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ある時、私は自分自身を認識した。
ここが、転生先、だろうか。周りにはなにもない。いや、そもそもここはさっきの花畑にもまして謎の空間だった。
それになんだか、不思議な感覚だ。私自身が、この闇よりも深い空間そのものになってしまったかのような。
私はいくらでも広がることができるし、私の内部、無限に広がるこの空間のすべての場所を完全に把握できる。どこに何があり、それが何なのか。全てだ。
それによると、ここにはたった一つだけ、物が置かれていた。
いや、置かれているというか浮いている? 存在している?
とにかく、一つの布袋だけが、この空間にあった。
恐ろしく頑丈で、どうやらこの世界が終わるその時まで決して破けることはないらしい。私の内部にあることで、それがわかった。
そして、この空間を『外』から見れば、この布袋になっているらしい。
私の外からの姿として、今はこの布袋が選ばれている。
……そろそろ、私にも何かがわかってきた。
『外』については、とりあえず存在を感じるとしか言えない。どこなのかとかどのような場所なのかとかはまるでわからない。
ただ姿としてこの布袋を選んでいて、外から見た私はその姿なのだと、本能のようなもので感じるだけだ。
そう、本能だ。
人間はもちろんこんな空間ではないし、外とか姿を選ぶとか、そんな本能なんてない。
私の推論を確かめるように、私の『口』が開かれた。
私を手に持っているのは、どうやら魔法使いのようだ。なぜわかったのかというと、魔法使いの思考を読んだから。
私には、持ち主が望んでいる物だけを収納し、取り出してあげるために、手に触れた者の思考を読み取り、また適切な位置へ取り出すために五感も感じ取る機能がついているようだ。
そして思考と視覚を通して、私はここがどこなのか。そして私自身がなんなのかを知った。
どさどさと、魔道具や、魔導書が放り込まれる。
ああ、後で別に整理しなくてもどこにあるかはわかるが、散らかっていると落ち着かないので片付けなければ。
……そう、ここは魔導王国と呼ばれるこの世界一の大国。
そして私は、そんな国の一流の魔法使いすら見たことがないような、世にも不思議な、無限の広さを持つ素晴らしいアイテムボックスだったのだ!
ああ、素晴らしきかなアイテムボックス! まさに至高の魔道具!
どうして、私自身がアイテムボックスになってるんだ!
そりゃ、人間に転生したいなんて言わなかったけれども!
おい神、そりゃあんまりでしょう……!
悲しみは湧いてこなかった。あの神が、私をそう弄ったから。
私このまままじゃ、世界の終わりまで布袋のままさ。健康な体って素晴らしいね。
私は悲しむこともできず、ははは、と乾いた笑みをこぼすことしかできなかった。