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アイテムボックスに転生しました  作者: Aurea
シャンレイ・オンスロワの華麗なる結婚
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8

 肌が空気を感じる。天翼人の象徴、空飛ぶ魔法である魔力の翼がふわりとはためき、私はこの狭い馬車内に降り立った。

 保管していた肉体そのままではなく、取り出したローブも問題なく着用できているようだ。どうやら多少融通が効くらしい。

 ああ、ちゃんと自己の肉体として外の世界に出たのは初めてだ。遠隔で小鳥の体を操ったことはあったが、あの何倍も素晴らしい。

 悲しみがない分なのか、喜びが強く感じる気がする。こんなに歓喜したことは今までなかった。


「なんだぁ、てめえは!? どっから現れやがった!」


 そしてそう。悲しみがない分怒りも強いのだ。この私の喜びに水を差すなんて。


『全く。せっかく人が喜びを噛み締めているっていうのにね』

「ああ? 何言ってやがる!」


 さて、困った。どうも言葉が通じないらしい。私は誰を持ち主にするかを変えれば、相手の思考を読み取れる。だから言葉がわからずとも、相手が何を言いたいのかおおよそのことはわかるのだが、私自身が言葉を話せなければ、相手に自分の意志を伝えるのは難しいのだった。

 私が話せる言語は、かつて本で取り込んだ、今では誰も話す者がいないベゾフラポスの言語と、その時代の魔術に使われていた言語だけだ。

 ああ、怒りも伝わらないなんて、面倒くさい……。ちょっと学習するか。

 

 私は目の前の男を収納した(・・・・)

 その記憶と知識を読み取り、学習した。ああ、本当にくだらない計画だ。

 男を武装解除した上で、馬車の外に放り出す。


「くだらない。気に入らない。いくら辺境人が相手だからって、こんな可愛らしいお嬢さんを無理矢理連れ戻すために男が寄ってたかって」


 外に出ると、結構な人数の有象無象が馬車を囲んでいた。全員が人間のようで、他種族は混じっていない。先ほど覗いた記憶によればどうやらここは人間の国らしかった。

 あの地上種で最も脆弱な人間が、今ではこの大陸で最も栄えているとは。地球でもゴキブリは数億年前からいたと言うし、年中発情期のしぶとい生命力が功を奏したのだろう。

 ……どうも私は、この体に毒されているようだな。そんなつもりはなかったはずなのに、地上種ごときと、つい見下してしまう。

 今では我ら天翼人は滅び、彼らも一応は文明国家を築いたのだから、ほどほどにしなければ。


「くそ、おいてめえら、やっちまえ!」

 

 地上種は我ら天翼人滅びた後も人類生存圏を開拓し、こうして栄えているだけの知恵や賢さがあるはずだ。少なくとも強者には敏感でなければ、地上種でもひときわ脆弱な人間なんてすぐに死んでしまうだろう。

 なのに天翼人の肉体を持つこの私に抵抗するなんて、まさか知能が退化してしまったのか?

 私に向かって周りの男たちから矢が放たれた。試しに何も防御しなかったが、体を狙った矢はそもそもローブに弾かれた。頭には数本の矢が刺さった、痛い、のか? これは痛いというか、もっと客観的に、この肉体が傷んだという感じだ。

 私は、アイテムボックス内の元の肉体を参照した。

 それだけで頭部は再生し、突き刺さっていた矢は肉体の表面で切断されたように地面に落ちる。

 アイテムボックス内に保管されている物の中から、身体となる物を選びなおせば元通りになるのだ。

 そして、アイテムボックス内の物は時間が止まっており、また、外部から一切干渉されないから、事実上私は不死身だ。


「ひっ、ばけもの!」

 

 男たちが頭を再生した私を見て悲鳴を上げる。事ここに至ってようやく何と対峙しているのか理解したらしい。

 男たちの一人から、今度は火球が飛んできた。矢を打つ前から長々と魔術を編んでいた割に、稚拙な魔術だった。

 私はそれを収納する。


「返すよ」


 そして魔術を放った男に向けて取り出した。時間が止まっている以上慣性も保存されているから、そのまま男へと向かっていく。とっさに魔術を解除すればいいのに、彼はそのまま火達磨になってしまった。


「で、お嬢さん。できれば馬車の中で待っていてほしいんですけどね」


 いつの間にやら馬車内から武装したお嬢さんとメイドが出てこようとしていた。さすがに板金鎧のような全身を金属で覆うものこそ着てないが、鎖帷子を着込んでおり、木製の、身長ほどもある大きな棍棒を手にしている。

 さっき得た知識によれば辺境人は辺境以外の人間と戦う時はこのような棍棒を使うらしかった。

 先程まで鎖帷子はもちろんこんなに大きな棍棒も手に持っていなかったし、おそらく自在袋――私のような異空間に収納するアイテムボックスではなく、内部空間が魔術で大きく拡張された袋――でも持っていたのだろう。



「ここで馬車内に籠もっていては、南部辺境公オンスロワ家の名折れ。貴方様こそご助力には感謝いたしますが、これ以上は助太刀無用ですわ!」



 彼女は相変わらず、全部ぶっ潰してやろうと考えているらしかった。



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