隣の席の君は。
この物語は
とあるゲーム実況者を応援する30歳の独身女性が応援する
ハートウォーミングストーリー!
・・・・にみせかけた己の欲求を満たすための自己満足である。
【 第一話 隣の席の岡田さん 】
「音成さん、最近は体調がよくなってきましたよ!」
そう話す清原さんは笑顔で話されていた。確かに前回の社員面談よりも調子がよさそうに見える。
「そうですか。仕事の量は負担になっていませんか?」
「えぇ。大分、事務の仕事にも慣れてきました。時間もちょっとずつ増やしていきたいと思っていますが、どうですかね」
「でしたら、課長にも掛け合ってみますね。課長からも仕事の精度はいい感じとおっしゃっられていましたし」
清原さんは「良かったぁ」と表情が緩んでいた。
この会社に転職し、もう半年。早いものだ。地元から離れ、食品メーカーで私、音成ゆかりは勤務している。主な業務は休職した社員やメンタル不調になってしまった社員の支援を行っている。分かりやすく表現すると保健室のようなものだ。
清原さんは工場部門で勤務されていたが、交通事故にあってしまった。一命はとりとめたものの、麻痺が残り、以前のようには働けなくなった。
そのため配置転換や業務定着を私が行っていた。
「清原さん、でもお腹まわりが大きくなったような気がするんですが」
「いやー、工場勤務のときは食べても食べても太らなかったんですが、最近は以前より動かないからか同じ量食べても太るんですよね」
「奥さんの手料理はおいしいでしょうが、気を付けてくださいね。体は動かしにくいかもしれませんが適度な運動も大事ですよ」
「善処します・・・。音成さん、では来週もよろしくお願い致します」
よっこらせっと大きな体で立ち上がる。その時に「あ、そういえば」と清原さんは呟いた。
「音成さんの席ってシステム課にあるんですっけ?」
「えぇ。私ような職務の人は他にいませんので、システム課の席にいます」
「何でシステム課なんですか?総務とか人事とかの席の方がが仕事やりやすいでしょうに」
「そう思いますよね。総務も人事も席が空いてなくて、仕方なくシステム課なんですよね。まぁシステム課の隣に人事があるのでそこまで不便ではないんですけどね」
むしろシステム課の方が私にとって好都合なんですよね、と心の中で私は呟く。
清原さんはふーんと腕を組んで、上を見上げた。
「いや、実は音成さんの隣の席の中島って『ゴホゴホッ!!!』いるじゃないですか」
私は思わずむせてしまった。私の好都合の理由をまさか清原さんは知っているのか。
「音成さん!!大丈夫ですか!!!?」
「だ、だいじょうぶでっす。で、中島さんがどうしましたか?」
「いや、中島は僕の同期なんですよ。面白いやつなんですけど、変わっているんですよね。音成さんに中島が変なことしてないかなぁと思って」
「あぁ、中島さんね。確かに変わっているというか、几帳面というか潔癖というかね、あと要所要所でオタクを感じますね」
「そうそう、あいつ仕事もできるんですが、何か惜しいというか。スタイルも悪くないし顔も悪くないのにねぇ。でもいいやつだから、何かわからないことあったら中島に相談してもいいと思いますよ」
もちろん、僕も力になりますが、と笑顔で清原さんは言った。
「知らない土地だしね。いつでも言ってください」
「ありがとうございます。では、美味しいお店教えください」
もちろん!と清原さんは胸と叩いた。
清原さんを見送り、会議室を後にする。
廊下を一人歩き、システム課に向かう。
中島聡。
この人は私の隣の席の社員さんだ。
転職初日に彼に挨拶をした際に「よよ、よろしくおおお願いしますすす」とめっちゃ緊張していた。
私の方が緊張しているはずなのに盛大に噛んでいたので驚いた。
少し和んだけど。
システム課は男性職員が多い、私自身は乙女ゲーム的なドキドキを期待していた。(多少)
が、現実はそう甘くはなく、みんなゲームかアニメか漫画かライトノベルの話をしている。
オタクだらけじゃん、と残念な反面、この話に加わりてぇと思う自分がいた。
しかし、それはできない。なぜなら、私は転職デビューをしたのだ。
さっき清原さんに痩せろと間接的に言ったが、実は私はもともとデブだ。
私はデブでオタクな女子力低めな処女なのだ。しかも関西出身で絶対モテない自虐ギャグを地元ではやっていた。このままでも幸せだと思うっていたが、29歳になってこのままじゃモテない人生は嫌だ!と思い一念発起し、ダイエットや化粧やヘアメイクを頑張った。そして転職をして、仕事や一人暮らし、恋愛とかいろいろ挑戦しようと。
その結果、逆に自分が浮いてしまう結果になった。
転職した場所も大都会でなく、地方の都会。月9のヒロインのようなバリバリOLみたいな服装なため、システム課のオタク社員に陽キャと間違えられている。
私が話しかけると少し距離がある。男だらけのシステム課の希少な女子にもビビられている。
なんでやねん。思てたんと違う!!!!
