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あれからどれだけ経っただろう?
私は、アイテムボックスではなく、ただの指輪として持ち主を転々としながら、内部の空間の修復に追われていた。
あのとき、滅茶苦茶になった空間を取り込んでなんとか事を収めたまではいいが、それを整理、修復するのに随分と時間がかかった。時間間隔が曖昧になっている私をして、千年余りは経ったんじゃないかと感じる。
内部空間が無限に広がる以上は、極論を言うと適当なところに放置しておけばよく、空間を修復する必要はなかったのだが、内部がバラバラだととても落ち着かなかった。ずっと胃がぐるぐるしているようなものだ。まあ、私にはもう胃がないのだけれど。
私の最初の持ち主だった魔術師も死んでしまって、その死体だけがここに残っている。
ベゾフラポスはほとんどが圧潰しバラバラになったが、奇跡的に生きたまま取り込まれた天翼人の体が残っていた。
生きたまま取り込まれてしまった彼女には悪いが、これを私の体にするか。
もっとも、外では天翼人は絶滅しているらしい。伝説に神人として残っていたり、いくらかの家がその血を引いているらしかったが――彼らの先祖は事故当時、人類生存圏の開拓に行っていたのだろう――今や全く見られない。
まあ、天翼人と言っても魔法で空が飛べる以外は、外見的にはほとんど人間と同じだから、大きな問題はないだろう。魔力の翼は、通常人には見えないのだ。
この初代持ち主が生きていればその体を使ったのだが。
このような思考が平気でできてしまうあたり、もう私は人間からだいぶ外れてしまったようだ。喜怒哀楽のうち、哀に当たる部分をすべて失ってしまったからか、ベゾフラポスの崩壊も何も思うところがないし、その残存物を利用することにも抵抗がない。
ただ、崩壊を喜んでいるとか、楽しんでいるとか、怒っているわけでもない。ただただ虚無だ。
どうも私は、悲しみなどは全て失われたが、悲しみとしか言いようのない出来事を感じた時、感情が無になるようだった。
まあ、それはどうでもいい。
問題はいつ出ていくかだ。指輪が生物に変わったら流石に驚かれるだろう。
空間を修復中も時折外を見ていたが、今の持ち主はどうやら貴族のお嬢さんらしかった。今では辺境と呼ばれている、人類生存圏の開拓の最前線あたりを治める大領主の娘だ。
どうも辺境の生物は環境によるものか、一般人よりも強いようだったが、果たしてこの馬車を襲われている状況で出ていっていいものか。
どうも護衛もつけずに領地に戻ろうとしていたようだが、何らかの理由で襲われているらしい。
思考を読み取る限りは、とりあえず襲撃者を全てぶっ潰して逃げようと考えているらしかったが、彼女の強さを知らない私では、判断に困る。
おっと、ついに馬車を止められたようだ。
扉が乱暴に開かれ武装した男が乗り込もうとしている。
まあ、一対一ならこのお嬢さんのほうか、側にいるメイドさんのほうが強そうなのだが、外にもいるだろうし、ここは余計なお世話でも無理やり助けておけば、私を無碍にはできまい。
私は姿をまず指輪から空気へと変えてこの貴族のお嬢さんから少し離れると、次に天翼人の少女へと姿を変えた。衣服はベゾフラポス崩壊の折に大量に取り込んだので、適当に防御力の高いローブを拝借する。
ああ、久しぶりの人間の体だ!