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隣のアイツはお偉いさん⁈  作者: 海野 仁結
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第1章 転校生は正体不明⁈ <ⅳ>

 窓から茜色の夕日が差し込む、放課後。

 博史は静まりかえった無人の図書室を出て、入口の看板を『終了』に裏返した。ポケットから細長い鍵を取り出して何度か鍵穴に抜き差しするが、何かがつかえてうまく回らず、眉を寄せて舌打ちをする。

 その背後から、バタバタと騒がしい足音が迫ってきた。

「……ぉおお~~い、ヒ~~ロ~~~~!」

 博史がすばやく身を屈める。その瞬間、右足を振り上げた譲がすごいスピードで頭上を通過し――みしっという音とともに、重い蹴りが扉の真横五センチの位置に命中した。

 カチャリ、と音を立てて鍵が閉まった。

「……もう少し安全な方法がいいんだけどな、ジョー」

「これが一番早いんだって! 委員の仕事終わったんなら、一緒に帰ろうぜ!」

 屈託のない笑顔で見つめてくる譲に、博史は苦笑いしながら頷いた。


「今日は部活の助っ人には行かないのか?」

「今週はどこも練習試合ないみたいでさー。忙しい時期はトリプルブッキングするくらい詰まってるんだけどな!」

「さすが、運動部の『切り札』は辛いねぇ」

 赤く染まった廊下を二人が並んで歩いていく。

 特定の部活には入らず、あらゆる運動部で助っ人として活躍する譲。生徒会の仕事や塾通いをこなし、暇な時間は図書室に入り浸っている博史。性格が正反対な二人はなぜか気が合い、予定があう日はいつも一緒に下校していた。

「それにしても、あの神崎ってやつは何なんだよ!」

 譲が口をとがらせて言った。

「給食の時間も昼休みも誘ったのに、毎回無視してくるんだぜ! そのくせに、ヒロしか解けないような数学の問題はスラスラ解くし、体育の五十メートル走は俺と競り合ってくるし、クラスの女子はみんな目がハートだし……」

「女子のことは知らないが……あんまり他人とつるまないタイプなんだろ。クラスメートになったんだし、うまくやっていくしかない」

 博史は絶えず呪いの言葉のように愚痴を吐き出し続ける譲を促し、靴箱の方へと歩みを進めた。


 薄暗い廊下の向こう端から、小さな人影が近づいてきた。

 濃いグレーの制服を着た少年が譲たちの方へ歩いてくる。夕日に照らされて輝く金髪に二人が目を奪われている間に、少年は音も立てずに滑らかな足取りで近づいてきて、二人の目の前で立ち止まった。

「初めまして。君たちが本宮君と相川君だね?」

 少し高めの柔らかい声で、少年が問いかけた。

 その顔には長いまつ毛と大きな目、自然なえくぼがバランス良く並んでいて、女子であれば『美人』に分類されそうな容姿をしている。少年は束ねられた金髪を揺らして、二人に微笑みかけた。

「お、おう。俺が本宮、こっちが相川。お前、もしかして……」

「やっぱり! 僕は二年B組に転校してきた天城(あまぎ)(しゅう)だよ。よろしくね!」

 柊は自己紹介をするとにっこり笑って手を差し出した。その和やかな笑顔に、様子をうかがっていた譲も肩の力を抜いて握手を返す。

「よろしくな、天城! ……そうだ、今度一緒にサッカーしないか?」

「ああ、本宮君はスポーツが得意なんだよね! 上手くなるコツ、僕にも教えてほしいな」

「おう、いいぜ! お前いい奴そうじゃん。仲良くしようぜ! ほら、ヒロも!」

 譲と柊は早くも手を取り合って盛り上がっている。博史は注意深く柊を見つめていたが、譲に促されてしぶしぶ手を差し出した。

「……よろしく」

 柊はしっかりと博史の手を握り、「よろしく!」と笑顔で返した。


「天城」

 背後から低い声が飛んできた。三人が振り返ると、そこにはいつにもまして不機嫌そうな顔をした隼斗が立っていた。

「神崎さ……神崎君!」

「何してるんだ、帰るぞ」

 驚いて声を失う譲たちをよそに、柊は顔を輝かせて隼斗の方へ駆け出した。昔からの親友か、はたまた主人に呼ばれた忠犬かのように隼斗の横に走り寄る。

 譲は目を丸くして言った。

「神崎と天城って……友達なのか?」

「うん、転校生同士で仲良くなったんだ! ね、神崎君!」

 まぶしい笑顔を浮かべる柊とは対照的に、隼斗は不満げに鼻を鳴らして無言で歩き出した。譲たちには目もくれずに立ち去る隼斗を、柊が慌てて追いかける。

「待ってくだ……待ってよ、神崎君! じゃあね、本宮君、相川君!」

「おう、また明日なー!」

 呆然と見送る二人を置きざりにして、異彩を放つ転校生二人は廊下の向こうの方へと消えていった。

 

「あんなに性格いい天城と無愛想な神崎が友達だなんて、不思議なこともあるもんだなー」

 うんうんと頷く譲の横で、博史は黙りこんだまま眼鏡をくいっと持ち上げた。それは何かを考え込んでいる時の癖だった。

「……どうして天城は俺らのことを知ってたんだ? それに、何か違和感があったような……」

「神崎から俺らの話聞いてたんじゃねーの? そんなことより、俺らも帰ろうぜー」

「……おう」

 博史はもう一度目を細めて二人が消えていった暗がりをにらみつけると、頭の中の疑問を消し去るように首を振り、譲の後を追って駆け出した。

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