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隣のアイツはお偉いさん⁈  作者: 海野 仁結
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第1章 転校生は正体不明⁈ <ⅱ>

 その日何度目かのチャイムが、十三時を告げた。


 校舎から飛び出した生徒の大群がグラウンドに押し寄せる。群れの先頭を走る譲は、一目散にサッカーゴールに駆け込んだ。

「よっしゃー! 昼休みだー!」

「ジョー! お前給食の時間以外ずっと寝てたくせに、いきなり元気になりやがって!」

「失礼だな、家庭科の調理実習も起きてたって! いいから早くサッカーしようぜ!」

 譲に続いて数人の生徒がゴールになだれ込み、大騒ぎしながらサッカーが始まった。他の場所でもドッジボールやバレーボールが始まり、グラウンドはあっという間に埋め尽くされた。


 同じ頃、校舎脇に植えられた並木の中に、風もないのに枝を不自然に揺らしている木があった。

 その生い茂った葉の下では、二つの影がうごめいていた。時折差し込む木漏れ日に、黒髪と金髪が照らされている。枝の隙間からのぞく四つの目は、グラウンドにいる生徒たちの様子を観察していた。

 透き通るような薄茶色の瞳が、一際騒がしい少年の姿を捉えた。

『本宮譲。あだ名はジョー。スポーツ万能で、明るく活発、積極的な性格。成績はよくありませんが、誰とでも仲良くなろうとする社交性があるようです』

『“要注意人物”か』

 譲が校舎の角にある図書室に向かって手を振る。窓際の棚に本を並べていた少年が譲の姿を見つけ、苦笑いをして手を振り返した。

『相川博史。あだ名はヒロ。成績は常にトップクラスで読書好き、生徒会にも所属しています。おとなしい性格ですがかなり切れ者で、生徒や教師から一目置かれているようです』

『こいつも“要注意”……』


 譲は博史と目が合うと腕をぐるりと回してゴールを指さし、一直線にドリブルを始めた。迫りくるディフェンスを流れるようにかわし、ボールを宙に浮かせ、自分も空中へ飛び上がる。

 無駄のない軽やかな身のこなしに、その場の誰もが時間の流れを忘れて目を奪われていた。グラウンド中に響き渡る大声で、譲は高らかに宣言した。

「オーバーヘッドぉぉぉ!!……」

 完璧なシュートフォームだった。しかし、ぴんと伸ばされた足が最高地点に達した時、ボールはすでに地面へと吸い寄せられていた。万有引力の法則には逆らえず、譲の体もボールの後を追う。

 ゴツッという鈍い音とともに、譲は頭から墜落した。

「ジョー!」

 グラウンドにいた生徒たちがゴール前に駆け寄る。博史も慌てて図書室を出て、校舎の外階段を降りてくる。

『……あいつ、馬鹿なのか?』

『そのようです』


 様子をうかがう人だかりの中心で、譲は大の字になって伸びていた。息を切らして駆け付けた博史が呼びかけるが、虚ろに半目を開けたままぴくりとも動かない。

 博史は心配そうに見守る生徒たちの方を振り返り、早口で言った。

「俺は先生を呼んでくるから、こいつの頭を動かさないようにして――」


 ぐごごごご……きゅるるる……という不気味な音がその言葉を遮った。

 生徒たちが何事かと辺りを見回した瞬間――突然、譲がむくりと起き上がった。わあっという声とともに集団の輪がばらける。まだ焦点の定まっていない譲の目を、博史が用心深くのぞき込んだ。

「ジョー……? 大丈夫か?」

 譲はゆっくりと博史の方に顔を向け、何か言いたげに口をパクパクと動かしている。

 そして何度目かに、ぼそりとつぶやいた。

「…………腹減った」

「おま……お前はっ……給食……食ったばっかりだろうがっ!!」

 博史が肩を震わせ、譲の頭を思い切りひっぱたいた。「痛ぇ! ケガ人に何するんだよ!」と非難の声を上げる譲はすっかり元の顔色を取り戻していた。

 ぴんと張りつめていた空気が緩み、無数のため息と「やれやれ」という呆れ声を合図に、人だかりが元の場所へと散っていく。

 昼休みの終わりを告げるチャイムがグラウンドに鳴り響いた。


 来た時と同じように群れになって校舎へ戻っていく生徒たちを眺めながら、金髪の影が言った。

『彼、無事だったみたいですね』

『……くだらん。下見は十分だ。帰るぞ』

『はい』

 人けのなくなったグラウンドを背にして、二つの影が塀の外側へ飛び降りた。黒のシャツに細身の黒ズボン、黒の帽子という地味な格好をした中学生くらいの少年が二人、音もたてずに地に降り立った。

 少年たちは一度だけ学校の方を振り返ると、休止していた散歩を再開するかのように平然と歩き出した。彼らは大通りの方へと足早に進み、行き交う人々の流れに紛れてどこかへと消えていった。

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