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泡沫の夢、夢枕  作者: 蒼井ミチル
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2/12-3

女三人よれば姦しいという格言もあるが、女二人でも十分騒げるものだ。お外や旦那様と居るときはともかく、お友達といる間くらいはにこやかに、賑やかにするべきなのだ。

ぱしゃぱしゃと水面を叩きながら、就活について話していた。

「…ところでそのぱしゃぱしゃは何?ダイラタンシー現象の実験?」

「え?」

聞き返し、何だろうと思って水面を叩く。

「あ、これのことですか?」

「うん。」

「そんなに深い意図は無いですよ。癖です。」

「どんな癖よ。疲れないの?」

「あんまり。ずーっと小さい時からの癖なんですよね。」

「身長は変わってなさそうだけど」

「8センチは伸びてます。」

「…そう。それで、何でそんな癖がついたのよ。」

「遺伝的に低血圧なんですけど」

「うん。」

「小さい時にちょっとPTSDになりまして、不眠症を患ってたんです。」

「PTSD?」

「トラウマが原因でなる病気です。わたしは眠気に襲われてウトウトしてるのがどうしても怖くて、何かしら作業したり、本を読んだり、散歩と称して何キロも歩いき続けたり、とにかく眠らないようにしてたんです。」

「うん。」

「でも、心身ともに疲弊していくのを感じてこのままでは不味いなと思って色々調べてみたんです。」

「それで?」

「取りあえず身体を温めるといいらしい、と。身体を休めるときは体温が上がるんですって。不眠症はずっと覚醒が続きますから温度をあげる機会も少なくて、身体が休まらない悪循環になります。」

「あー、それでお風呂。」

「はい。お風呂に入るようになったのはよかったんですが一度そのまま気絶して溺れかけまして、それ以来眠らないように、と。運動してる間は眠くなりにくいですし、触覚と聴覚への刺激になりますし。」

「何事にも理由はあるんだね。」

「無くて七癖といいますから、必ずしもそうとは限らないかもしれませんね。」

「はは、それは詭弁。」



「お二人とも、溺れてたりしない?」

ガラリと戸が開く音がして、男性の声。勿論、愛しの旦那様である。わたしは返事をしにお風呂から出た。彼は微妙な顔をしていたが私を見て微笑んだ。

ちなみに、彼の名誉のために言っておくと彼は敷居の奥から声をかけてきたし、私たちはお風呂の奥、給水器側に居たので特に姿が見える事はない。脱いだ服に関してはロッカーにしまってある。なぜロッカーか、とかそもそも何で温泉があるんだとか言及し出すと長くなるが、簡潔にいえば元々ここは貴族のお屋敷だったのだ…と思ってもらって差し支えない。

「大丈夫ですよ。覗きですか?」

「そろそろ六時になるよ。電話してもでないから」

「あら、そんな時間でしたか。そろそろ上がりますね」

「うん。しばらく西館に居るから。」

「わかりました。」


「なんて?」

「そろそろ上がったらどうだって話です。あいにくとご飯の準備とかがありますから従わねばなりません。」

「ふぅん。あ、そうだ、夜中に入りに来ていい?」

「ええ。ボイラーは止めないでおきますね。」

「ボイラー…そういえば普段からここに入れるって贅沢だね。」

「広すぎて落ち着かないので普段は普通の家庭にあるような浴室を使ってます。それでも大人二人で入れるくらいには広いんですけど。だからこのお風呂使うのは久々なんです。」

「なんか勿体無いって気持ちとわざわざお風呂入れてもらって悪いって気持ちがある。」

「ふふ、冗談です。掃除がてら週一で使ってますよ。」


こちらに来て色々便利な身の上になったがあいにくだったことがいくつかある。そのうちのひとつが美容。特にブロー。ただ風を吹かせばいいという訳じゃないので温風にしたとして、魔術を使うのにいちいち湿度や温度を計算して式に起こして云々するのは面倒だし、かといって水分を直接操作しようとするとそれはそれでなにかと危険なことになるリスクがあり、つまるところ電気が通ってることにこれほど感謝したことはない。


「撫子もちゃんと乾かさないとダメですよ。」

「別にいいわよ」

「しゃんとしないとモテませんよ?彼と一緒に寝てるときに朝起きてパンチパーマみたいになってたら千年の恋も冷めちゃいます。」

「実体験?」

「お友達の話です。それはそれとして私も癖っ毛なのでやらないと明日大変なんです。ほら、座ってください。…折角可愛いのに勿体無いですよ?」

「はいはい、よろしくね。」

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