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2021/07/20
天翼人の外見について、翼→魔力でできた翼に変更しました。
眼下の遠く、都市の向こうには雲海が広がっていた。どうも、地上は天気が悪いらしい。
この都市は現代地球にも見劣りしない高層建築が立ち並び、魔術で動く車が行き来し、子どもたちが愉快に宙に浮いて遊び回っていた。
ここは魔導都市ベゾフラポス。空に浮かぶ浮遊都市だ。
全く、何度聞いても変な名前だが、空に浮かぶこの都市がまさに人類生存圏を守護し、支配していると言っても過言ではない。
人類生存圏、というのは文字通り、現在の人類が住んでいる生息域だ。
世界は広いが、その殆どは恐ろしいモンスターによって埋め尽くされている。この空に浮かぶ都市も、人類生存圏を脱すれば、たちまち超大型飛行モンスターによって襲われるだろう。
また、人類といっても、この世界には人間以外の人類もいた。
まず私の持ち主を含めた、このベゾフラポスの支配者、魔力の翼を持つ天翼人。魔力でできた翼を持ち、生まれながらに宙に浮く魔法を行使するのが特徴だ。優れた魔導技術を持っており、ここだけ明らかにバグっている文明の発展度合いだ。
それから人間、エルフ、獣人、ドワーフ、小人、鬼族、オーク、樹人、他にも多種多様な地上種。
地上種とは、天翼人が地上に住む知恵ある人類種を総称して言う言葉だ。もっとひどい時は地べたを這いずるものとか言うが。
最も天翼人が驕り高ぶるのも無理はない。地上の人類は、私達ベゾフラポスの庇護下になければすぐさまモンスターにやられてしまっているだろうから。後で言うが、それほどここと地上とではレベルが違う。
それに別に、見下しているだけで奴隷にしているわけではないし、ちゃんと、守ってあげいてるのだ。
この十年で、私も何度も持ち主とともに戦場に出て、モンスターを狩り、人類生存圏を開拓した。無限に戦略物資を運べるのだから、ある意味当然である。魔導機械の燃料となる魔石を大量に複製したこともあった。
複製もだが、この十年でできることや、わかったことも随分と増えた。
まず一つ目。持ち主が物を取り出そうとしていなくても、持ち主が身につけてさえいれば、常に持ち主の思考や五感を読み取れるようになった。
これはそもそも、物を入れたり、取り出したりすることが、私の能動的な動作だからだろう。私が入れたいと思ったものしか入れられないし、私が取り出してあげるから、持ち主は取り出せるのだ。
だから私が常に物を取り出そうとして、取り出す場所を決めるために持ち主の思考と五感を読み取ろうとすれば、常に読み取ることができる。物は取り出さないまま中で待機状態だ。
これのおかげで私は外を常に見ることができるようになったので、主観時間は随分と伸びた。客観的にはどうやら十年ほど経過しているようだが、私自身の感覚としては五年ほどか。
それでわかったことといえば、どうもこの国は面積は小さいながら魔導技術といい、先も行ったようにかなりの超大国のようだ。いや、そもそも地上文明は未だ石器や土器を使う未発達具合。地上の国と呼べるものはおよそ彼らベゾフラポスの人間が、地上を管理しやすいようにつくったものだから、わざわざ大国などと他と比べるのもおこがましいとといえるか。
地上は石器時代なのに、我々の都市では自動車が走っているのだ。自らが最も優れた種族であると、多種族を見下すのを責められるだろうか。驕っているとすら言い難いかもしれない。
しかし私が思うのは、これってファンタジーによくある、古の時代に栄華を誇っていたのに突然滅びた古代文明なのでは? ということだ。つまりこの国は今から滅びる!
……まあ、冗談はおいておいて。
現実問題、この国が滅びそうな兆しは今のところない。地上の人類生存圏を広げるために定期的に魔境と呼ばれるモンスターの巣窟を掃討しているが、空に浮かぶこの都市の敵ではないし、人類生存圏を出なければ、ドラゴンを始めとした空を飛ぶ超大型モンスターどもも、積極的にこちらに襲いかかってきはしない。
きっとまだまだ大丈夫だろう。
それから次に私ができる事になったものといえば、なんといっても複製だ。
複製、素晴らしい力だ。一度物を入れればその日限りしか持たないとはいえ、何度でも、無限に取り出せるのだ。
一度、初めて複製した時は、持ち主に黙っていたから、翌朝消えてすわ盗難かと大騒ぎだったが、いい思い出だろう。
しかもさらに、この複製して取り出した物は私自身とつながっているようだ。
取り出した先、アイテムが持っていかれた場所もぼんやりとわかった。
そしてさらに、ここからが我ながら恐ろしい話なのだが、生物も複製できた。
そして複製した生物は、まるで私が持ち主とつながるように、つまり複製した生物の五感と思考を読み取り、しかもさらに自由に操ることもできた。
私自らが動かすことも、指示を出しての遠隔操作も思いのままだ。
今こうして眼下の都市や雲海を眺めていられるのも、私が地上で捕まえた小鳥を外に放しているからだった。
私は、私に触れている持ち主の思考や五感から、収納の対象を確認して、収納することができる。
しかしそれは、持ち主が入れようとした物だけしか入れられないわけではない。私が確認できる限り何でも収納できるのだ。
私は道具ではなく、意志があるから。だから、ふと実験的に持ち主の視界の端にうつっていた小鳥を収納できるか試したら、できてしまった。
これはつまり私は持ち主を収納して成り代わることだってできるということだ。
……もしかしてこの都市が滅びる原因って私だろうか?
いや、今のところ私にはその気はない。
うん、きっと大丈夫だろう。
最後に。私自身の姿が変わった。
私が外の姿として布袋を選んでいるといったように、布袋もまた、このアイテムボックスに入っているアイテムの一つに過ぎない。
私は、たまたま中に入れられた銀の指輪に姿を変えた。
持ち主も驚いたようだが。機能は変わらないと知れると、持ち運びに便利だからとたえず身につけてくれるようになった。おかげで私も外をよく知れて大助かりである。
しかも私はあくまでも内部のアイテムの姿に変じているのだ。内部に時間が停止したアイテムがある以上は、いくら指輪が傷つこうとも、アイテムボックス内の元の状態にすぐに戻るというわけだ。
私の感覚から言えば、きっと姿を内部に入れた生物に変えることもできる。
しかし今の所入っている生物は小鳥だけだし(なんとこの都市には虫一匹いやしない)、人間を入れる気はしないから、しばらくはまだ、この持ち主に使われてやろう。
なんと言っても私にこの世界の知識や、今は使えないけれども魔術の知識まで与えてくれたのだ。
ひどく時間の感覚が曖昧なのもあって、この持ち主が死ぬ五十年くらいはこのままでいいかという気もする。
あるいはこの文明が古代文明よろしく滅びれば、話は別なのだが。