という状況であった。半年たってもあまり距離は近くならない。
お菓子とか差し入れしているが、なかなかガードは固い。
だが、実は中島さんに対して私は特別な想いがある。
清原さんにも言えない。誰にも言えない。
窓の外が夕焼け空から薄暗くなってきた。時計を見ると、あと5分で18時になる。
私はお隣の中島さんを横目で見る。
彼はいつも以上にタイピング速度が速く、必死に定時で帰宅しようと奮闘していた。
今日はあの日だからな。私は脳内で応援団を作り、三々七拍子で彼にエールを送っていた。
タイピングの手が止まり、彼はPC眼鏡をはずし背もたれに体を預けた。
今日のノルマが終わったんだなぁと私は胸をなでおろした。彼が仕事を終えたため、私はパソコンをシャットダウンしようとする。
その時に事件は起こった。
「なかじまぁ~すまん!!」と額に汗をきらめかせながら課長が中島さんの席には近づく。
「ど、どうしましたか」
明らかにひきつった顔をするが、社会人として一応課長の話を聞こうとしていた。
「いや、実はな、Excelでこのデータ入力してほしいんだよ。今日中に物流部に渡すもので。ワタシがやればいいんだが、今から緊急の打ち合わせができてなぁ。頼む!!」
/(^o^)\ナンテコッタイ。私はそう思った。おそらく中島さんもそう感じている。
中島さんには今日は外せない予定があるのに!!
中島さんは顔をトイレを我慢しているかのような苦悶の表情をしていた。
そうやんな、中島さんは出世もあるもんな、でも今日の予定も大事やもんな、と私は彼の気持ちを汲んでいた。
「頼むよ !!!!!!」
と課長は圧力をかける。中島さんはぐぬぬと歯を食いしばっていた。
「…わかりました。やりま『私も一緒にやっていいですか?』、え、音成さん」
中島さんにかぶせるように私もそう言った。
「おぉ、音成さんもやってくれるのか、助かる!」
「えぇ。Excelへの入力でしたら私もできますし、一緒にやった方が速いですよ。ね?中島さん?」
ここで「私がやるんで中島さんは帰っていいですよ」なんて伝えたら、中島さんは他の人に仕事を押し付けて帰ってしまったみたいな感じになるので、出世したい彼にとってはNGよりな気がする。
だからこそ、一緒にやるとした方がベター。きっと中島さんはやりますと言って大事な予定に遅れるつもりだったろうし。
「あぁ。助かります」
と中島さんは少し安堵したような、でも驚いたような表情をしていた。
一時間後。
「終わった~」
すべて入力は終わった。思っていたより、早く完成した。
中島さんはせかせかしながらカバンに荷物を詰めていた。
「音成さん」
「はい?」
「ありがとう。助かった」
とお礼を言うとすぐに扉に駆け込む。
「あ!中島さん!」
中島さんの動きが止まり、こちらに体を向けた。私はすかさずエナジードリンクを投げた。
中島さんは体を左右に振り、慌てていたがキャッチした。
リアルでは運動音痴だなぁ。
「音成さん、これは?」
「良かったら飲んでほしいなぁと思って。プレゼントです」
「それは…どうも」
「ではお疲れ様です」
中島さんは会釈し、走っていった。
彼は今からもうひと仕事あるから、差し入れをしたかった。
だって彼は
「ただいま」
と誰もいない部屋に入る。半年たったが、まだ自分の部屋とは感じれない。
私はパソコンを立ち上げ、冷蔵庫から発泡酒を取り出す。
