5 Side : 魔術師
魔導都市ベゾフラポス。
山のようにでかい天然魔石から発せられる浮遊効果によって天空にある、世界一の都市だ。
一説には、竜のような空を飛ぶ超巨大生物の遺骸が土台になっているのではないか、といわれている。魔石の巨大さのあまり、肉体の死後も、肉体を浮かせる浮遊魔法が働いているのだ。
竜種を始めとした空を飛ぶ巨大生物は、浮遊魔法を使って空を飛んでいることがわかっている。その魔法が死後も残っているとは、ベゾフラポスのもととなった竜は、どれほど偉大な竜だったのだろう。
自らも死後まで効果が続くほどの魔術を残したい、とはさすがに言わないが、せめて新魔術を開発し名前くらいは残したい。
魔術師なら誰もが夢見ることだったが、彼女、かの数奇な運命をたどる布袋を手に入れたこの魔術師もまた、そう思っていた。
今では指輪に姿を変えたが、中に無限に物が入り、しかもまた日が昇るまでという制限こそあるものの、中に入れたものを無限に複製することができるこれの存在は、間違いなく彼女の力を高めた。
実験のための素材をいちいち消費しなくなったことで研究は格段に効率化されたし、費用を抑えられるからその分をもっと別なことに使えた。
これを手に入れるまでは面倒だった、魔術師の義務たる人類生存圏の開拓も、高価な魔力回復薬を飲み放題なのだから、研究した新魔術を好きなだけ試し打ちできる一種の実証実験になった。
しかもこれときたら、彼女以外が使おうとしても中に入れることも取り出すこともできなかった。
おかげで今や彼女は、押しも押されもせぬ魔導都市の筆頭魔術師になったのだ。
「懐かしいわね。いつの間にか布袋が机に置かれていた時はどうしたものかと思ったけれど」
彼女は研究室でひとりごちた。
散々この謎の道具を使い倒してきた彼女だったが、これが何なのか未だわかっていない。
おそらく神々の秘宝に類する何かだろうが。
わかっていることといえば、どこかに空間があるということだ。最も確かめられたわけではないので、推論止まりだが。
空間魔術で空間そのものをたえず観察し、記録して、ようやく分かるほど極々僅かな空間の揺れ。
その現象は空間の歪みがありえないほど少ないことを除けば、転移によく似ていた。
つまりこの不可思議な道具を基点に、どこかに空間があるのだ。
「これと向き合うときがキたということかしら」
彼女は、自分が興味のあった研究の大半をすでに終わらせていた。
そんな彼女が次に興味が向くものといえば、自らを躍進させたこの道具だった。
この無限に収納できる道具のほんの僅かでも仕組みがわかれば、それだけで偉大な発見と言える。
おそらく広大な空間と繋がっているのだろう。だから事実上無限に収納できるのだ。
「そうと決まれば、そう。まず、その空間とやらを観察しないとね」