ねぇ、それは本当じゃないかもしれないよ
ねぇ、それは本当じゃないかもしれないよ
子どもの頃、代々所有している山に入らせてもらったことがある
とある動物のカタチをした岩が目印で、それももう風化して分かりづらくなっていて
道なき道を、道を知ってる父に付いて行く
裏の白い葉は漆で、他のもかぶれるかもしれないから一切触らずに登れと言われる
父の子どもの頃は、漆も売れたらしい
ウラジロという、お正月のおかがみに敷く葉は今でもこの山からとっている
お正月のお餅を炊く、枯れ枝たちも
父に付いて行きながら、つらつらと話す父の声に耳を傾ける
昔はこの山を越えて、親類たちが来ていたこと
峰続きに歩くと、意外に早く色んなところへ行けたこと
歩いているうちに、少し拓けたところへ来る
そこにはレンガで出来た水道橋があった
それ以上はいけない、私たちは水道橋を眺めて引き返す
たった一度きり、子どもだから許されたこと
だから記憶も曖昧で、本当かどうかも分からない
初潮が来れば、私は女性。山に入ってはいけない
帰りは父が拾った枝で葉を持ち上げながら、漆を確認して注意を促す
どこもかしこも漆だらけな山
地面も見えないほど、葉が積もっている山
道を知らないと、きっと帰れなくなるのだろうと思った
入り口だってあって、ないに等しい
山から出ると、そこは住宅街の真ん中で、ガードレールも何もない狭い道路へ出てしまう