翼の無い天使
人は文明を進ませすぎた。空を飛び、魔法を扱い、物質を作り出す者まで現れた。
ある日こう思う人間が現れた。
「私達は、もう神にも等しい存在となれるのでは?」
こう考えた者は共感する者達を集め、巨大な空中庭園を作ったのち、その庭園で暮らし始めた。
ある日堕落した人間がこう思った。
「俺達は、もう魔王にも等しい存在となれるのでは?」
こう考えた者は仲間を集め、地中深く、太陽の光も届かない場所で暮らし始めた。
…それから1000年後。この世界は2つに分けられ支配下に置かれた。1つは空の民が支配する大陸。2つ目は地の底の民が支配する大陸。その境界では常日頃から争いが起きていた。彼らは思想こそ違うが目的は互いに1つだけ。
【世界の全てを自らの支配下に置く。】それだけだ。
1話 翼の無い大天使
朝目覚め、窓を見ると空には太陽と巨大な城がある。見慣れた光景だ。19年間見続けてきた光景である。
「お兄ちゃん!朝ごはん冷めちゃうよ!早く降りてきて!」
妹の声だ。俺にとってその声が朝の目覚まし代わりになっている。
「今行く。少し待ってろ」
俺は寝間着から仕事の服に着替え、食卓へ行った。朝の珈琲とポーチドエッグ。妹のテンプレと言っていいメニューだ。
「またこれかよぉ、そろそろ新しい料理考えたら?多少なら教えるぞ?」
「お兄ちゃんに教えてもらうほど下手じゃありません~」
などと生意気なことを言いながら妹は自身の支度をしている。
彼女は兵士養成学校に通う16歳の少女だ。大昔はこの頃の女子を「JK」と呼んでたらしい。果たしてどんな意味なのだろうか。
「お兄ちゃん今日も遅いの?」
「んー、まぁ昨日みたいに深夜ではないだろうが少し遅いかもな」
「そっかー、帰ってきたらまた仕事のお話聞かせてね!」
妹は満面の笑みでこっちを見る。
「ああ」
そう言うと妹は「行ってきます!」と元気な声で言って家から飛び出して行った。
「行ってらっしゃい。頑張れよ。カナ」
このセリフは毎日言っているが妹には1度も聞こえていない言葉だ。
食器を片付け、魔道具のポーチと一本の剣を持つと俺も家を出て城に向かった。
「今は8時20分。まぁ会議は4分遅れってとこかな」
そんなことを考えながら城の巨大な中央階段を上っていく。そして8時34分。会議が行われている部屋の前までたどり着いた。「コンコン」とドアをたたき会議室の中へ入ると
「遅いぞ下民」
「神聖かつ重要な会議に遅刻とは何事か!」
等々数々の罵声を浴びながら自身の席へ座る。
「すいませーん、二度寝しましたー」
と、絶対普通の職場では即クビの発言を平気で言う。
そういえば俺の自己紹介がまだだったね。俺の名前は…
「大天使長第6席マルス。会議に出席いたしまーす」
別名「地上上がりの翼の無い大天使」だ。