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隣のアイツはお偉いさん⁈  作者: 海野 仁結
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第1章 転校生は正体不明⁈ <ⅵ>

 固いものがぶつかる鈍い音に続いて、どさりと何かが地面に落ちる音が響いた。

「神崎様!!」

 柊の叫び声が暗闇に消えていく。

 不気味な沈黙の中、黒くもつれ合った塊を、譲たちは食い入るようにして見つめた。


 隼斗は額の寸前で鉄パイプを受け止めていた。地面から半身を起こした仰向けの姿勢で、自分のパイプを掲げて持ちこたえている。しかしじりじりと、全体重をかけてくる相手に押しつぶされていく。

 すかさず駆け寄ろうとした柊は、目の前に突き出された拳に行く手を阻まれた。間髪を入れず繰り出された蹴りを、振り向きながら両腕で受ける。

「おいおい、他人の心配してる場合かぁ⁈」

 黒服の男は甲高い声をあげ、ここぞとばかりに攻撃を繰り出し攻め立てた。柊はそれらを受け流しながら、隙を見ては隼斗の方へ近づこうとするのを阻まれ、顔を歪めている。

 

 譲は助けを求めるように博史の顔を見た。

「ヒロ……あれ、冗談だよな?」

 博史は目の前の光景を見つめたまま、どこか上の空な様子で、抑揚のない声でつぶやいた。

「誰か大人を呼びに行こう……俺たちじゃ何もできない」

「……でもっ」

 譲は直感で感じ取っていた。助けを呼びに行っていたら間に合わない。背筋を冷や汗が伝っていく。あれは演技なんかじゃない、本物だ。転校生二人も、男達も、本気でお互いの命を狙っている。

 博史の言うとおり、自分たちが行っても邪魔になるだけだ。頭ではそう分かっていたが、博史に引っ張られている左腕はかすかに抵抗していた。


「ジョー、早く」

 博史の声が遠くに聞こえる。嬉々として転校生二人を追い詰めていく男たち、悲痛な声で隼斗を呼ぶ柊、諦めたような表情の隼斗。四人の顔を交互に見回し、どこかに突破口がないかと頭をフル回転させた。

 視界の端に、広場から転がってくるサッカーボールが映り込んだ。


 譲は腕を振りほどいて茂みから飛び出した。

 ボールを拾い上げて走り出す。後ろから追いかけてくる博史の声を振り切り、地面を蹴ってぐんぐん加速する。体の震えを吹き飛ばすように大声を張り上げた。

「ぉぉおらー! 待てー!」

 声はかすれて裏返ったが、隼斗に馬乗りになっていた男は不意を突かれて顔を上げた。譲はボールを宙に浮かせて、思い切り足を振りぬいた。

「必殺ーーー!! バナナシューーート!!」

 力強い打撃音とともに、白い弾道が空を切る。

 見当違いの方向に放たれたボールは、男の顔に吸い寄せられるように大きな弧を描いて飛んでいった――が、少しばかり角度が足りなかった。

 男は首を少し傾けて簡単にボールをかわした。男の鋭い眼光に睨みつけられた譲は、ひっと息をのんでその場で固まった。


 その僅かな時間で十分だった。

 隼斗は素早く身を翻し、男を押し倒して組み伏せた。抵抗する暇を与えず、脚をがっちりと相手の首に絡ませ絞め技をかける。数秒間じたばたと手足を動かしていた男は、やがて力なくぐったりとして動かなくなった。

 もう一人の男が仲間の方を振り向いた瞬間に、柊がその胸元に潜り込んだ。

「他人の心配してる場合かな?」

 鈍い音を立てて、みぞおちに重い突きがめり込む。男はヒキガエルのようなうめき声を上げて崩れ落ちた。


「すげぇ……」

 譲はその場に立ち尽くしていた。体中の血管がどくどくと脈打つのを感じながら、目の前の転校生たちに釘付けになっていた。

「神崎様、お怪我は?」

 柊が傍に駆け寄ると、隼斗は気絶した男を地面に転がしてゆっくりと立ち上がった。

「ない。お前は俺が劣勢になった時にいつも動揺しすぎだ」

「申し訳ありません」

 いつものぶっきらぼうな口調に、柊は頬を緩めて隼斗の服についた土埃を丁寧に払う。二人は腰につけたバッグから長い縄を取り出し、黒服の男たちを縛り始めた。

「ジョー! 大丈夫か!」

 後ろから追いかけてきた博史が肩に手を置くと、譲は我に返って博史の方を振り向いた。

「お、おう」

 譲たちは為す術もなく転校生たちの様子を見守っていた。隼斗と柊は慣れた手つきで男二人の手足を縛り終えると、譲たちに正面から向かい合った。

 四人は無言のまま、しばらく互いに探るような視線をぶつけあった。


 痺れを切らした譲が沈黙を破った。

「お前ら……いったい何やってたんだ? ていうか何者なんだ⁈」

 隼斗は一度視線を反らしたが、再び冷たい目で譲を睨みつけて感情のない声で言った。

「お前らこそ、どうしてここにいる。関係ない奴が割り込んでくるんじゃない」

「な、何っ⁈ よく分からないけど危なそうだったから助けてやったのに、その態度は何だよ!」

 譲は隼斗に一歩詰め寄り、顔を赤くして食ってかかった。柊が素早く二人の間に体を滑り込ませる。

「まあまあ、二人とも落ち着いて……神崎様」

 柊は隼斗に身を寄せて耳打ちをした。

「本当のことを話した方がよろしいのでは……。本宮君は奴らに顔を見られてしまいました」

 隼斗は小さく唸り、眉尻を下げて困ったような微笑みを浮かべる柊と、じっとりとした視線を送ってくる同級生二人を何度か見比べた。そして、観念したように肩を落とし、重い口を開いた。


「俺は……神崎グループ現社長の息子、次期社長第二候補の神崎隼斗だ」

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