いえ! こちらこそいつも注文してくださってありがとうございます!」
私は笑みを浮べ、台車の上にケースを置く。
「あの……ギルドマスターがセリナさんさえ良ければ……その、戻ってきてくれないかって……」
「おやおや? これはこれはギルドの犬じゃないか」
私とギルドのお兄さんとの会話に割って入ってきたのは鎧を身に纏った王国の騎士だった。
「あ、騎士団長さん!」
「チッ……」
「おやおや……ギルドはセリナさんの魔法薬を1ケースしか注文していないのか? 薄情だな~。俺たち王国騎士団は1ヶ月に4ケース注文しているってのによ~」
「あ、あの~……」
私は言葉を返そうとしたが。
「ギルドは毎日1ケース注文している」
「おやおや。毎日注文しているんじゃ、セリナさんも迷惑だろう? 少しはセリナさんのことを考えたらどうだ?」
2人の間に火花が散り、今にも喧嘩が起きそうだったが、私は恐れることなく2人の間に入る。
「そこまでですよ。騎士団長さん。今ものすごく他人の迷惑になっていますよ」
私の言葉を聞いた周囲の人々は笑い声を上げ、恥ずかしくなった騎士団長は顔を真っ赤にする。
「ギルドのお兄さん。残念ですが、ギルドマスターが何と言おうとも戻るつもりはありません。お力ならいつでも貸しますとお伝えください」
「え~……」
私にフラれて落ち込むギルドのお兄さんを見て、騎士団長は高らかに笑う。
「アッハッハ!! 見事にフラれたな!! まあ、分かりきっていたことだろう? セリナさんはギルドよりも王国騎士団に……」
「あ、それもないですから」
騎士団長が言い切る前に私は騎士団長の申し出を断る。
2人とも涙を流しながら魔法薬のケースを持ち、足取り重く、帰っていく。
ご覧の通り、私はギルドからも王国騎士団からも誘いを受けている。魔法使いとして数々の功績を積み、国を助け、ギルドを助け、天才魔法使いと言われたときもあったが……ぜっっっったい!! 戻るもんか!!
私は平和が大好きなの!! 戦うなんてもうごめんだわ!! それに天才って呼ばれていたけど、強いと思ったことなんて一度もないし、非常に迷惑よ!!
今度ギルドマスターと国王に文句でも言おうかしら?
怒りを鎮めようと空を見上げると、突然王国全体を覆い隠すように黒い雲が現れた。
「あら? 晴れてたのに……雲? 雨でも降るのかな? 洗濯物干そうと思っていたのになぁ……」
店の中に戻ろうとした瞬間、肌に刺さるような魔力を感じ、再び雲を見る。
雲から何かが降りてくるのが見え、私は目を細める。
「あれは……人?」
理解が追いついたのも束の間、至る所から爆発音が響き、思わず耳を塞ぐ。
「ふえぇぇぇ!? な、何!?」
「襲撃だ!! みんな避難しろ!!」
王国に仕える兵士が住民たちに避難勧告し、街は慌ただしくなる。
逃げる住民たちと、戦火に向かっていく兵士とギルドの冒険家。
行き交う人々を見て、私は覚悟を決め、店の看板を戻し、寝室に保管していた杖を手に取り、戦火へと向かう。
煙を吸わないようローブの袖を口に当て、敵を探す。
中央広場に辿り着いた瞬間、私は自分の目を疑った。
「……何? これ」
広場は完全に火の海になっており、王国兵士やギルドの冒険家の死体が転がっていた。
「……また邪魔者が来たか」
炎の中から声が聞こえ目を凝らす。
炎から出てきたのは黒一色の服を着た青年だった。
「あ、貴方がやったの?」
「そうだ。俺の邪魔をしたから殺した」
感情がこもっていない彼の言葉を聞いた瞬間、怒りを覚え、杖を強く握る。
「許さない……絶対許さないんだから!!」
「許さない……か。だったらどうする?」
「超火炎魔法・ギガフレイム!!」
自分の魔力を空にするつもりで彼に向かって数個の火球を放った。
しかし、彼は避ける素振りを見せず、軽く息を吐いた。
「仕方がない。炎魔法・フレイム」
私のギガフレイムに対して、彼は下級魔法のフレイムを放ってきた。
私のギガフレイムと彼のフレイムが衝突した瞬間、周囲の火の手が広がり、お互いの魔法は相手に届くことなく消滅した。
「そ、そんな。相殺だなんて」
「これは驚いた。俺の魔法に抗えるほどの魔法使いがいたとはな。だが、怒りに任せて魔力を無駄に使ったのが運の尽きだ。もう魔法は使えまい」
一瞬の出来事だった。ローブの裏に隠し持っていた回復薬を取り出そうとしたが、右腕に電流が走ったような痛みがあり、顔を歪める。
右腕に目を向けると、そこには私の右腕はなかった。
「え?」
彼に視線を戻すと、彼の手には剣が握られており、斬撃を飛ばされ、斬られたことを察した。
「俺の魔法を相殺した褒美だ。お前は消えていくこの国を見ながら死んでいけ」
突如彼の背中から黒い翼が生え、黒い雲に向かって飛んでいく。
「一体……何を?」
魔力が完全に底をつき、朦朧とする意識の中、彼の行動を見続けた。
「これで終わりだ。禁忌魔法・ジ・エンド」
黒い球体を作りだした彼は、躊躇うことなく球体を地面に向かって投げ、高らかに笑った。
黒い球体が地面についた瞬間、地面が割れ、建物が次々と倒壊していった。
壊れていく故郷を見て、私は無意識に涙を流していた。
「そんな……街が……国が」
足下の地面が割れ、私は地の底に落ちる。
そして意識が遠のき、視界が真っ暗になった瞬間察した。
あ……死ぬんだね。
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伊澄ユウイチです!
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