見るのはもちろんニヤニヤ動画。私が10代のころは非常に人気のあったコンテンツだ。
今は少しオワコン化していると世間では言われている。
「え~っと、これや。今日はハイパーマルオ65やわ。懐かしいわぁ」
家だともっぱら関西弁だ。自分の部屋としてなじむために、あえて関西弁を使っている。
クリックを進め、お目当てのチャンネルページにたどり着く。
「天然王子ちゃんねる」
このチャンネルは天然王子というオカダさんとミヤケさんという男性二人がゲーム配信をしている。顔出しはしていない。ホラーゲームよりかは、アクションゲームやパーティーゲームをし、神がかったプレイ動画や二人の掛け合いが面白い。今日は生放送でゲームをする予定で、これを私は楽しみにしている。
動画画面が切り替わり、コメントが流れる。
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
「これは神回確定」
「おばんです」
私もワクワクしてきた。
「はい、こんばんは。天然王子のオカダと」
「ミヤケです」
始まった。オカダさん、間に合ってよかったわ。
「今日はいろいろ障害がありましたが、何とか配信時間に間に合いました」
「オカダ君は社畜ですもんねw間に合って良かったですw」
「うるさいわwとりあえず景気づけにエナジードリンクでも飲みますわ」
「オカダ君、珍しいですね。エナジードリンク飲むの」
「あぁ、ちょっとさ。女性からもらってさ。困っちゃうよね~僕みたいなイケメン男子にはそういうことが多いからさぁ!」
「とか言って、さっきコンビニで買ったのでは?」
「こ●すぞ」
「メンゴw」
私は「天然王子」の二人にいつも楽しませてもらっている。
小さいころからの幼馴染である二人の掛け合いは聞いていて楽しいし、ゲームプレイもうまいだけでなく笑いもある。
中高生のときはこの二人の動画をよく見ていた。そこから大学やら就活やら仕事やらで、ニヤニヤ動画から離れていた。転職して間もないころ、寂しすぎて久々にニヤニヤ動画からこのチャンネル動画を見ていた。
そして、ふと気づいたことがあった。
あれ、オカダさんの声、中島さんに似てね?
おや、このエピソードはうちの会社のことじゃね?
と感じることが多々あったのだ。
もしかしたら、私の勘違いかもしれない。でも、それでもいい。これは私の自己満足だ。
お隣さんがゲーム実況者なら、私は応援するだけ。
「いやー今日さ、急に上司から帰り際に仕事を振られてさ。出世にもかかわるし断るのもなぁーと思ってたんだよ」
「オカダ君は断らないでしょ。良く間に合いましたねぇ」
「でもね、隣の席の陽キャ女子が手伝うって言ってくれてめっちゃ助かったんだよね」
「へぇ!良かったですね!」
「でもさ、その陽キャ女子だからマジで接しにくくて。僕も普通に接しようと思うんだけど、ビビッて声が上ずるんだよねw」
「陽キャ女子に対する警戒心強くないですかw」
別に私の話しなくていいのに。でも少しうれしいような、こそばいような。
ただ、断じて私は陽キャ女子ではないんや…。
「ってぇぇえ!何でそのキャラ使うんだー!!!」
「オカダさんw本気ですからw」
彼らのために私は頑張るから。
これは私の
おとなりさんのゲーム実況者の話だ。
【 第一話 END 】
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。